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風を治すクスリ

私は校閲者、校閲ガール(?)だ。まだガールと呼んでもらえていた頃、ある女性エッセイストの作品を校閲した。

子供の頃の風邪をひいたときのスペシャルミール、すりおろしりんごやプリンなど、に関する話で、風邪に効く薬と先生は呼んだ。それは家それぞれで、思い出の味なのだ。ただ、親は何が風邪に効く薬か知らない。なぜならその時々、子供の成長に合わせ変遷するからだ。先生は息子さんが何を風邪に効く薬として覚えていてくれるのか楽しみだと、話を締めくくっていた。

その校閲にあたり、私は一か所だけ「風」を「風邪」と修正をした(はずだった)。しかし印刷されたものを見て、青ざめた。「風邪」が「風」のままだった。謝るべきかと、とりあえず編集者を訪ねた。
「私の息子の風を治す薬、ってとこよね。あれは、先生の祈り。
 息子さん、風クンっていうんだけど、今難しい病気で。。。」

近くの小学校の始業の鐘が私の仕事開始の合図だ。
今日の仕事は風くん、いいえ風先生の作品。



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Keiyama
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