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生放送風のスポーツ中継、ラジオの「実感放送」:一戸信哉の「のへメモ」20220731

2020年6月に放送した「ラジオを考える」を、YouTubeの番組チャンネルでも公開しました(番組チャンネルはスタートしたばかりですので、登録をよろしくおねがいします)。

さて、この日ラジオの話をいろいろしているのですが、その中から今回は、「実感放送」をとりあげてみます。1932年のロサンゼルスオリンピックで、日本放送協会は、ラジオ実況中継を行うべく、アナウンサーを派遣していました。しかし、大会組織委員会がラジオでの生中継を認めなかったため、苦肉の策として、「競技をアナウンサーたちが観戦して記憶したうえ、スタジオに戻って、あたかも実況しているかのように競技の様子を再現して伝える」実感放送を行いました。このときの様子は、大河ドラマ「いだてん」にも登場しています。

...実感放送では、スタジオに選手も呼ばれ、そこで自ら試合を再現し、競技後の感想も述べるというスタイルがとられた。「いだてん」の劇中では、その光景が再現されていたが、水泳の放送ではバケツに汲んだ水をかき回して効果音をつけたりと、ラジオドラマの収録風景のようでもあった。

ただこれが、ロサンゼルスについてから、放送局の人たちが考えついたものなのかというと、そうではないという説もあるようです。NHK放送文化研究所の小林利行さんが、実は以前から行われていた擬似的な実況の応用ではないかという説を述べています。

本稿では、「実感放送」はそれ以前に行われていた擬似的な実況に関する様々な工夫の上に成り立ったもので、それまでの試行錯誤の一つの結実点として捉えるべきではないかと提案する。そしてその根拠として、①1927年大正天皇大喪(28年昭和天皇即位式)、②ロス五輪の派遣員も関わっていた1927年甲子園の全国中等学校優勝野球大会の東京での放送、③派遣員の証言の中の「初めてではない」という暗示、などを挙げる。さらに本稿では、「実感放送」がその後、戦後の自主取材の機運を高めるきっかけになったり、災害報道の一形態として応用されたりしていることを紹介する。

大正天皇大喪や、高校野球の東京での放送において、「生放送」が難しい環境の中、実況風の放送を行ったという経験が紹介されています。

面白いのはさらにそののち、戦後になっても、ラジオの新しい番組の形式として、「架空実況放送」が行われたという話です。効果音を加えたラジオドラマでありながら、実況放送のような番組を作るもので、「関ヶ原」を東軍西軍に分かれて実況するという番組も人気を博したとあります。

ラジオでの中継に、どのようにリアリティをもたせるのか。「音で伝える」という制約の中で、さまざまな手法が生み出されて、それはフィクションである「ラジオドラマ」にも応用されていたということになります。

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