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【週刊少年ブーマーズvol.4】リールの迷えるカンガルー、パリへ行く

G'day mate. オーストラリアバスケファンのkellyです。最近ジョージ・ミラー監督の映画を観てたので『ベイブ、都会へ行く』みたいなタイトルにしてみました。フランスのリールで開催されたパリ五輪のグループフェーズ。オーストラリアバスケ男子代表はスペイン、カナダ、ギリシャとの3試合を1勝2敗で終え、グループ2位で辛くも8強入り。パリで開催される決勝トーナメント進出となりました。前話では初戦のスペインとの試合について触れつつ、このチームのポジティブな面についてお話ししましたが、ここではカナダ、ギリシャに敗北した結果を踏まえて現状のBoomersの問題点について考えていきたいと思います。引き続き決勝トーナメント観戦の参考にしてもらえたら嬉しいです。

1.はじめに

Group of Death。その呼び名の通りだった。長年苦しめられたスペインに見事勝利をおさめ、最高のスタートを切ったBoomersだったが、続くカナダとギリシャに敗北。1勝2敗となったオーストラリアの命運はグループAの最終戦、カナダ対スペインの結果に委ねられた。カナダが勝てばグループ2位で決勝トーナメント進出、そうでなければ彼らの挑戦は終わる。下馬評ではカナダが圧倒的有利とされていたが、勝負は最終ポゼッションまで分からず、結局3点差で辛くもカナダが勝利。オーストラリアはなんとかパリ行きの切符を手に入れた。自分たちのいない試合を見ながら、自分たちの運命が決まるのを見届ける、というのはいつも不思議な気分になるものである。なにはともあれ8強入りしたオーストラリア代表。だがそれを簡単に喜べないほどに、この2度の敗北は彼らに様々な課題を突き付けたのだった。

Thanks Canada


2.How to stop Patty Mills & Josh Giddey

『Boomersのバックコートデュオを止める方法』グループフェーズの二つの敗戦は、そんな題名の攻略本を読み聞かせられているような気分だった。
カナダ代表はSGAやRJ Barrett、Jamal MurrayといったNBAのトップガードたちの攻撃力に注目が集まりがちだが、彼らの強さを支える大きな武器はバックコード陣のタフで読みも鋭いディフェンスにあることが、オーストラリアとの試合ではっきりと見えてきた。体格とサイズで劣るPatty Millsは、Luguentz DortやDillon Brooksといった屈強なディフェンダーたちのチェイスとバンプに苦しみ、FG2/10(内3Pは1/5)の計8得点、特に後半は無得点と、最後まで気持ちよくプレイをさせてもらえなかった。前半は15得点とチームの攻撃を牽引したJosh Giddeyも後半は4得点に終わり、元チームメイトのDortに抑え込まれるシーンが多かった印象だ。

Luguents Dortに苦しめられたPatty Mills

ギリシャ代表もそのディフェンス力でOQTを勝ち上がってきた強豪だ。Giddeyはスキル面ではマッチアップを上回れる部分があるものの、サイズとフィジカルを兼ね備えた選手たちのオンボールディフェンスに苦しみ、この試合も9得点と低調に終わった。Giddeyのドライブに対するオフボールディフェンダーの警戒心も強く、多くの時間ペイントエリアをこじ開けることができなかった。

終始ギリシャのディフェンスに苦しんだJosh Giddey

もちろん、DortやBrooks、さらにはSGAレベルのディフェンダーを兼ね備えたチームはそうはいない。ギリシャほどディフェンスに振り切ったチームも珍しいだろう。実際Giddeyも多くのチームに対しては、ここまで苦戦することなく相手ガードに対してサイズのアドバンテージを振りかざしながらプレーすることができるはずだ。しかし、金メダルを目標に掲げるチームであるならば、この死のグループで直面した問題はいつか乗り越えなくてはならない問題であることもまた事実だ。「死のグループ」に割り振られたこと自体は不運と言えるかもしれないが、そういった課題をハイレベルかつタイプの異なるチーム相手にこの時点で洗い出せたことは大きい(突破できたからこう言えるところもある)。これからトーナメントを勝ち上がっていく中で、この経験を活かさない手はないだろう。

3.ターンオーバー・ターンオーバー・ターンオーバー

大事なことなので三回言った。このチームの大きな問題の一つはTOの多さだ。グループステージ3試合を終えて平均TO数は16.7。これは全12チーム中ブラジルに次いで二番目の多さだ。トランジションオフェンスで一度ボールを持たれると止める術がないGiannis Antetokounmpo。彼が率いるギリシャとの戦いを前に、筆者はこのチームのTOの多さに震えていたわけだが、その悪い予想は見事に的中。自分たちのTOから実に20点を献上することになった。

特にBoomersのメインハンドラーであるJosh GiddeyとPatty Millsはそれぞれ一試合平均で4.3回と3.7回のTOを記録している。これはこの大会に出場した144名のうち現在3番目と4番目の多さだ(レブロンも同じ4.3回を記録)。オーストラリアはきわめてTOの多いガードデュオを抱えている、ということになる。もちろんそれぞれ30分近く出場し、彼らがボールを持つ機会がきわめて多いオフェンスシステムであるため避けられないことではあるが、無理なドライブからボールを失うシーンは目立っている。またチーム全体としても速い展開を好むが故に、焦って不用意なパスでボールを失ってしまうことも多い。親善試合からチームの首を絞め続けているこのライブボールTOをいかに減らせるか、これもまた表彰台に上り詰める上で避けられない課題だ。
一方で今大会、弱冠21歳にして国の代表のエースを背負うことになったJosh Giddeyのプレーぶりからは「自分がやるんだ」という覚悟を強く感じている。決して得意ではないステップバックスリーも躊躇なく打っていくシーンを見てもそれは明らかだ。気休め程度だが、彼のTOの一つ一つもまたプレイメイカーとしての成長につながると思えば悪くない。ここまで本大会で彼が見せているアグレッシブな姿勢が素晴らしいということは、このタイミングであえて言っておきたいと思う。どうせ負けるなら、強気なGiddeyのまま負けたい。

4.強みを押し付けるのではなく相手に適応するBoomers

オフェンスではGiddeyやMillsを抑えられ、ディフェンスではSGAやBarrett、Giannisをなかなか止められなかったBoomers。しかし、この状況をGoorjianヘッドコーチも指を咥えて眺めていたわけではない。Boomersの見せたいくつかの抵抗もまた興味深いものだった。
カナダ戦では追い上げと逆転を許した第3Q、BoomersはDyson Daniels、Dante Exum、Jack McVeigh、Nick Kay、Jock Landaleというサイズと機動力を兼ね備えたラインナップで再び相手に食らいついた。オフェンスでは無力化され、ディフェンスでも存在感の薄かったGiddeyとMillsを思い切って同時に下げ、どのポジションも穴にならないようなディフェンシブラインナップでカナダに対抗したのだ。本来同じPFとしてプレイタイムを分け合うはずのKayとMcVeighだったが、彼らを同時にコートに立たせ、機動力はそのままに全体のサイズを上げることができたのもまた、このロスタ―が持つ戦略的な柔軟性を象徴していたと思う。さらにこのラインナップの実行可能性を高めたのは、間違いなくExumの攻撃力が信頼に足るものであったことが大きい。試合を通して低調に終わったMillsに代わり、Josh Giddey、Jock Landaleに次ぐ15得点で攻撃を牽引したExumは、勝てば間違いなくこの試合のMVPの一人だった。

貴重な得点源として活躍が求められ始めたDante Exum

前半を36-53と17点ビハインドで折り返したギリシャ戦では、なかなか調子の上がらないJosh Greenに代えて、Matthew Dellavedovaに白羽の矢が立った。3Q途中からゾーンぎみのディフェンスを敷き始めたBoomersは、Giannisを起点とするギリシャのディフェンスを見事にシャットダウンさせたが、その先頭でボールプレッシャーをかけ続け、素晴らしいポジショニングでディフェンスを成功に導いていたのが何を隠そうDellyだった。

ベンチのメンターとしてではなく、ついにオンコートで存在感を強め始めたDellavedova

さらに第4Q終盤のフルコートプレスからの値千金のスティールを奪ったDellavedova、そしてMillsがミドルを沈めて2点差に詰めたシーンは、昔からのBoomersファンにとってはたまらないシーンだっただろう。ギリシャの後半の得点はたったの24得点、前半大きく活躍したGiannisも後半は5得点に終わった。結局負けはしたが、Dellavedovaは7分半の出場で+/-は+10。一時19点ビハインドだったBoomersをトーナメント進出まで引き上げた張本人と言っても過言ではない。

このシリーズの第1話にも書いた通り、1~12番目までそれぞれ異なる方法で貢献できる選手が揃い、5人の組み合わせによってありとあらゆるチームに対抗できる適応力の高さ、それがこのBoomersの強みだった。文字通り、カナダ戦やギリシャ戦ではそれぞれ異なる選手たちがゲームチェンジャーとなり、負けはしたものの彼らが決して一辺倒な戦いで沈んでいくようなチームではないことを見せてくれた。一方で、この戦い方の難しさもまた見え隠れしている。Matthew DellavedovaやJack McVeigh、Duop Reathといった、ややギャンブル性の高い選手たちにどれだけのミニッツを与え、引っ張るのか。彼らが命取りにもなりそうなTOを犯してしまっているのもまた事実だ。この適切な塩梅をGoorjianは一発勝負のトーナメントで上手く見極めないといけない。Josh GreenとMatthew Dellavedova、Nick KayとJack McVeigh、Will MagnayとDuop Reath、この二者択一の天秤がどちらにより傾くのかは、結局グループフェーズからは分からなかった。それほどまでに、それぞれの選手が全く違うものを与えてくれるのである。
Boomersはカナダやドイツ、アメリカのように特定のGo-to-guyで常に相手を圧倒できるような、強みを押し付けて勝ちを奪っていくチームには恐らく現時点ではなれない。だからこそ選んだこの12名なのだろうが、明確なローテーションも、クロージングラインナップすら定かでないBoomersに、一抹の不安を抱いてしまう自分もどこかにいる。オンコートの選手の活躍はもちろん、Goorjianがどのタイミングでどのカードをどう組み合わせて出してくるのか、それこそがこのチームの生命線のように思えて仕方がない。

5.最後に

ロスタ―発表からあっという間の一か月だったが、ついに正真正銘一発勝負の決勝トーナメントが始まる。親善試合も含めれば、7試合を通してBoomersは自分たちの戦い方を常に模索しているようだった。たくさんのTake awaysを手にしながら決勝トーナメントに進んだ彼らは、ある意味でラッキーだったかもしれない。さて、果たして迷えるカンガルーたちはどのような姿でパリにたどり着いたのか。その答えをこれから見届けたいと思う。

Gold Vibes Only.


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