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【週刊少年ブーマーズ第2話】Boomersが選んだ道は正しかったのか?~PattyとGiddeyの共存と、パリ五輪オーストラリアバスケ男子代表の理念について考える~

G'day mate. オーストラリアバスケファンのkellyです。今回は7月中旬にパリ五輪に向けて行われた、オーストラリアバスケ男子代表の親善試合について書きました。メンバー選出に賛否両論あったこのチームはどんな戦いを見せたのか。そこから見えてきた今回のチームの特徴を、GiddeyとMillsのダブルエースを中心に自分なりに考えてみました。パリ五輪でオーストラリア代表を観る際の参考にしてもらえたら嬉しいです。

1.はじめに

 いくつかの苦渋の決断もあった中、攻守においてバランスのとれた(と思われる)ロスター構成となったバスケットボールオーストラリア男子代表、通称Boomers。その選考過程については前回の第1話で詳しく書いているのでぜひ読んでもらいたい。

 そして7月末のパリ五輪本番を前に、アメリカ、セルビア、プエルトリコ、フランスといった強豪国との親善試合が設けられた。7月頭にメルボルンで開催された中国とのエキシビションマッチは、12名のロスターも確定しておらず、「選考のためのテストマッチ」という意味合いが強かった。一方で、ロスター決定後に臨んだこの4試合は、12名でどのようなローテーションを組み、何を強みとして戦っていくのか、チームのスタイルに関して深く考えていくプロセスとなっただろう。
 また、Matisse Thybulle(マティス・サイブル)やChris Goulding(クリス・ゴールディング)、Xavier Cooks(ゼイビア・クックス)といったキーピースを欠いたロスターに、少しの不安を抱いていたわれわれファンにとっては、Brian Goorjian (ブライアン・ゴージャン)ヘッドコーチ含むコーチ陣の判断が果たして正しかったのか、その答え合わせをしていくような一週間になったのではないだろうか。
 では早速このチームが何をしようとしているのかについて見ていこう。

2.Boomersパリ五輪チームのアイデンティティとは?

 まずは4つの親善試合におけるメインローテーションと試合結果を確認していく。カッコ内は4つの試合の出場時間の平均だ。怪我人がいた試合もあるため、実際の出場時間の印象は必ずしもこの数字の通りではないが、上位9名がメインローテーションとして時間を共有し、Joe Ingles(ジョー・イングルス)、Duop Reath(デュオップ・リース)、Matthew Dellavedova(マシュー・デラべドーバ)の3名は状況に応じて数分出場する、というのが基本方針のようだ。

【Starter】
Josh Giddey(26)
Dyson Daniels(24)
Patty Mills(25)
Nick Kay(24)
Jock Landale(20)

【Bench】
Josh Green(17)
Dante Exum(15)
Will Magnay(14)
Jack McVeigh(12)
Joe Ingles(8)
Duop Reath(7)
Matthew Dellavedova(6)

【Game results】
L Australia 92-98 United States
W Australia 84-73 Serbia
W Australia 90-75 Puerto rico
W
Australia 83-82 France

結局のところ、Goorijianの掲げるチームアイデンティティは東京五輪から始まったこの4年間のプロジェクトで一貫していたように思える。それはアグレッシブでボールプレッシャーを絶やさない統率のとれたディフェンス、そしてそこから繰り出される強力なトランジションオフェンスだ。選手たちは4つの試合で見事にこれを体現していたように思う。
 Dante Exum(ダンテ・エクサム)、Josh Green(ジョシュ・グリーン)、Dyson Daniels(ダイソン・ダニエルズ)はフルコートでボールプレッシャーを与えながら、バックコートでボールを刈り取るチャンスを虎視眈々と狙い、相手のターンオーバーを量産し続けている。実際オーストラリアはアメリカから18個、フランスから22個のターンオーバーを誘発し、セルビアに対しては3Pを3/22で封じ込め、得点も73点に抑えた。その効果は本物だろう。Nick Kay(ニック・ケイ)は相変わらず派手さはないものの、主にインサイドディフェンスのキーストーンとしてBoomersに安定をもたらしている。さらに今回新たに加わったJack McVeigh(ジャック・マクベー)、Will Magnay(ウィル・マグネー)らも、攻守両面においてサイズとフレキシビリティを与え、アメリカ、セルビア、フランスといった強豪国に対する堂々たるプレーぶりからは、彼らのハートの強さをあらためて感じさせられた。
 この6名が中心となる穴のないディフェンスに、Josh Giddey(ジョシュ・ギディー)のPick and roll、そしてPatty Mills(パティー・ミルズ)のシューティング、これらが中心となるハーフコートオフェンスを加えた、それが今のBoomersの姿である。

 特にBoomersのハーフコートオフェンスはJosh GiddeyとJosk Landale(ジョック・ランデール)のコンビから始まる、と言っても過言ではないだろう。パリ五輪チームのオープニングナイトとなったアメリカ代表との親善試合で、Giddeyは17得点8リバウンド7アシスト、Landaleは20得点7リバウンド6アシストを記録した。特にGiddeyのパス能力とLandaleの機動力に支えられたPick and rollは、NBAのオールディフェンシブチーム選出プレイヤーを抱えるアメリカ代表でさえ手こずっていた。

 このインパクトもあってか、セルビアやフランスは中に侵入してくるLandaleに対して手厚くヘルプをしてきたが、そうなれば外で待ち構えるガード、ウィング陣にGiddeyからパスが供給され、3Pやカウンタードライブといった選択肢でアドバンテージを取っていく。本格的にタッグを組むのは今回が初めてと言っていいと思うが、GiddeyとLandaleのPick and rollとそこから生まれる波及効果は、Boomersのハーフコートオフェンスを循環させるための心臓となっている。しかし、対アメリカ戦でこの二人が活躍した裏で、これまで長くオーストラリアを支えてきた男は調子が上がらずにいた。この4試合を通して、Patty Millsが本来の姿をどのように取り戻したのかについて話して行こう。

3.GiddeyとMillsは共存できるのか?

 この4つの親善試合は、GiddeyとMillsが共存できる形を探す旅でもあったのかもしれない。メルボルンの中国戦に続き、対アメリカ戦もFG2/8の計5得点という不発に終わったPatty Mills。彼の姿を見て、GiddeyとMillsを同時に出場させることを不安視したファンもいたのではないだろうか。実際こういった議論は色々な場所でされていたように思う。

GiddeyはトップからビッグマンとのPick and rollを中心にオフェンスを展開していくビッグガードだ。ロールしたビッグマンへのパス一発でイージーバスケットを生み出すポゼッションもあれば、チェイスしてくるディフェンダーを背負いながら自らフローターを決めたり、ビッグマンのシールと自身のサイズを活かしてさらにリムの近くまで接近する場面もある。

 一方サイズで劣るMillsは、平面の運動量とその類まれなるシュート力でBoomersのオフェンスを活性化させてきた。スピードのミスマッチをついたアイソレーションはもちろん、ハーフコートを大きく横切るような動きから複数のスクリナーを利用してディフェンダーとのギャップを生み出し、ハンドオフからのプルアップスリーや、シュートを囮にドリブルでペイントエリア付近まで侵入し、お得意のミッドレンジを沈める。これがPatty Millsのやり方だった。

 すべての親善試合で安定した得点力を見せているGiddeyのオフェンスは、間違いなく現時点でBoomersにとってかなり期待値の高い得点パターンであり、現時点では最優先されるべきものだろう。そうなればトップからペイントエリアまで、ハーフコートの中央を縦に覆うような領域はGiddeyとビッグマンのテリトリーとなり、Millsがトップでボールを持つことはもちろん、スクリナーを使って横切るような動きは必然的に制限されていく。より停滞した状態からボールを受けることになるMillsのエンジンは冷え切り、結果としてなかなかショットに火が点かない。これがMillsが不調に陥いる一つのパターンだろう。よくNBAでスーパースターを複数人並べることに対して「ボールは一つしかない」と揶揄されるが、同じようにコートの面積も限られているのである。
 国際大会でMillsが点を取りまくる現象を人々は「FIBA Patty」と呼ぶが、彼が劇的な変化を見せるのはなにもFIBAルールのもとでプレーするからというわけではない(もちろんそれも多少はあるだろうが)。結局のところその原因は、Boomersが彼の運動量とシュート力に依存するオフェンススタイルを取り続けていたことにある。「FIBA Patty」の正体は、ハーフコート全体を使って複数のスクリーンで彼をマークマンから引きはがし、彼にたくさんのドリブルをつかせ、彼にたくさんのシュートを打たせる、Boomersが彼に与える権限の大きさにあるのだ。そしてGiddeyというスコアリングにも長けた有望なPGが登場した今、それがトーンダウンすることもまた必然なのかもしれない。
では、やはりGiddeyとMillsは同時にコートに立たせるべきではないのか?おそらく答えは「No」である。長いけど、もう少し続けよう。

4.独立することで共存したGiddeyとMills

 まず一つの光明を見出したのがセルビア戦だった。第一クォーター序盤、2本の3Pを含む8得点でチームを勢いづけたMillsだったが、その全てがトランジションオフェンスから生まれたものだった。

 Patty Millsの188 cmというサイズは、オンボールディフェンスがしっかりとセットされた状態からシュートに向かうことを妨げる障害にしばしばなっている。これを打開するためにMillsはコートの中を常に走り続けてマークをはがそうとしてきたわけだが、前述した通りハーフコートオフェンスではGiddeyの台頭とともにその機会が少なくなりつつあった。しかし、トランジションオフェンスはその限りではない。相手のディフェンスがセットされていない状態であれば、必然的にマークにズレができMillsはオープンで3Pを打てるないしは、カウンタードライブから得意のミッドレンジを打ち切ることができる。GiddeyのPick and rollが始まる前に、だ。Goorjianが再三口にしているアグレッシブなディフェンスとそこから生まれるトランジション、これは単にイージーバスケットを増やすだけでなく、Millsというチームの中で最も信頼できるシューターに良い形でボールを持たせ、シュートチャンスを増やす効果もあるのだ。ボリュームシューターのMillsにとっては、早い時間帯に簡単な方法でエンジンを温められるに越したことはない。

 さらに、セルビア戦ではNikola Jokic(ニコラ・ヨキッチ)が大胆にドロップしながらゴール下に立ちはだかっただけでなく、チーム全体としてもBoomersのビッグマンのダイブをケアするようなヘルプディフェンスを配置してきたことによって、GiddeyとLandaleのPick and rollがすんなり機能しないシーンが増えてきた。二人の鮮烈なデビューとなった対アメリカ戦があった後、当然の反応と言えるだろう。そしてBrian GoorjianはPatty Millsを使ってこの状況を見事に逆手にとった。Giddeyにイニシエートさせるオフェンスを減らし、ビッグマンのハンドオフからMillsにシュートをどんどん打たせ始めたのだ。これに対しセルビアのビッグマンは過度にチェックに行くことができず、Millsはプルアップジャンパーを量産しただけでなく、スクリーンをかいくぐろうとしたディフェンスからファウルを引き出し、FTからも得点を増やしていった(11本中10本成功)。その結果セルビア戦は28得点(FG7/13、うち3Pは4/7)と、完全に息を吹き返したのだった。
大会前最後の試合となったフランス戦ではこの傾向はさらに顕著となった。Victor Wembanyama(ヴィクター・ウェンバンヤマ)とRudy Gobert(ルディ―・ゴベア)という強力なツインタワーを擁する相手に対し、予想通りBoomersはインサイドで得点することが困難となり、3Pで対抗する場面が増えた(実際その試投数は対セルビア戦からは7本、対アメリカ戦からは12本も増加した!)。こうなるとやはりアウトサイドシュートに長けたPatty Millsに助けを求めることになる。Brian GoorjianはさらにMillsにボールを持たせる機会を増やし、ハンドオフからのシュートだけでなく、トップからも積極的にドリブルをつかせ、スイッチからMills対Gobert、Mills対Wembanyamaの状況を作り出すように仕向けていった。

結局、Millsはその起用に応えるように24得点(FG10/16、うち3Pは3/7)を記録した。ポジティブなのはGiddeyがこの試合、同時に20得点(FG7/16、うち3Pは4/8)を記録していたことだ。Giddeyはアウトサイドシュートだけでなく、Coast to coastで自らレイアップに持ち込むなど、Pick and rollとは関係のない形でも得点できることを証明してみせた。自分がこれまで占有していたハーフコート中央のエリアをMillsに明け渡し、MillsのキックアウトからGiddeyがコーナースリーを沈めたシーンは、このスターティングラインナップに対する信頼を一気に高めたシーンだったのではないだろうか。

 「GiddeyとMillsの共存」、この言葉を聞くと、オフボールで動き回るMillsにGiddeyからフラッシーはアシストが供給されるシーンをつい想像してしまうが、実際そうはならなかった。だがそれでokだ。得点スタイルが異なる二人のハンドラーを並べることは、相手ディフェンスに対する複数の答えを同時にコート上に用意していることに他ならない。Jock Landaleを中心としたBoomersのインサイドに対して相手がどのようにリアクトしてくるか、それによってGiddeyとMillsどちらによりボールを持たせるかを適宜選択し、相手に揺さぶりをかけていく。このようにしてお互いが直接的につながることはなくとも、独立した強力なオフェンシブオプションとして共存することは可能なわけである。そしてこの4試合を通じて、各々のオフェンスをどれだけ強調するか、Goorjianのそのバランス感覚はどんどんと磨かれていったように感じた。今大会中、GiddeyとLandaleの得点が増える一方でMillsの得点が減ったり、その逆もあるかもしれない。しかし、それはあくまで相手の守り方に対して適切な選択肢をとった結果のことであり、過度に反応する必要はもうないのだろう。あとはどのタイミングでどちらをより強調するのか、2枚のカードをGoorjianがどのように切るのかに懸かっているようだ。
 さて、たっぷりBoomersのオフェンスのコアについて話をしたところで、それを支える残りのスターターについても話をしよう。今回のチームの強さを語る上でこの二人は避けて通れない。

5.Boomersの生命線、Dyson DanielsとNick Kay

 Dyson Daniels(ダイソン・ダニエルズ)はこれまでスターターを務めていたMatisse Thybulleのポジションに割って入ったわけだが、現状見事にその期待に応えている。ワールドカップでほとんど彼の出番がなかった背景を踏まえれば、その活躍は多くの人の予想を遥かに上回っているだろう(私も同じだ)。ディフェンスではフルコートでマークマンにマッチアップし常にプレッシャーを与え続けるだけでなく、ダブルチームをかけるために他のポジションにも顔を出し、その守備範囲の広さを見せつけている。その運動能力に加えてディフェンスの読みも非常に良く、淡々とディフレクションを生み出し続けているのも相手にとって脅威だろう。

 オフェンスではDante ExumやJosh Greenらと共にトランジションをプッシュする役割を担うだけでなく、ハーフコートでセカンドハンドラーとしてPick and rollの起点となり、さらに自らドライブ、カッティングすることでオフェンスをより流動的なものにさせている。重要なプレイメイカーであり立派な得点源だ。アメリカ戦のハイライトとなったこのプレーもDanielsのPick and rollから生まれた。

 Josh GiddeyとDyson Danielsを同時に並べたことは、こういった攻撃の起点を増やしただけでなく、常にユーザー側だったGiddeyをカッティングさせ、そこにDanielsがパスを供給するようなパターンまでも生み出し始めている。NBA Academyの頃から一緒に時間を共有してきたこの二人が生み出すプレーは、どこか一朝一夕ならぬものを感じるし、先日の対フランス戦のゲームウィナーもこの二人から生まれたものだった。

プレー成功直後、抱き合う二人の姿を見ると、彼らはやがてMillsとInglesのような盟友として長くBoomersを支え続けるかもしれない、そんなことを思わずにはいられなかった。

フランス戦、ゲームウィナーを決めたDyson Daniels(左)とJosh Giddey(右)


 Nick Kayに関しても代表選出が不安視される声があったが、結局のところコート上で最も信頼のおける選手となった。とにかくディフェンスにおけるポジショニングが的確で、今回のBoomersが掲げるアグレッシブなディフェンスを実現できているのは、彼が相手のインサイド陣にボールを持ちたい場所で持たせていないところが大きい。試合を観ているとNick Kayの有無によるチームディフェンスのクオリティの差は歴然であるように見える。可能であるなら40分ずっとコートにいてほしいくらいだ(実際Bリーグでは40分フル出場をよくやっているのでたぶんお願いするとやってくれる)。いざボールを持たれた1対1の場面でも、NBAの現No.1プレイヤーと呼んでも良いであろうセルビアのNikola Jokic(ニコラ・ヨキッチ)や、昨季のROYであったVictor Wembanyama(ビクター・ウェンバンヤマ)からもTOを誘発してしまっていた。

 オフェンスにおいてはその走力や体格を活かしたスクリーンに加えて、カッティングする選手やインサイドでアドバンテージを取っている選手を見つけてパスを供給するのが上手く、いいハブ役として活躍してくれている。外に開いてからのアウトサイドシュートも上手く形を作れており、現状確率は良くはないがBリーグで最高成功率を誇った経験もあるスリーポイントシューターはいずれ調子を上げてくるだろう。

 3勝1敗(1敗は対アメリカ)という好成績で終えた4つの親善試合は、間違いなくこの二人の安定した活躍によるところが大きい。エースのGiddeyとMillsが互いに補完し合える関係である一方で、実は彼らの代わりはこのチームにいないように見える。いよいよ始まるグループステージ、Shai Gilgeous-Alexandar(シェイ・ギルジャス=アレクサンダー)やLuguentz Dort(ルーゲンツ・ドート)、Giannis Antetokounmpo(ヤニス・アデトクンボ)といったNBAの攻守のエリートたち相手にも、この二人が引き続き同じようなパフォーマンスを見せることができるのか、Boomersにとっての分水嶺となるはずだ。
 さて、ここまでチームの主軸について話をしてきたが、残りはチームの切り札にもなり得る、いくつかの要素について話をしたいと思う。

6.数分間に全てを懸けるMatthew Dellavedova

 Matthew Dellavedovaもまた、代表入りが疑問視された一人であり、ほとんど出場機会は与えられないという見方が多かった。予想通り、4試合の平均出場時間はわずか6分であったわけだが、実際はそれ以上のインパクトを残している。限られた時間の中で、Dellavedovaはオールコートでボールにものすごいプレッシャーをかけ続け、ハーフコートディフェンスをボーカルリーダーとして統率し、トランジションを生み出すためにボールをプッシュし続けた。その結果、対アメリカ戦では第4Q5分の出場で13-5のランを、対フランス戦では3Q終わりから4分の出場で11-2のランを展開したのだった。さすがに彼のオンコートでの効果を見過ごすことはできないだろう。

 Dellavedovaの能力は、プレイメイクやリーダーシップ、バスケットIQなどがよく取り上げられるが、個人的に思う最も語るべき彼の能力は、自分が持つ全ての力をコート上で出し尽くせる部分にあると思う。2015年のNBAファイナルでSteph Curryに対する激しいディフェンスの末に脱水症状になってしまったことを覚えている人もいるのではないだろうか。普通のプレイヤーであればセーブしてしまうところを、本当に倒れる直前までやり切ってしまうのがDellavedovaというプレイヤーだ。たまにやりすぎで怖い。

 Podcast「The Podium Pod」でThe Pick and Rollの記者のJacob Dooleも「彼は5分で400%の力を出そうとしている」と表現していた。試合中の彼をみてもらえればその言葉が正しい表現であることを理解できるはずだ。

いつ声がかかるか分からない、そして短い時間でチームにブーストを与えないといけない。常に準備を怠らず、常に床に倒れるほどの力を出し切れるDellavedova以上にこのロールに適した人間は、世界を見渡してもなかなかいないだろう。
 今回のチームスタイルは簡単に言ってしまえば「激しく守って走り勝つ」、これに集約されるわけだが、このスタイルを40分クオリティ高く実現するためには、試合終盤までコアメンバーがその足を残しておく必要がある。Dellavedovaは対アメリカ戦で、Jrue Holiday(ジュルー・ホリデー)、Devin Booker(デビン・ブッカー)、Anthony Edwards(アンソニー・エドワーズ)といった名だたるプレイヤーたちに死に物狂いでプレッシャーをかけ続け、短い時間であればまだまだNBAのオールスター級の選手に対して激しいディフェンスで対抗できることを証明してみせた。DellavedovaやInglesといったベテランが支える数分間に一定の信頼を置くことができれば、コアメンバーが試合終盤まで強度の高いディフェンスを維持する上でも大きなアドバンテージになるに違いない。
 ちなみに代表で長く時間を共にしているDellyとPattyは相性も良く、両者オンコート時にはこういったPattyらしいプレーが見られるのも長年のファンとしては嬉しい(懐古厨)。


7.Duop Reathの出番はやってくるのか?

 Dellavedovaの活躍と同様に、親善試合が始まってからわれわれを驚かせたのは、バックアップセンターがDuop ReathではなくWill Magnayであったことだろう。現状のメインローテーションは、Matthew Dellavedova、Joe Ingles、そしてDuop Reathの3名を覗く9選手で主要なミニッツを分け合っている状態である。平面の動きの速さでやや劣るDuop Reathは、安定したディフェンスローテーションをもたらす昨季のNBLのDPOY最終候補、Will Magnayに現状出番を譲ってしまった印象だ。

さらに外に開いてからの3Pを得意とするDuop Reathに対して、Will Magnayはその体格とフットワークを活かしてPick and rollからの展開を好み、Boomersのハーフコートオフェンスのスタイルとも食い合わせが良いように見える。昨季NBAで最も躍進したと言っていいBoomerはこのままミニッツを失ってしまうかと思われたが、対フランス戦ではJock Landaleが9分の出場に止まったこともあり、Duop Reathが再びミニッツを獲得した。インサイドを固めてきたフランスに対し、Duop Reathのアウトサイドシュートは効果的で、最終的に2本の3Pを含む10得点で勝利に貢献した。

 Boomersは決して3Pが得意なチームではなく、アウトサイドシュートを期待された新加入のJack McVeighも3Pはここまで低調に終わっている。おそらくReathはBoomersの中でも相対的に信頼できる3Pシューターであり、彼のPick and popからの3Pは強力なビッグマンを擁するチームに対する一つの対抗策になりそうだ。

8.SLOB wizard in Paris

 せっかくなので、最後にもう一つJosh Giddeyの話をしよう。“SLOB wizard”という呼称を聞いたことはあるだろうか?スローインから得点を魔法のように演出するJosh Giddeyに名付けられたあだ名だ。詳しくは下記を見てほしい。

 オリンピックは各グループの上位2チームと、残り6チームのうち勝ち点や得失点差で決まる上位2チームの計8チームがトーナメントに進出する。そのため勝敗が変わらずとも、失点を減らし、得点をなるべく増やすことが重要になるわけだが、時間を使わずに得点できるJosh Giddeyのスローインはこの点でかなりの武器になる。対アメリカ戦では試合終盤、彼のスローインのプレーを立て続けに成功させ、Jock Landaleのand 1を含む計7得点を32秒の間に演出した。

 このJosh GreenやJock Landaleが決めたプレーはおそらくOKCファンならお馴染みのものだろう。「死のグループ」とも呼ばれるグループに割り振られたオーストラリア、得失点差での勝ち上がりも十分に考えられるだけに、グループステージで早くも"SLOB wizard"に頼る場面はありそうだ。

9.残された不安要素

 4つの親善試合を充実した内容で終えたBoomersだが、いくつかの不安要素も見えてきた。
 まずはリバウンドが挙げられるだろう。特に対アメリカ戦や対フランス戦では相手にオフェンスリバウンドを献上し、セカンドチャンスから得点されるシーンが目立った。

これに対してJock LandaleとWill Magnay、Duop Reathの3人のうち2人を同時にコートに置いて、いわゆる2ビッグで対抗しようとするシーンも見られたが、たとえサイズを落としても4番にNick KayやJack McVeighを置いてローテーションに穴が開かないようにする方がメリットは大きそうだった。Josh GiddeyやDyson Danielsといったビッグガード陣もリバウンドの意識は高く、エフォートが欠落しているようには見えない。ただ、リバウンド面でBoomersが圧倒され、得意のトランジションも出せなくなった時に、Goorjianがどのような動きを見せるのかは一つ注目だ。

 もう一つはアウトサイドシュートだ。Boomersはペーパーの上では3Pが得意なチームではないし、これは随分前から分かっていたことでもある。ディフェンスとトランジションを強調したこのチームスタイルが十分に発揮されれば、たくさんの数の3Pを決める必要がないのもまた事実だろう。実際、対アメリカ戦では3Pが4/18と不発ながら、最終スコアの点差は6点だった。しかし、セルビアやフランスがしたようにインサイドを厳しくケアされた場合、キックアウトから外で待ち構えるプレイヤーたちが確実に3Pを決める必要は出てくるはずだ。一点差で勝利したフランス戦では、チーム全体で3Pを12/30と安定して沈められていたことも大きかった。そしてこのアウトサイドシュートの物足りなさをPatty Millsのシューティングで補間できるかは重要なポイントだ。前半からトランジションオフェンスを増やし、Giddeyがボールコントロールする以外の場面でMillsが楽に3Pを沈めるシーンを作り出すことができれば、チームにとって大きな後押しになるだろう。

10.最後に

 賛否両論の12名のロスターが決まった日、あの時頭に浮かんだ問いに今あらためて答えたい。「このBoomersは正しい道を歩んでいるのか?」。4つの親善試合を終えた後、私の答えは「Yes」だ。サイズとスピードに富んだ粘り強いディフェンスと爆発力のあるトランジション、若くて才能あふれるガード陣がタクトを振るハーフコートオフェンス、そしていよいよ本来の姿を取り戻したエースのシューティング。このチームとしてのアイデンティティを強豪相手にも消されることなく、前面に押し出しながら戦うことができているこのチームは、昨年のワールドカップから間違いなく前進しているように見える。そして1番目から12番目まで、全ての選手がきちんとオンコートでインパクトを残せるのもこのチームの強みだろう。
 いよいよ今週7/27(土)、グループステージ初戦のスペイン戦を迎える。このチームの土台がすでに高い水準に達していることはこの準備期間から明らかになってきた。あとはチームの天井がどこにあるのか、ただひたすらに上に手を伸ばしながら、それを探す短い夏の旅が始まる。最後にGiddeyが言ってくれた心強い言葉を置いて終わりたいと思う。

それではまたどこかのタイミングで会いましょう。

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