樺太恵須取の悲劇を稚内の学生が伝える:一戸信哉の「のへメモ」 20211119
敬和学園大学でも「映像制作」の授業を開講し、さまざまな作品の制作に取り組んでいます。最近は私のゼミでも、戦争や歴史を掘り起こす作品にチャレンジしていますが、全国レベルのコンクールで受賞できるほどの大作にはなかなかたどりつけません。
そんな中で、私の前任校である稚内北星学園大学の作った作品「あの日ニレの木の下で」が、「地方の時代」映像祭で優秀賞を受賞しています。稚内北星学園大学で制作をしている、牧野竜二先生は、過去にも敬和学園大学の「映像制作」の集中講義も担当していただいたことがあります。
「地方の時代」映像祭は、「中央集権的近代工業化」社会に対する対抗軸として提唱された「地方の時代」という考え方に基づくもので、さまざまな地域の多様性を映し出す映像が集まってくることが期待されていると思います。今回グランプリを受賞した「忘れてはいけないこと~認知症受刑者が問いかけるもの~」は、岡山放送の制作でしたが、高齢化の進む刑務所の現場を取材したもので、地方民放局の制作した素晴らしいドキュメンタリーでした。
稚内北星が受賞した市民・学生・自治体部門では、多くの大学生作品が入賞しているのですが、稚内北星以外は、すべて三大都市圏の大学の制作です。都会の学生たちが地方の実情を取材して、作品を制作するというのも、もちろん重要なことです。自分がいま首都圏の学生だったらぜひトライしてみたいですし、指導する立場としても、非常に教育的意義があると考えます。しかし、「地方の時代」にふさわしいテーマが目の前にある地方の大学生たちは、同じようにテーマに接近できているのかどうか。別の言い方をすれば、私のような地方大学の教員は、自分たちの地域の課題を、普遍化して映像にまとめて、伝えるように、学生を導く指導ができているのかどうか。毎年受賞作品一覧を見て、来年こそは敬和からも、という思いをいだいているところです。
この点、稚内の学生たちは、稚内のテーマではないのですが、稚内にとって分かちがたい場所である、対岸の樺太(サハリン)を扱いました。真岡郵便電信局の9人の乙女の悲劇はよく知られているのですが、今回とりあげた大平炭鉱病院の悲劇については、北海道でも、稚内市民にも、あまり知られていない出来事だと思います。こうした歴史を掘り起こした作品を制作した学生たちに、敬意を評したいと思います。おめでとうございます。
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