ブドウ品種ってそんなに大事?
お久しぶりです!ワイン商えいじです。
だいぶ前のことになりますが、庶民のワイン研究所さんにお邪魔してワイントークに参加させていただきました。
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全然どうでもいい話ですが、この収録の時ちょうど花粉症で鼻が詰まっていてですね、改めて聞くと水深50メートルからの中継かなと思うほどにくぐもった声になってました。ワインもトークも鼻の抜けが大事ですね。
さてそのトークの中で「ぼくはこれからワインを楽しみたいと思ってる人に、ブドウ品種から教えることはしない」と言いました。
世の中の初学者向けのワイン本のほとんどが、「まずは○○を覚えましょう」といくつかの品種名が紹介され、その解説にかなりのページを割いています。
最初にきちんと断りをしておくと、それが悪いと言いたいわけではありません。
事実、ブドウ品種それぞれには明確な個性があって、ワインの味、香りに大きな違いを与えています。
スーパーやレストランでワインを選ぶときに、いくつかメジャーな品種名を知っておくと便利なときもあります。何を選んだらいいか迷ったときに、知ってる単語があると安心するものです。品種の基本的な特徴を覚えておくことで、選ぶ際の指針にもなるでしょう。
ですがぼくは、あえて声を大にして言いたい。
これからワインを楽しみたい人は、ブドウ品種なんて無視してよい!
「覚えるべき10のブドウ品種」とか、覚えなくてよい!と。
いやいやいやいやいや!!!
ブドウ品種は大事でしょう!!
ワインスクールでもたいていブドウ品種の話ばかりじゃないか、と。
シャルドネ、カベルネ、ピノ・ノワール・・・
こういった品種の特徴を延々と解説しているではないか、と。
そもそもWSETの講師だろあんた!
と、ツッコミを頂いてることと思います笑
まあ、落ち着いてください(汗
ぼく自身、ブドウ品種はワインの特徴を決める「超」重要なファクターだってことは重々理解しています。
その上で言いたいのは品種を知らなくてもワインは楽しめるってこと。
むしろ知らないほうが楽しめる場合もある、とも思っています。
最初にブドウ品種を覚えることからワインの世界に入ってしまうと、ワインの一番面白いところがスルーされてしまう危険性があると思っています。
ワインの醍醐味とは?
ワインの一番面白いところ、それは「多様性」だと思います。
ワインは世界中でつくられていて、デイリーワインから王侯貴族が飲みそうな超高級ワインまで本当に幅広いです。ワインは土地に根付いた「地酒」であり、人生を豊かにする「ぜいたく品」でもあります。
その源泉となっているのは各産地の文化、地形や気候の違い、そして1万を超える多種多様なブドウ品種です。
もしあなたがソムリエを目指していたり、ぼくのようにWSET DIPLOMAを目指しているのなら、メジャーなブドウ品種の名前と特徴を覚えるのはとても大事なことです。それでも、せいぜい100か200種程度です。世界の広さに比べて、なんと狭いことでしょう。
つまり、多様なワインの世界に対してぼくらが学べる範囲というのは限られているのです。
例えばあなたが10種のメジャー品種を覚えたとします。
10種でも覚えるのは大変ですよね。見慣れない横文字。白か黒か、色ごとに覚えないといけないし、それぞれ特徴も違うらしい。
せっかく覚えたのです。きっとあなたはショップやレストランでその10種から選ぶことでしょう。
ですが、その10種の中にあなたの心に響くワインがあるかどうかは分かりません。メジャーであることと、感動するかどうかは関係ありませんから。
でも、「メジャーな10種を覚えれば間違いない」と教えられたのですから、その10種を注文し続けるのではないでしょうか?もしかしたら、その隣にある無名のワインがあなたの運命のワインかもしれないのに。
言い方を変えれば、あなたはせっかく勉強したのに、それがアダとなって運命のワインと出会えなかった…ということです。ああ、なんという不幸!
これはちょっと大げさかもしれませんが、地方料理のレストランなんかの場合は案外笑いごとではありません。理由は割愛しますが(笑)。
ブドウ品種が全てではない
またワインの味、香りを決めるのはブドウ品種だけではありません。
例えばテンプラニーリョという品種。
これはスペインで広く栽培されている黒ブドウ品種ですが、産地やつくる人によって全然味が違います。酸味のしっかりしたものもあれば柔らかいものもあるし、穏やかな渋みのものもあればギッシギシのものもある。ストロベリーのような軽やかなアロマのものもあれば、ブラックチェリーのような濃厚なものもあったりするのです。
テンプラニーリョは特にその「多様性」が顕著ですが、他の品種でも同じです。カベルネ、シャルドネ、メルロー、シラー・・・一般的な傾向はそれぞれありますが、最後はワインを仕込む人次第です。
少し話が逸れますが、最近東京で流行している一部のナチュラルワインの場合、品種の個性がほとんど感じられないものが多いです。これは、ブドウ品種の個性を引き出すのはあくまで人間の技術によるところが大きいからと言えます。ソーヴィニヨン・ブランの特徴と言われるツゲやパッションフルーツのアロマは、収穫から醸造にかけて注意深い仕事があって初めて生まれます。人の手による介入が少ないナチュラルワインの場合、その個性の多くが引き出されることないまま終わる可能性があります。
ワイン造りは、壮大なパズルです。
そのブドウが育った場所の気候、地形条件、その年の天候、ブドウ樹の仕立て方や剪定、栽培における数多の判断、収穫のタイミング、抽出のレベル、プレスのレベル、使う容器、熟成期間、澱の活かし方、フィルターの有無・・・ここでは全てを挙げられないほどの数多くの選択肢の果てに、ようやく1本のワインが生まれます。
品種は、あくまで造り手の選択肢の一つなのです。
その知識は何のため?
ここで改めて質問です。
あなたはワインの製法が知りたいですか?
それとも、純粋にワインを楽しみたいですか?
・・・
「ワインの世界に足を踏み入れたい」
「ワインを楽しむ友人たちを見て、自分もその輪の中に入ってみたい」
ぼくは、そんな皆さんの気持ちに水をかけたくありません。
ブドウ品種を覚えるのは、あくまでワインの「学び」の第一歩です。
ワインを楽しむのに最初に必要なのは、知識ではありません。
一緒にワインを飲む仲間だったり、あるいはワインを出してくれるバーだったり、もしくは自宅で楽しむためのちょっとしたグッズなんかです。
大切なのはワインを楽しめる機会をつくることです。
ワインを飲むうちに、「美味しい!」と思えるワインが見つかるでしょう。
すると、ある感情が生まれるはずです。
それはあたかも、気になる異性を見つけたとき。
あるいは、推しの歌手やアイドルを見つけたときにも抱く感情です。
「このワインのことをもっと知りたい!」
どこで生まれたんだろう?
なんでこんな香りがあるんだろう?
だれがつくってるのだろう?
そんな疑問が生まれるはず。
そうです。
その時に初めて知ればよいのです。ブドウ品種を。