アジアの豊かさがヨーロッパの産業革命、繁栄を生んだ
他地域の豊かさを傍観するのではなく、その地域との交易を通じて豊かさを取り込む。また、その地域と競合することが革新を生み、結果として自分達も繁栄する。
そんな現代にも通じる原理を、「東インド会社とアジアの海」(羽田正著)を読んで感じました。
もともとはアジアの香辛料を求めてポルトガルから始まった大航海時代。ポルトガルに続いてスペイン、オランダ、イギリスと広がり、オランダ、イギリスは東インド会社をつくって組織的なアジア貿易を展開します。
貿易の対象は香辛料からはじまり、綿織物や茶、鉱物(銀など)などに広がっていきます。
ヨーロッパ・アジア間だけでなく、アジア間の貿易を仲介するなかで、ヨーロッパには富が蓄積されます。
また、インドの名産であった綿織物はイギリスに運ばれましたが、これはイギリスの織物業者に打撃を与えます。この状況を打破するため、蒸気機関を活用した織物機械が開発され、大量の綿織物をつくることができる生産革新が生まれました。これがヨーロッパに繁栄をもたらした産業革命のはじまりです。
インドの綿織物との競争がなければ、蒸気機関や織物機械も開発されず、産業革命は生まれなかったかもしれません。競争があったからこそ、産業革命は生まれたのです。
また、本書では香辛料や茶では革新が生まれなかったのに、なぜ織物業で革新が生まれたのかも分かりやすく解説しています。
その他、本書ではアメリカの名門イェール大学が東インド会社幹部の私貿易で稼いだお金で設立されたことや、日本との貿易ルートが大変儲かっていたために徳川幕府が鎖国という貿易管理をオランダに強いることができたなど、大変面白いエピソードが沢山ありました。
本書は学術書で、羽田先生は東大副総長までつとめた方ですが、その分かりやすい表現も学びとなりました。