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電気のおはなしその71・人間は電気で動いている(2)

前回は、主に人間の筋肉が力を生み出す現象や、そのトリガとなる神経伝達の話をしてみました。人間の筋肉が力を生み出す仕組みの大元は静電気で、それによって心臓の筋肉もその他の筋肉も動いている、すなわち人間は電気仕掛けで動いているというお話でした。

では、さらにその大元である、脳内の話をしてみますよ。

人間の体は、心臓の筋肉に電気指令を送る神経のほか、体の各部の筋肉に電気指令を送る神経があり、それとは逆に、触覚や嗅覚、視覚などの感覚器官から得た情報を脳に送る神経もあります。それらの情報、すなわち電気信号を受信したり、送信したりしているのが脳です。
脳内では、様々な情報を処理しているわけですが、記憶や学習に関してはニューロンやシナプスによる電気信号のやり取りであることが分かっています。つまり、人間の記憶や感情なども、全て電気の情報ということになります。

人間の記憶や感情なども、すべて電気信号である。

これは実に色々な示唆を含んでいます。
私が色々なところで授業や講座をするとき、たまに話すことなのですが、

  1. 人間の脳の働きは電気信号のやり取りである。

  2. 脳の一部を取り出して、外部に全く同じ働きを持つ電気回路を作って結合し、脳の神経と電気信号のやり取りができるようにすれば、恐らく本人は全く気が付かないはず。

  3. そのようにして次々に脳を電気回路に置き換えていけば、やがて脳の働きの全てが電気回路になってしまう。それでも本人は気が付かないはず。

…理論上、それは可能なはずですが、そうやって100%電気回路の人間になったとき、自分の心とは何か?アイデンティティとは何か?自分とは一体、その回路の中のどこにある?と考えると、これはもう哲学の話になってしまいますね。しかし、

人間の脳の働き、感覚器や神経の働きなどは全て電気信号のやり取りである

ということを考えれば、理論的には間違っていないはずです。

また、これを逆に考えることもできます。SF的な話にはなりますが、人間の脳内の働きが電気信号のやり取りであるということは、それとまったく同じ働きを持つ電気回路が理論的には作成可能ということになります。遠い将来、飛躍的にロボット技術が発達し、いつしか人間とまったく同じ能力、全く同じような感情や情動を持った機械を作り出すことができたとしたら、それは人間と言えるのだろうか?

現実的には、人間の脳と同じ働きを持つ電気回路は、余りにも規模が膨大になりすぎるため、近い将来に作り出すことはできないでしょうし、遠い将来に至っても多分無理だとは思います。でも、「人間そのものが、実はすべて電気で動いている」というのは、言われてみればそうだとは言え、なかなか考えさせられる話かもしれませんね。

電気回路とか電気機器などの話に深入りしすぎたのはちょっと失敗だったと思っています(そういうのは、「電験のおはなし」みたいなのを新たに立てたほうが良いですね)ので、当面はこういう感じで視点を変えた話にしたいと思っていますよ。

以上。

…そうそう、余談。
前回と今回、生物学について分かったようなことを書いていますが、実は高校時代、生物学は必修なので履修したものの、正直あまり興味はありませんでした。しかし、中学校の理科の教員免許を取得する際、大学で生物学の講義を取る必要があり、科目履修生として大学に出戻ったのですが、その際に使用したテキストが「アメリカ版 大学生物学の教科書」でした。
ちゃんと理解するためには、ある程度の化学や生物の基礎知識は必要ではありますが、大雑把な概要を掴むだけなら前知識なしでも読める名著だと思います。特にコロナウイルスが社会問題になって久しい昨今、是非ともご一読をお勧めしたい書籍です。(現在は新版が出ていますが、ブックオフなどで旧版が安く手に入った、というのでも十分だと思います)

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