【週刊少年ブーマーズ第1話】ベストチームになるために、ベストメンバーを選ばなかったBoomers~パリ五輪オーストラリアバスケ男子代表の選考結果について真剣に考える~
1.はじめに
バスケットボールオーストラリア男子代表、通称Boomersのパリ五輪に向けた最終ロスタ―12名が、7/5(金)の朝決定された。
昨年のワールドカップで10位に終わった失意の中、大会後にHCを務めたBrian Goorjian (ブライアン・ゴージャン)は、このチームの課題が①シューティング、②ディフェンスにおけるボールプレッシャー、③サイズとリバウンド、この3点にあったと述べ、ビッグマンと何人かのシューターが必要だと明言した。そして迎えるパリ五輪、この課題をクリアするためにどのようにロスターを変更したのか。まずは今回選ばれた12名の選手と、昨年のワールドカップからのメンバーの入れ替わりを見てみたい。
※括弧内は年齢、身長、直近の所属チーム
【PG】
Josh Giddey (21, 203 cm, Chicago Bulls)
Dante Exum (28, 196 cm, Dallas Mavericks)
Matthew Dellavedova (33, 193 cm, Melbourne United)
【SG】
Patty Mills (35, 188 cm, Miami Heat)
Dyson Daniels (21, 201 cm, Atlanta Hawks)
【SF】
Josh Green (23, 196 cm, Charlotte Hornets)
Joe Ingles (36, 206 cm, Minnesota Timberwolves)
【PF】
Nick Kay (31, 206 cm, Shimane Susanoo Magic)
Jack McVeigh (28, 203 cm, Tasmania JackJumpers)
【C】
Jock Landale (28, 211 cm, Houston Rockets)
Duop Reath (28, 206 cm, Portland Trail Blazers)
Will Magney (26, 208 cm, Tasmania JackJumpers)
【Out】
Xavier Cooks (28, 203 cm, Sydney Kings)
Chris Goulding (35, 192 cm, Melbourne United)
Matisse Thybulle (27, 196 cm, Portland Trail Blazers)
Jack White (26, 201 cm, Melbourne United)
【In】
Matthew Dellavedova, Jock Landale, Will Magnay, Jack McVeigh
昨年、大会直前の怪我で離脱を余儀なくされた正センターJock Landale(ジョック・ランデール)の復帰は既定路線であったが、チームのベストシューターのChris Goulding(クリス・ゴールディング)、ベストディフェンダーのMatisse Thybulle(マティス・サイブル)、さらに昨夏のワールドカップに限ればベストリバウンダーと呼んでよかったXavier Cooks(ゼイビア・クックス)、各分野のエリートプレイヤーが外されたのは多くの人を驚かせた。シュートとディフェンスとリバウンド、これらに難があると聞けば、この3人でその課題を解決しようとするだろう、と誰もが思ったのではないだろうか。さらに言えば、今後のチームの将来を担うであろうThybulleとCooksをカットし、Matthew Dellavedova(マシュー・デラベドバ)やJoe Ingles(ジョー・イングルス)といったベテラン勢を再びロスターに加えたことに対して否定的な意見も多かった。この一見不可解にも思える選出結果にこそ、今回のオーストラリア男子代表が目指すチーム像のヒントが隠されているような気がして、今これをなんとなく書き始めている(この時点ではここまで長くなることに気が付いていない)。
まずは選手選考の過程で起こったことを、7月頭に開催された中国とのエキシビションマッチをベースに順序立てて振り返っていきたい。
2.Jack McVeighの登場によってメスが入れられた4番ポジション
今回の代表選考を複雑なものにさせた原因の一つは間違いなくJack McVeigh(ジャック・マクベー)その人にあるだろう。いきなり多くの人にとってマニアックであろう選手の名前を出して申し訳ないが、知られていないからこそあえて最初に話したい。高確率の3Pに加えて制限エリア周辺のシュート能力も兼ね備えたPFは、昨季NBLでTasmania JackJumpers(タスマニア・ジャックジャンパーズ)を率いて優勝(Dellavedova率いるMelbourne Unitedは彼に決勝で負かされました。涙)、ファイナルMVPにも輝いた今最もホットなローカルプレイヤーの一人だ。203cmというサイズに加え、どこからでもショットクリエイトできる能力とその思い切りの良さ、そしてハートの強さは、間違いなく昨夏のワールドカップでオーストラリア代表が欲していたものであり、NBA経験のある選手たちがずらっと揃う中で、NBLの代表として最終候補に名前を連ねたのも納得だ。残された課題は、実際にオーストラリア代表の中でそのシューティングスキルを発揮できるのか、それを証明するだけだったわけだが、A代表(ここでは主要大会用のチームをこう呼んでいる)のデビュー戦となった7/2(火)の中国戦で、彼は6本の3Pを含むチームトップの24得点をわずか13分の間にあげ、その実力が本物であることを簡単に証明してみせた。
さらに目を見張ったのがその得点内容だ。得意の3Pはキャッチアンドシュートだけでなく、トランジションからのプルアップやピンダウンスクリーンを使ったムービングからの3Pも決めてみせた。これまでPatty Mills(パティー・ミルズ)が何度も見せてくれたようなプレーを203 cmのMcVeighが軽くやってのけたのには驚かされた。ショットクロックが少ないと判断するやいなや、ポストで一対一を仕掛けながらフェイダウェイを沈め、終盤には絶好調の3Pを囮にカウンタードライブからレイアップを決めてしまった。一夜にしてオーストラリアの小さな離島のエースから、一気に国の代表の有力候補まで駆け上がったMcVeighだが、このウィングからインサイドまでこなす新たなユーティリティプレイヤーの登場は、Nick KayやXavier Cooksといった既存PFのメンバーの立場を危ういものにさせたのだった。
Nick Kayは攻守両面において高い判断力を持つ安定感抜群のPFだ。特段身体能力が高いわけではないが、40分間落ちない運動量と判断の速さ、そして高確率の3Pで相手を上回っていく。何より主要大会における経験が他の二人とは段違いだ。
一方でXavier Cooksはその身体能力を活かしたダイナミックなプレーが持ち味だ。日本のバスケファンであれば昨年のワールドカップ、彼のリバウンドとトランジションでイニシアチブをとられ、オーストラリアに敗戦した苦い記憶が蘇る人も多いのではないだろうか。
外のシュートが得意ではないものの、跳躍力を活かしたリバウンドやハイポストからの切れ味鋭いドライブは、停滞しがちなチームのオフェンスに火をつける重要な着火剤だった。どちらも間違いなく魅力的なピースではあるが、Jack McVeighの登場によって、この二人のうちどちらかが代表を外れなくてはならない可能性が突如として浮上してきた。そして最終的に選ばれたのはNick KayとJack McVeighだった。これが意味することとは一体何なのだろうか。これについてはまた後で戻ってこよう。次はガードの話だ。
3.間に合わなかったDyson Danielsのポイントガード化計画、そして動き始めたプランB
ロスターの決定が難航したのはバックコート陣も同じだ。そして、今回その中心にいたのはおそらくDyson Daniels(ダイソン・ダニエルズ)だろう。近年のオーストラリア代表において、若干21歳、2022年NBAドラフト一巡目8位のDyson Danielsは、常に次世代のオージーPGとして期待されてきた。昨年のワールドカップでは、ベテランPGのDellavedovaとの第三PG争いを勝ち抜き代表初選出となったが、Josh Giddey(ジョシュ・ギディー)やDante Exum(ダンテ・エクサム)といった主力PG陣の座を脅かすことはできず、Danielsには最後まで出番は回ってこなかった。それから一年後、控えポイントガードとしての成長を見せるチャンスとなった中国とのエキシビションマッチ第一戦、Exumが欠場したこともあり、前半はDyson DanielsがPGとしてコートに立つ場面が必然的に多くなった。しかしファンの期待とは裏腹に、DysonのPGはお世辞にも機能しているとは言えず、チーム自体も低調なオフェンスが続いた。Dysonが14分出場しながらも中国相手にわずか3点のリードで終わった前半は、彼が控えPGを務めるのにはもう少し時間がかかることを決定づけてしまったように見えた。昨季NBAで彼が所属していたNew Orleans PelicansでもPGとしてプレーする機会を多く与えられていたわけではなく、現時点で控えPGとして一定の水準を満たせていないこと自体は仕方がないことだろう。この結果を踏まえると、Dyson Danielsは今大会もミニッツを得るのは難しいと考えるのが自然だったが、中国との第二戦で興味深い変化が起こった。HCのBrian Goorjianは、Dyson DanielsをJosh GiddeyやDante Exum、Matthew Dellavedovaと言ったPG陣と並べ、コンボガードとして使い始めたのだ。彼が出場した全ての時間で、である。(第二戦のハイライト↓)
するとこれが嬉しい方向に転び始めた。ディフェンスでは持ち前のサイズとフットワークを活かして、ポイントオブアタックディフェンダーとしてインパクトを残しつつスタッツでも4スティールを記録、オフェンスではプレイメイクの重責から解放され、セカンドハンドラーとして伸び伸びとプレーできているように見えた。オフボールではカッティングからFTを獲得しただけでなく、3Pも5本中2本成功と、まずまずの確率と言えるだろう。Dyson DanielsをPG以外のポジションで起用するアイディアは、もちろんずっと前からコーチ陣の頭にあったか、あるいは練習では何度かトライしていたのだろう。しかしながら、こうしてファンの前で目に見える形でそれが試されたのは恐らく初めてのことであり、第一戦でDysonの控えPGの可能性が下がった結果、より具体的にこのプランBが進行していったのかもしれない。こうして若くて優秀なコンボガードを新たに手に入れたBoomersだったが、それはまた、既存のコンボガード、ウィング陣にテコ入れをしなくてはならないことを意味していた。
第三PGとして連れて行くのは新進気鋭のDyson Danielsか?経験豊富なベテランのMatthew Dellavedovaか?Dysonは常にこの二択の中にいた。しかし、Dysonの2、3番ポジションへの移動は、Josh Green(ジョシュ・グリーン)、Matisse Thybulle(マティス・サイブル)、そしてDyson Danielsを含む3人のうち一体誰をロスターに残すのか?という新たな議論を巻き起こすことになった。どの選手も身体能力に長けたエリートディフェンダーで、ショットクリエイト能力に課題を残している、という点では似通っている。
Goorjianも課題として挙げていたディフェンス一つを取ってみれば、NBAオールディフェンシブセカンドチームに二度も選出されたMatisseは頭一つ抜けているように思える。しかしながら、最終的に選ばれたのは彼以外の二人だった。中国との第一戦、相変わらずの素晴らしいディフェンスを見せていたにも関わらずだ。(第一戦のハイライト↓)
それではそろそろ本題に移ろうと思う。
4.強烈な専門性ではなく、チームとしての多用途性
Matisse Thybulle、Xavier Cooks、さらにはChris GouldingやJack White(ジャック・ホワイト)、彼らに別れを告げなくてはならなかった理由は、結局のところこの方針に集約されるだろう。ディフェンスやリバウンド、シュートと言った一芸に秀でている一方で、オフェンス面においてスキルセットが乏しい印象の彼らは、相手ディフェンスにとって時に捨てられたり、ボールをあえて持たせてオフェンスの停滞を招こうとする対象になりえる。逆にJack McVeighはシュート力と1対1の能力を活かしながら攻守共に複数ポジションにまたがって活躍することが可能であり、Dyson DanielsはMatisseに負けず劣らずの優秀なディフェンダーでありながら、オフェンスではセカンドハンドラーとしても振る舞うことができる。 Goorjianはとにかくシュート・パス・ドリブル・リバウンド・ディフェンス、どのエレメントをとってもある程度の水準に達している12人を選ぶことで、相手にターゲットを絞らせないオフェンスとディフェンスを展開したいと考えたように見える。今思えばこの決断の前兆は、すでに昨年のワールドカップからチラついていた。Thybulle、White、Gouldingの3人は重要な局面でベンチを温めるシーンが多く、Landaleの怪我がなければCooksのミニッツももっと少なかったかもしれない。インサイド陣の台所事情が厳しかったのは目に見えて明らかだった。
とある能力に秀でたややピーキーな選手よりも、爆発力はなくともバランスの取れたよりスキルセットの幅広い選手を優先することがチームとしてのクオリティを高められるというアイディア。NBA選手の数では圧倒的に劣るヨーロッパのチームが強豪たる所以は、各選手が能力の最大値はNBAレベルには達せずとも、他リーグで鍛えられた豊富なスキルセットを持ち合わせていることにあるだろうし、昨年のワールドカップ準優勝を果たしたセルビアはまさにそのようなチームに見えた。一方で数多くのNBA選手を擁しながらも、その実態は長所と短所が比較的はっきりとした特徴的な選手たちの集まりであり、似たタイプの選手も多いが故に結果として12人というロスターの幅を最後まで上手く活かせず、決勝トーナメントにさえ進めなかったBoomers。そのような背景を踏まえてもGoorjianが今回このような決断に踏み切ったことはかなり理解できる。
ただ一方で理屈で片づけられない部分もある。強固なディフェンスとそこから繰り出されるパワフルでスピーディーなオフェンス、東京五輪で生まれた新しいBoomersのスタイルは、間違いなくThybulleやExumといったニューカマーがもたらしてくれたものだった。彼らがコートを駆け巡り、飛び跳ねる姿は、さながらカンガルーの群れのようであり、まさしくBoomersの愛称を体現しているかのようだった。そこにXavier CooksやJack Whiteが加わり、さらにそのスタイルは強調されていくはずだった。しかし、ここに来てその強みをトーンダウンさせる方向に舵を切り、再びこのチームのアイデンティティは一体何なのか、模索し始めるところに立ち戻った印象は否めない。おそらくそれは今後のエキシビションマッチでHCがわれわれに見せてくれるのだと思うが、東京五輪から始まったあのチームスタイルを、それまでのものと同じくらい私は愛していた、ということだけはあらためてここで言っておきたい。(東京五輪のMatisse Thybulleのハイライト↓)
5.Joe InglesとMatthew Dellavedovaが与えてくれるもの
チームの柔軟性を考慮した際にThybulleやCooksの優先度が相対的に下がった点に関しては一応理解できた(みんながそうなっていることを願っている)。しかし本当に彼らはチームのトップ12に入らない選手なのだろうか?11番目、12番目の保険として彼らを確保しておくことさえできなかったのか?こういった議論の際にやり玉に上げられがちなのが、そのスポットを埋めたであろうMatthew DellavedovaやJoe Inglesと言ったベテラン勢だ。では、彼らのエキシビションマッチでの活躍について振り返ろう。
中国とのエキシビションマッチで、Jock LandaleやDuop Reath、Will Magnayといったセンター陣を最も上手く扱えていたのは、間違いなくJoe Inglesだった(上に貼り付けたハイライトを観返してほしい)。この点に関しては、Josh Giddeyをも上回っていた。PnRから繰り出される絶妙なポケットパスやロブパス、緩やかながら相手にその後の選択肢を絞らせないドライブ。Josh GiddeyやDante Exumといった若手PGが牽引するオフェンスが行き詰まった時に、彼のプレイメイク能力は間違いなく必要になってくるだろう。昨年のワールドカップ、Boomersのオフェンスは平均20点近く記録したJosh Giddeyの加入によって平均得点自体は東京五輪よりも増加したが、沖縄ラウンドの試合を間近で観た限りは、ハーフコートオフェンスは停滞することも多く、ギャップを作るのにかなり苦労していた。同大会でやや低調に終わったInglesだが、そもそもの根源はJock Landaleの不在によるPFポジションの兼任にあり、Landaleの復帰と共にナチュラルポジションへと復帰し、Landaleとのコンビプレーを再び攻撃のオプションに加えられたことで、本来の持ち味を存分に発揮できていた印象だ。
スピートやサイズで相手ディフェンダーに対してアドバンテージを取っていくGiddeyやExumのPG陣に対して、Matthew Dellavedovaもまた、全く異なるスタイルのプレイメイカーとしてこのエキシビションマッチで存在感を発揮していた。ややドライブからの展開が行き当たりばったりぎみのGiddeyに対して、Dellavedovaはいくつもの未来予想図を頭の中に思い描きながらドライブを始めていく(逆にそうでないと通用しない)。ピックを使った後の5人のDFの位置を瞬時に見極め、チャンスが最大化されるポイントに的確にパスを捌いていく、非常に手堅いPGだ。(今季のMatthew Dellavedovaのハイライト↓)
中国との第二戦、逆サイドのDyson Danielsにスキップパスを送り、Danielsが3Pを沈めたシーンがその最たる例だろう。そのバスケIQはディフェンスでも発揮される。2015年のNBAファイナルでStephen Curry相手に見せたようなクオリティのオンボールディフェンスはさすがにもう期待できないが、ボールに対する執着心とエナジーは今も健在だ。DFローテーションは判断が速く絶対にミスは犯さない。声をかけながら残り4人の味方ディフェンダーを適切なポジションに動かしていけるのも魅力だ。とここまで出場機会がそれなりにあることを想定して書いてきたが、実際は彼の出番はほとんどない、というのが大方の予想だ。だがオフコートもまた彼の活躍の場であるということを付け加えておきたい。試合中ベンチで彼が黙ることはない。隙さえあればベンチに戻ってきた選手にフィードバックを行い、常にレディな状態でいれるように彼の経験と知識を共有していく。戦略を浸透させるのが難しい短期決戦においては助かる存在だろう。昨年のワールドカップ、少し物静かに感じたベンチを見ながら「Dellavedovaがいてくれたら」と思わずにはいられなかった。一度はNBAからドロップアウトしたDellavedovaであったが、2022年にSacramento Kings(サクラメント・キングス)の一員としてNBA復帰。Mike Brown(マイク・ブラウン)HCがDellavedovaのメンターとしての能力を買ってのことだった。その年、Sacramento Kingsは快進撃を見せ17シーズンぶりのプレイオフ進出、Mike Brownはコーチオブザイヤーに輝き、Dellavedovaは見事にその役割を果たしてみせた。彼のそういった能力はNBAチームがわざわざ一枠を潰してまで欲しがるものだということも、この機会にぜひ知ってもらいたい。ほとんど出場機会がないであろう12人目のスポットに誰を置くか、それを考えた時に、ベンチをも自分の主戦場にできるDellavedovaに軍配が上がること自体は不思議なことではない。彼は最終スポットのプロフェッショナルなのである(もちろん私は彼のファンなので試合に出てほしい、とここに書いておく)。プレイメイカーとしてまだまだ成長の余地を残しているJosh Giddeyにとっても、ひと夏かけてDellavedovaから様々なことを学べる機会は素晴らしいものになるに違いない。
あらためて、中国とのエキシビションマッチはどちらも後半にオーストラリアが攻守で大きく相手を上回った。「なぜ今さら年老いた二人をオリンピックに連れて行かなくてはならないのか?」と思ったファンは、その中心に彼ら二人がいたことを今一度思い出してほしい。(思い出せなかったらもう一回上に乗せた中国戦のハイライト見て)
6.ベストプレイヤーに別れを告げて、ベストチームになることを選んだBoomers
ここであらためてロスタ―の12人を見渡してみよう。1番目から12番目まで、それぞれの選手の特徴が異なり、多用途性に富んだ対応力の高いメンバー構成であることは間違いない。では、ワールドカップ後にGoorjianが述べた課題は本当に解決されたのか?チームのシューティングやボールプレッシャーを改善させたいと考えた時に、ついベストシューターとベストディフェンダーを加える、という短絡的な解決策にわれわれは行きがちだが、コーチ陣は少し異なる考え方でこの課題にアプローチしたのだと考えている。それは、適切にズレを生み出しながら、確率の高いオープンショットを作り出せるオフェンススキーム、逆に相手に簡単にオープンを作らせず、規律のとれた穴のないローテーションでプレッシャーを与え続けられるディフェンススキーム、この両方を実現可能なチームを作り出すこと。それさえできれば、シューティングやボールプレッシャーの問題は自然と解消されるはずだ。ベストプレイヤーたちの個人能力に頼らず、チーム全体で攻守の底上げをすること、それが今回のチームが選んだ方針だ。この発想は全てのレベルのバスケットボールに適用可能な考え方であり、われわれアマチュアレベルのバスケでもチーム作りにおいて参考になる部分があるのではないだろうか。
ちなみに今回の選考に関してはESPN AustraliaのKane PitmanとOlgun Ulucも詳しく話してくれているので、興味がある方はぜひ聞いてみてほしい。この記事より信頼度も高い()
一方で、不安要素ももちろんある。Jack McVeighの3Pが不調に陥った時、そこにChris Gouldingはいない。Dyson DanielsやJosh Greenのディフェンスが相手のエーススコアラーに効果的でなかった時、そこにMatisse Thybulleはいない。Nick Kayが十分にリバウンドを掴むことができなかった時、そこにXavier Cooksはいない。(Chris Gouldingも大活躍したエキシビションマッチ第二戦のハイライト↓)
スキルのオーバーラップを避け、スペシャリストのバックアップを用意しなかった以上、それぞれの選手が任された仕事を確実にこなしていく必要がある。彼らのディフェンス、シュート力、リバウンドは、今回選ばれた複数の選手でカバーできると踏んでいるわけだが、蓋を開けてみた時に、攻守どちらにおいてもインパクトを残せない中途半端な結果に終わる可能性はゼロではない。ただ私個人としてはこのチャレンジングなピックを評価したいし、最後にGoorjianを含めたコーチ陣に向けたラブレターを書いてこの長ったらしい文章を締めたいと思う。
7.最後に
今回のパリ五輪のロスターが発表された後、数えきれないほどのネガティブな意見を目にした。それは昨年のワールドカップやその前の東京五輪の時とは比にならない。それくらい今回の選考結果はチャレンジングなものだったし、ファンにはなかなか理解され難いものだった。だからこそこの結果は非常に示唆に富んだものであるし、コーチ陣がベストなチームを作るためにいかに熟考したかがうかがい知れる内容だったように感じる。そして、なぜこの結果に至ったのか、コーチが目指したものはなんだったのか、それについて深く考える価値がある。その結果、遠く離れたオーストラリアとは無関係な日本人の私が、こうやってBoomersについて初めて真面目に文章を書いている。それくらい自分にとって興味深いプロセスだった。「理解できない」ですぐに片付けられがちだが、Matisse Thybulleをカットするなんてこと、何の考えも覚悟もなしにするわけがないのだ。中国とのエキシビションマッチのローテーションも、そのすべてから様々な意図が伝わってきたということもあらためて言いたい。単純な5人の足し合わせではなく、どの組み合わせがよりシナジーを生み出せるのか、その試行錯誤を一分一秒惜しまずやってくれたコーチ陣に感謝したい。あの80分の積み重ねを元に決めた結果なのだから、これが正しい判断なのだと私は信じている。それほどすべてを試しつくしたエキシビションマッチだったと思う。
もちろんこのチームが金メダルを獲ることを信じてやまない。しかし、たとえそうならなかったとしても、各分野のベストプレイヤーを削ってまでスキルセットとプレイヤータイプの多様性を優先した、ある意味野心的なロスター構成で挑む今大会は、前回のワールドカップ以上に様々なヒントをわれわれに与えてくれるだろう。Boomersはまだまだ続いていく。Josh Giddeyを中心としたNext Generationのプライムタイムは、今ではなくおそらく次のワールドカップ、オリンピック、もしかしたらさらにその先だ。そしてそこには一回り成長したMatisse ThybulleやXavier Cooks、Jack Whiteの姿があると信じている。彼らの周りにどのようなピースを並べ、どのようなチームを構築することが必要なのか、Brian Goorjianはその全てを試しつくして次のコーチへとバトンを渡そうとしている。そんな風に私は感じている。あとはこの果てしなく続く旅を楽しみたいと思う。
Gold Vibes Only.
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