天才が活かされる時、活かされない時
NHKに「映像の世紀バタフライエフェクト」という番組があります。「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」(NHK HP)をコンセプトとした番組です。
この番組の5月29日放送は、「ベトナム戦争 マクナマラの誤謬(ごびゅう)」でした。
マクナマラ(1916-2009年)とは、アメリカのケネディ、ジョンソン政権で国防長官を務めた人物です。天才と呼ばれたマクナマラは、第二次大戦時に米軍で分析能力を発揮した後、フォードで業務改革に努め、社長まで上りつめます。その能力を買われ、ケネディ政権では国防長官に就任します。
マクナマラが国防長官であった間、アメリカはベトナム戦争に深入りしました。当初、ベトナムの問題を冷静に分析したマクナマラは、ケネディとともにベトナムから撤退しようとしますが、ケネディは暗殺されます。
ケネディの後を継いだジョンソンは、敗北の大統領と言われることを恐れ、ベトナム戦争に更に深入りしていきます。
ジョンソンの方針に忠実に従ったマクナマラは、戦争を勝利に導く為に「敵の死亡者数」などの目標指標を設定し、その目標達成にまい進します。しかし、ベトナムの愛国心、また米国の反戦感情は、マクナマラの目標指標が達成されても、戦況を有利にすることができませんでした。
いつの日がジョンソンと対立するようになったマクナマラは、国防長官を解任されます。その後、目標指標を達成しながらも勝利できなかったことから、データ上はよくなっても現実はよくならないことを「マクナマラの誤謬(ごびゅう)」と呼ぶようになりました。
この話、マクナマラの目標設定に問題があった為、目標達成しても現実はよくならなかったようにも思えます。しかし、この話の本質は違うところにあるのでは、と私は考えます。
それはマクナマラのように能力が高い人がどれだけ分析しても、その上司が示す方針が間違っていては、その能力や分析が活かされない、ということです。
はじめの上司であったケネディ大統領は、マクナマラの分析を踏まえてベトナムから撤退しようとしました。ケネディが生きていた時は、キューバ危機も含め、マクナマラはよく活かされていたと思います。
しかし、体面にこだわるジョンソン大統領になり、マクナマラの能力は大統領の無理な方針の実現に費やされ、ケネディのようにその分析能力から方針が決まることはなくなりました。それが無理な目標設定に繋がり、目標実現で現実がよくならなくなった原因ではないでしょうか。
非常に有能な人がいたとしても、その上に立つ人により能力が活かされることもあれば、活かされないこともあり、むしろ死なせてしまうこともある。「マクナマラの誤謬(ごびゅう)」はそんなことも感じさせます。
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