おまえら、もっといかがわしくなれ!
先週、「起業の天才!:江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」(東洋経済新報社)を読んでみました。本書は本当に面白い本で、あまりビジネス書をお酒を飲みながら読まないのですが、本書はお酒に酔いながらでも楽しめる本でした。内容もさることながら、著者の大西康之さんの表現力も高いと感じます。
さて、江副浩正さんが創業したリクルート。私たちの世代(団塊ジュニア世代)にとって、政界に多くの未公開株をばらまいたリクルート事件は思春期に流れていた大きな政治スキャンダルでした。当時は今の裏金問題の比ではないくらいの政治不信が流れ、そのこともあり1989年の参議院選挙では自民党は惨敗しました。なんとその27年後の2016年まで自民党は参議院で過半数割れが続き、政権が安定しない理由の一つとなっていました。それくらい影響を与えた事件だったのです。
江副さん自身は本当に時代の先を読む経営者だったと思います。現在のAWSなどのクラウドサービスに通じるホスティング事業を先駆けて手掛け、世界にまたをかけたデータ事業を目指していました。リクルート事件で頓挫しましたが、この事業が成長していたらGAFAに対抗できていたかもしれません。
また、創業時から発展した情報流通産業はリクルートのコア事業として海外含め成長し、リクルートから飛び出している人材は各界で活躍しています。これも社員の主体性を育てていた江副さんのDNAなのでしょう。
ただ一方で、本書を読んでいる限りでは、創業当初は質素倹約を地で行っていた江副さんが、徐々にお金や欲望に流れ、人間が変わっていった様子もうかがえます。既得権者に挑戦したこともリクルート事件の一因かもしれませんが、その変化の果てにリクルート事件もあったのかなとも感じます。ただ、そのことをもって江副さんが特異であったと断罪するよりも、その大小はともかく、人間誰しも陥ることとして、心にとどめたいものです。
なお、本書の最後のくだりで、江副さんが所有していたリクルートの株を譲り受けたダイエーの中内さんが、リクルート事件やオーナー変更で気落ちする社員に対して、これまでのリクルートの取り組みは全て間違っていたわけではなかったとして、「おまえら、もっといかがわしくなれ!」と鼓舞するシーンがとても印象的でした。
ただ、この一節だけ読むと中内さんの鼓舞に胸がすっきりしそうなのですが、その後、その中内さんが率いるダイエーは破綻してしまいました。つくづく、人間の栄華盛衰とは難しいものだと感じます。