イーロン・マスクも熱狂した日本製ゲーム『エルデンリング』における彼の「ビルド」から、日米の思考法の違いについて考える
2022年に発売され、全世界で2000万本以上売れた日本発の大ヒットゲーム、「エルデンリング」をご存知ですか?
このゲームは、あのイーロン・マスクが大ファンで、しょっちゅうX(ツイッター)でエルデンリング元ネタのポストをしたりしてるぐらいなんですよ。
以下は「クリアした」時のツイート(Xポスト)なんですが、この人世界的企業を何社も経営しながら、クリアに60時間〜90時間とかかかるゲームをやりこんだりしてるのマジで存在が規格外すぎますね。
このnoteで何回か紹介している公式伝記でも、家族が集まって久々のパーティをしてるのに部屋に籠もってスマホゲームしてたりして、まさに「オタクがそのまま世界的経営者になった」感じが凄い面白いです(笑)
で!
いわゆる「ビルド」ってあるじゃないですか。こういうゲームで、自分のキャラクターをどう育成して、どの能力に特化させてどういう装備を使うのか?という「方針」について述べる言葉です。
イーロン・マスクがX(ツイッター)で、自分の「エルデンリングのビルド」について公開していて、世界中のゲーマーがアレコレ論評してるのが面白かったんですね。(まとめ記事)
ぶっちゃけこの話興味ありません?
なんか世界的な有名人が、例えば有名な政治家とかサッカー選手とかが、「ストリートファイター2」の大ファンらしいよ、とか聞いたら「え?どのキャラ使ってんの?え?ダルシム?似合わんけどなんか納得するww」とか聞いてみたくなるとか、ドラクエ5やってたとか聞いたら「ビアンカ派?フローラ派?」って聞いてみたくなるとか、そういう話をしてみたい気持ちってあるじゃないですか。
ただ最近のゲームは色々と複雑なので「イーロン・マスクのビルド」の内容だけ聞いてもそれが「どういう方向性なのか」ってプレイしてみないとよくわからないところがあるんですよね。
というわけで、昨年4ヶ月とかぐらいかけて、エルデンリングを僕もプレイしてみたんで、その体験をもとに
…というあたりについて考察する記事を書きます。
(いつものように体裁として有料記事になっていますが、「有料部分」は月三回の会員向けコンテンツ的な位置づけでほぼ別記事になっており、無料部分だけで成立するように書いてあるので、とりあえず無料部分だけでも読んでいってくれたらと思います。)
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1●エルデンリングはどんなゲームか?
まずは基礎知識から、って感じで、もう全部知ってる人は「3」まで飛ばしてくれたらいいんですが、エルデンリングはフロムソフトウェアという日本の会社が作っているタイトルです。
「ドラクエ」とか「FF」みたいな、ファミコン時代から続く伝統的なタイトルと違って、(老舗と比べると)新興の、宮崎英高氏というクリエイターが主導して作られてきたいわゆる「死にゲージャンル」みたいなものの流れにある最新作なんですね。
「死にゲー」っていうのは、大げさでなくザコ敵相手でも油断してるとすぐ死ぬし、ボス敵とか何十回とリトライしてやっと倒すのが楽しいみたいな
タイプのゲームです。
以下は発売前のデモ動画ですが、「どんな感じ」なのかご興味があれば飛ばし飛ばし見て頂ければと思います。
「何度も死にながら必死になってなんとか倒すのが楽しい」というプレイ感については、元モーニング娘の後藤真希さんがこのゲームのプレイ動画をあげていて面白いので良かったらどうぞ。僕は後藤さんのことよく知りませんでしたが、プレイスキルのレベルが他のプロ配信者ほどは上手くないなかで必死に奮闘してる感じが凄い共感できて結構見てしまいました(使ってる武器とかビルドが偶然自分とほとんど一緒でそこも良かった)。
私は子供の頃家の方針でファミコンみたいな任天堂のゲームハードを持ってなくて(かわりにMSXというパソコンはあった)、友達の話に全然ついていけなかった事がトラウマで、大人になってからもちょいちょい「みんなやってるゲーム」ってものに自分も参加したいと思って、下手ですが時々ゲームしてるんですね。
ただ子供の頃の「経験値」が全然足りないから決してうまいプレイヤーとは言えず、「フロムソフトウェアの死にゲージャンル」が世界的に人気になってるらしい…という話は聞いていたんですが、ちょっと自分なんかがやれるゲームじゃないように思っていたんですよ。
ただ、経営コンサル業のかたわら色んな人と「文通」しながら色々考えるっていう仕事もしてて(ご興味があればこちらから)、そのお客さんで趣味でボードゲーム作ったりしてるフリーランスエンジニアの人に、
って強く薦めてもらったんですね。
その理由は、要するに「エルデンリング以前」の「フロムの死にゲー」っていうのは、逃げ場がないというか、目の前の敵が倒せなかったらもう必死に何十回とリトライして体で覚えて倒せるようになるしかなかったらしいんですよ。(未プレイなので聞いた話からの想像です)
でもエルデンリングはシリーズ初の「オープンワールド」型のゲームになっていて、超広大なマップ上を自由に移動できて、攻略順とかも自由なので、「眼の前の敵に勝てない」なら「寄り道」して行けそうなところを攻略してるうちにキャラクターが成長してなんとか勝てるようになったりする。
だから、「死にゲー初心者」がまず手を出すなら一番良いのがエルデンリングですよ・・・っと薦められて手を出してみたんですが、これは全くその通りでした。
もしこれを読んでいる人で、「フロムのゲーム興味あるけど怖い」っていう人がいたら、まずはエルデンリングから手を付けてみられると良いと思います。
「寄り道できる」ってだけじゃなくて、「プレイヤースキルのレベルに応じて」色んな手段が用意されているのがエルデンリングのいいところだなと思います。
上手い人は上手い人なりに、下手なら下手なりに楽しめるように作られている。下手だったら本当にそこらへんのザコ敵相手でも油断してると一瞬で死ぬし、同じボス戦で何十回と戦うのもザラなんですが、でも「下手なりに突破口がある」というか、そのあたりのレベルデザインの丁寧さ、みたいなのも凄く良く出来てる感じでした。
フロムゲーの歴史としても、「ハードコア」な客向けに魅力を作り込みまくった上で、満を持して「ハードゲーマー以外でも手が届く」形式にすることで一段大きな世界的売上につなげていく・・・というのは結構それ自体「戦略」として参考になる話だなと思いました。
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2●「エルデンリングのビルド」についての概説
エルデンリングはいわゆる「レベル」が一個あがるごとに、どの能力値でも「1」引き上げることができて、また武器の側にもその「必要能力値」が設定されていることによってキャラクターの多様性が表現されていくシステムになっています。
能力値は以下のようになっていて…
全体として、まず「生命」がないとすぐ死んじゃうのでたいていまずはそれを上げていきつつ、魔法を使いたいなら「精神と知力(祈祷系魔法の場合は”信仰”)」、いわゆる「脳筋」キャラで行きたいなら「筋力と持久力」、出血などの状態異常が強力な刀などのテクニカルな武器を扱いたければ「技量と神秘」という形で振っていき、その能力値に振れば振るほどその方向性における「より強力な武器」を使えるようになってさらに相乗効果でキャラクターの方向性が極まっていくようにできています。
また、もうひとつ重要な要素として、「持久力」が上がると装備可能な重量も上がるんですが、その「装備可能重量の上限値の何割までの重さを装備しているか」によってキャラクターの動きの敏捷性が大きく変わるんですね。
特に「ローリング」という回避行動がこのゲームはかなり重要なんですが、装備重量上限に対して何割の重さの鎧や武器を装備しているかによって、「軽量」「中量」「重量」という振り分けがなされて、「重量」の時の動きは日本で「どっすんローリング」と呼ばれていて「基本的にやってはいけないこと」とされています。(確かに回避性能はめっちゃ下がる)
ただ、後で述べますがイーロン・マスクは「いや、よほどローリングが重要な局面でなければ重量装備でいいんだ」という方針らしくて、そこもなかなかある意味で革新的な発想と言えるかもしれません。
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3●「イーロン・マスクのビルド」はどのような方向性なのか?
イーロン氏はツイッター(X)内で散発的にアレコレ色んな人と議論していて網羅的には見つけづらかったので、以下のまとめサイトで情報をまとめてくれています。エルデンリングプレイヤーで詳しく知りたい方はそちらもどうぞ→(記事1 記事2 記事3)
全体的にイーロンのビルドは日本で「”知力”寄りの技魔ビルド」と呼ばれているスタイルで、「知力」を最も重視して魔法攻撃をしかけつつ、近接戦闘用にテクニカルな刀のような武器も使えるようにするスタイルです。
これ↑が「どういう傾向性を持ったスタイルなのか」が知りたくてわざわざ僕もエルデンリングをプレイしたって感じだったんですが、
このあたりが「イーロン・マスクらしさ」的な部分なのかな、と私は感じました。
ひとつひとつ見ていきたいんですが、エルデンリングはそれぞれのボス敵によって(あるいは雑魚敵が大量に寄ってくるシチュエーションのような場面の特性によっても)、適性のある戦い方が随分違ってくるんですね。
自分が一番得意な「属性」の攻撃に耐性がある敵だと途端に苦しくなるし、また近距離で必死に斬りつけるのが有効だったり、ある程度遠距離から攻撃できないとかなり厳しい場面など色々ある。
私はいわゆる「神秘技量」ビルドだったので、遠距離は「グランサクスの雷(この武器を手に入れるまで遠距離戦が苦手で大変だった)」、近距離は「(前半は)打刀二刀流」「(後半は)屍山血河」という出血効果のある刀でだいたいカバーする作戦でしたが、「雷」属性に耐性がある敵だったり「出血効果が無効」な敵だったりすると物凄い苦戦しました。テクニカルな刀を弾かれてしまう重い鎧と盾を装備した騎士型のザコ敵がワラワラ出てくる場面もかなり苦手だった。(結局ラスボスのラダゴン&エルデの獣戦は脳筋キャラに転換して戦わないと勝てなかったです)
一方で冒頭で紹介した僕にエルデンリングを薦めてくれたエンジニアの人は「脳筋」系で大剣を振り回して戦っていたそうですが、そうすると一回の攻撃モーションが大振りすぎて「神肌の二人」というボス敵が二体同時にコンビネーションで襲いかかってくるステージで大苦戦したそうです。(逆にその敵は出血に弱いので、私はほとんど苦戦せずに済んだ)
イーロン・マスクのビルドは、相手の耐性がどうであろうと魔法を切り替えて対応できるし、遠距離が得意な魔法を主体としつつ、近距離が必要なら刀に持ち替えたり、”魔力の刀”みたいなのを適宜使ったり、とにかく「対応力が高い」ビルドだったと言えると思います。
また、「遺灰」という初心者お助けシステム(日本人は使わない縛りプレイをする人も多い)をどんどん使って、それと敵が戦っているところに「チマチマと小ダメージを与え続けることが重要」と語っており、プレイヤースキルが高くなくても成立する戦略を一貫させるというのも彼らしいかもしれません。
また、さっきも書きましたが、普通に戦うと「回避」の動きが超重要なゲームなのに、
「遺灰に戦ってもらって遠距離から魔法を打つならそもそも回避はいらない。ならば重量ギリギリまで装備して防御力を上げた方が合理的。回避がどうしても必要な局面だけ重量装備を減らせば良い」
…というような発想になってる部分も非常にイーロン・マスクらしいところですね。
世界中のゲーマーから「セオリーに反する」ってことで「バカじゃねーの」って言われまくっても動じないで「自分が考える合理性」でラストまでプレイしたのはさすがだと言えるかもしれません。
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4●ゲームプレイに関する日米の戦略差について考察する
上記の「イーロン・マスクのビルドの特徴」を見ると、スペースXやテスラの経営スタイルとかなり共通する精神性が感じられたりするのではないかと思います。
また、同時に「イーロン・マスクのビルドが取りこぼしているゾーン」というのもありそうで、これも現実世界の「経営」のレベルでも例えば日本の会社がツケ込めるスキがあると言えるかもしれない。
それについて考えてみたいんですが、一つの切り口としては、イーロン・マスクのビルドは「個別のテーマに関する最適化の程度」は実は結構弱いんですよね。
要するに「徹底的に汎用性が高い戦略」を選び続けているので、「個別の場面に対して最適化された専用装備」に比べると、色々と余計な苦労をしつつなんとか勝ちをもぎ取っているという感じになる。
最近の日本語で「刺さる」っていう言葉がありますが、日本語でエルデンリングの情報を漁ると「刺さる専用品」のチョイスに対するヒント的情報がめっちゃ沢山ヒットするんですよ。
こんな感じ↑の情報がメチャクチャ沢山あるのが「日本のプレイヤー文化」で、こういう情報については英語圏の情報に対して圧倒的なアドバンテージがあると思います。
これはイーロン・マスクに限らない話なんですが、英語圏の方が「情報量」自体は凄い多いんですよ。ある種「アカデミックで網羅的」に整理された情報が豊富に手に入る。
でもあまりに「客観的に網羅的に」整理されてしまうので、それが「自分みたいなプレイヤースキルの、自分のビルド方針で、このボス敵に対してどうしたらいいの?」みたいな部分に対する「専用品的な情報の蓄積」が結構弱くなっちゃうんですよね。
だから、英語圏のプレイ動画のコメント欄を見てると、日本人プレイヤーなら誰でも知ってるような小ネタテクニックについて「ほんと!?全然知らなかったよありがとう!」みたいな会話をちょいちょい目にします。
「客観的に網羅的に情報を整理する」圧が強すぎて、
みたいな、いわゆる英語で「tips」と呼ばれるような情報はかなり軽視されてる傾向があるんですよね。物凄い上手いプレイヤーがマシンガントークで「こういう時はこうだよねえ」とか独り言のように言ってる情報はあるけど、それを「初心者と丁寧に共有しよう」という文化があまりない。
日本語の情報は「網羅性」は結構弱くて細部で間違ってることもあったりするんだけど、「tips」の方がむしろ知識の本体だというか(笑)豊富なtipsの積み重ねによって、各人が各人なりに「ベストフィットして刺さる」方針を見つけることができる環境になってるところがあるなと思います。
また、時々日本には「欧米の網羅的情報をキチンと咀嚼して、初心者向けに丁寧に噛み砕いてシェアする」みたいな神様的存在がいて、そういう人たちが自分ひとりがスーパープレイするってだけでなく「みんな」のレベルを引き上げようと努力してくれるのも凄い強みだなと思います。
イーロン・マスクのプレイスタイルは海外の「網羅的な情報」を「イーロン個人の我流」でオリジナルに使い倒してる感じなんだけど、でもそれは「イーロン個人の手癖の範囲」にどうしてもなっちゃう傾向はあるんですよね。
「最後の最後の痒いところに手が届く」レベルの話は、日本語環境の「色んなプレイヤーの”我流”」がそのままマッチングされてシェアされる知識蓄積の方が合理性が高くなる可能性はかなりあるなと思います。
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つまりまとめると、
・「いちいち一個一個の場面に対して最適化する知恵」を集めるのが苦手だから、「汎用的にだいたいどこでもそのまま使えるビルド」を使う。そのビルドを考える上で常識にとらわれない斬新なオリジナリティがあるのが「イーロン・マスクの強み」。
・日本は「網羅的知識」と「個別性」の間のラストワンマイルを「みんなそれぞれの我流」で埋めて最適化するカルチャーがあり、それを「こういう事あるよね?わかるぜー、こうしたらどう?」みたいな直接的シェアによって蓄積してブラッシュアップする事ができる。つまり「個別例」に「ちゃんと刺さる専用品の工夫」をそれぞれの場面に応じて積み重ねる事ができるのが強み。
…というようにまとめられると思います。
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5●「経営」面における日本の強みの活かし方について
イーロン・マスクって、ツイッター買収してから迷走しまくっててケチがついてますが、スペースXとかテスラの経営については(特にスペースXについては)「歴史を変える」レベルの天才なのは間違いですよね。
テスラについては、ウェブメディアからEVに関する記事を依頼された時(最近やっと書き上げたので近々アップされます)に色々試乗してとりあえずまとめてみた以下のnoteでかなり(テスラファンにもEV懐疑派にも)評価高かったので読んでほしいんですが。
ただ、「イーロン・マスクのエルデンリングビルド」に限界があるように「テスラ」のやり方にも限界があるのは間違いないと思うんですね。
スペースXは、本当に宇宙開発の歴史を丸ごと変えたぐらいの偉業で、でも「ロケット」は量産するって言っても車みたいに何百万台とか作らないから、「ただ一つのユースケース」に最適化すればそれでいい世界なんですよね。
一方でテスラを、今の株価を正当化するぐらいまで成長させるとなったら、自動車製造以外の色々な儲け方があるにしても、少なくともトヨタぐらいまで売るとしたら本当に「千変万化する色んなユースケース」に対応しなくてはならなくなる。
「イーロン・マスクのエルデンリングビルドの限界」は、「テスラ経営の限界」に近いものがあるかもしれず、実際上記記事を書いた一年前に比べてテスラの株価は4割近く落ち込んでいる。(アメリカ株の歴史的上昇相場の中でそれなんで結構深刻です)
(後日追記なんですが、この「スペースxとテスラの違い」という話で質問が多いんですが、スペースxのロケットは必ずプロが扱いますし、発射許容条件などを厳しく定めた範囲で本当に特有の目的に使用しますが、車は何百万台と生産されてそれがそれぞれ全然違う気候と整備状況の中で扱われるだけでなく、多種多様なユーザーのニーズがあって、家族構成や”単なる好みの問題”といったレベルの多様性にまで対応しないと、テックマニアは買ってくれるけど普通の人には刺さらない部分もある。
なんか、テスラはモデルチェンジしても外見が変わらないので、「新しいの買ってドヤりたい層が買わないという問題がある」っていう論評があって笑っちゃったんですが、「スペースx」レベルの発想からするとクソしょうもない「そういう多様性」にも刺さる専用品を用意できるかが「車ビジネス」では重要な部分もあるってことなんですね。)
一方、昨年後半から「やっぱいきなり全員EVは無理かも、移行期にはハイブリッド結構大事だよね」的な市場環境になってトヨタの業績が好調で、トヨタ株の方は25%ぐらい上昇してます。
日本のSNSでよくいる「EVなんてどうせ流行らないだろう」という話には私は賛成できなくて、”超長期的に見れば”EV時代になることは確実だと私は思っていますが、ただイーロン・マスク個人が握ってしまう「単一の正解」以外を排除していくと、「何百万〜一千万台」を売るにあたっての「多種多様なユースケースに対するそれぞれの個別的最適化」にフィットしづらい面があって、その齟齬がこの一年ぐらいで明らかになってきたと言えるのではないかと思います。
その点で、「多種多様なケースをちゃんと個別に追い込む」力を持っている日本車メーカーが、徹底的に「市場ニーズ」ベースで戦っていける余地もあると言えるはず。
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6●ソフトウェア産業でも「ちゃんとフィット」させる勝ち筋もあるはず。
自動車メーカーみたいな製造業ではソフトウェアに比べて「個別のケースを突き詰める」場面も沢山ありますし、強みが活かしやすいというのはイメージしやすいですよね。
じゃあソフトウェア産業は?て話なんですが、それでも結局同じ勝ち筋はあるんじゃないかという感じもします。
まずそもそもエルデンリングも言ってみれば”ソフトウェア製品”ですがw、このゲームの構造は確かに海外ゲームに近いけど、「作り込みの丁寧さ」には日本らしさもかなりあるように思うんですよね。
海外ゲームは、「世界観」がシステムとして作り込まれた結果個別に生起する「それぞれの場面」に対してゲーム体験が楽しくなるようにアドホックに(≒後付けで)イジりまわすようなことをあまりしない印象があります。
一方でエルデンリングは「全体のシステム」との整合性を気にしすぎない形で別個に「ボス戦一個」についてその「体験」を作り込むことに主眼が置かれていて、それが「何回死んでもすぐリトライしてなんとかクリアしてガッツポーズ!」みたいな体験を産んでいる。
小ネタだけど死んじゃったらそのすぐ手前のスポットからストレスなくリトライできるようにしているとか、何周もするプレイヤー向けにレベル上げの裏技スポットみたいなのもあえて放置して残してある(海外ゲームはアップデートでそういうのを消しちゃう事が多いような)。
「全体との整合性」とある程度切り離された「一回性のその場」の現象に対してちゃんと作り込めるというのは、日本的なチームワークの得意な側面としてあるはず。
ゲーム以外でも、ただITで切り出してシステム化可能な部分だけをゴソッとやって人々の生活がそれに合わさせられる、という形ではなく、「手触り感」というか細部の生活感の延長でそれを自然にサポートするような部分を丁寧に作り込んで、アメリカ型のITにはない発想でグローバルにも使われる、みたいな可能性が、「日本発」の勝ちパターンとして今後出てくるだろうという感じはあります。
メルカリも、リユース市場ってあちこちに一応あったしマスに扱おうとするプレイヤーは結構いたと思うけど、細かいカルチャーレベルでちゃんと手触り感のあるUXを作り込んだからグローバルにも展開できた、みたいな話がある成功例だろうし・・・
あとはなんか、詳しくないけど、「予定表アプリ」みたいなメチャクチャベタなというか、これ以上イノベーションのかけらもなさそうな分野で、かなりグローバルな顧客獲得をしているらしいタイムツリーみたいなのも、「日本発ならでは」感があるなあ、と思って見ていました。
https://timetreeapp.com/intl/ja/newsroom/2023-09-25/timetree-jnb-awards
「使いやすさ」(特にインテリ的な人間以外でも使える)を作り込むってことが、日本発の強みとして今後必ず意味を持つはずだってことですね。
こういうのはtoBのソフトウェアでも言えて、最近この記事がめっちゃ良かったなと思ってるんですが、
最近、「東京のベンチャー」と「日本の中小企業」的な連携が新しい段階に入ってるんじゃないか、という感じがしてます。
上記記事では、
…みたいな話をしていて「かっこいいな」と思ってたら、なんと僕のクライアントの地方の中小企業がこのバクラクを最近導入していて、さらにその周囲にいる「今までこんなソフト使いそうになかった小さい会社まで浸透しつつありますよ」みたいな話を聞きました。
タイムツリーが「単に使いやすい予定表管理アプリ」ってだけで世界中で使われるみたいな、こういう形で一点突破するスタイルを徹底的に磨いていくのが、日本の勝ち筋としてあるように思っています。
(誤解してる人もいるのでちょっとだけ追記しますが)、ただ「日本企業は細かいことに気づけるから強いよね」ではダメで、「その細かい部分を作り込める能力が、明確に戦略上の強みになる分野に誘導した上で、その狙いすました優位性の作り込みに対して”細かいことに気づける能力”を思う存分発揮するが大事だよね」という話をしているんですよ。
「顧客から見て決して求められていない部分」に必死にこだわりすぎて疲弊するような、そういう「日本企業あるある」を脱するには、その「能力」の「適切な使い道」について戦略的に考え尽くすことがむしろ重要なのだということです。
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7●エルデンリングの世界ヒットから見える「日本の勝ち筋」
ちょっと話題が多岐に渡るので最後の方は駆け足になっちゃいましたが、いかがでしたでしょうか。
「イーロン・マスクのビルド」が気になったからってわざわざエルデンリングプレイするっていう人も珍しいと思いますが、実際に自分もプレイしてみれば「イーロン・マスクのビルド」は「いかにもイーロン・マスク」って感じがしたし、そこから示唆されることも沢山あった感じがしました。
同時に、エルデンリングの世界的ヒットを見ていると、
こういう感じの日本の勝ち筋というのが、見えてくるように思いました。
近々アップされると思うEV関連の記事でも書いてますが、海外事例をちゃんと参考にするのも大事だし、しかし「それと全く同じことをしなきゃダメ」という論調とも距離をおいて丁寧に自分たちの戦略を作っていかないといけないってことですね。
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長い記事をここまで読んでいただいてありがとうございました。
ここ以後は、最近日本でもZ世代中心に流行ってる「FPS(ファストパーソンシューティング)」ゲームと、我々30−40代以上が馴染んできた「RPG」的な世界との価値観の違いとか、それがもたらす社会的変化、みたいなものについて考えてみたいと思っています。
僕の甥っ子が今大学生なんですが、FPSゲームの動画配信やっててフォロワー千人とかいるんですよね。彼に限らず色んな「FPSゲーム」で育った世代は「RPG」で育った世代とかなり違う価値観になりそうだな、というような話をしたいと思っています。
「RPGで育った上の世代」が、「FPSで育った下の世代のフットワークの軽さ」を「我慢のたりなさ」だと誤解しないで済むような、カルチャーギャップの超え方がここにはあるんじゃないかと思っています(笑)
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2022年7月から、記事単位の有料部分の「バラ売り」はできなくなりましたが、一方で入会していただくと、既に百個近くある過去記事の有料部分をすべて読めるようになりました。これを機会に購読を考えていただければと思います。(これはまだ確定ではありませんが、月3回の記事以外でも、もう少し別の企画を増やす計画もあります。)
普段なかなか掘り起こす機会はありませんが、数年前のものも含めて今でも面白い記事は多いので、ぜひ遡って読んでいってみていただければと。
ここまでの無料部分だけでも、感想などいただければと思います。私のツイッターに話しかけるか、こちらのメールフォームからどうぞ。不定期に色んな媒体に書いている私の文章の更新情報はツイッターをフォローいただければと思います。
「色んな個人と文通しながら人生について考える」サービスもやってます。あんまり数が増えても困るサービスなんで宣伝してなかったんですが、最近やっぱり今の時代を共有して生きている老若男女色んな人との「あたらしい出会い」が凄い楽しいなと思うようになったので、もうちょっと増やせればと思っています。私の文章にピンと来たあなた、友達になりましょう(笑)こちらからどうぞ。
また、この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。
また、上記著書に加えて「幻の新刊」も公開されました。こっちは結構「ハウツー」的にリアルな話が多い構成になっています。まずは概要的説明のページだけでも読んでいってください。
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倉本圭造のひとりごとマガジン
ウェブ連載や著作になる前の段階で、私(倉本圭造)は日々の生活や仕事の中で色んなことを考えて生きているわけですが、一握りの”文通”の中で形に…
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