永沢さんにもワタナベにもなれなかった。キズキには少しなれたのかもしれない。
ハルキストへの道、第二回。
第一回では、一番好きな『海辺のカフカ』について少し紹介した。
物語として一番好きなのは『海辺のカフカ』だけど、
登場人物が深く心に残ったのは『ノルウェイの森』のほうだ。
その中でも、憧れに近い感情を持った人物を紹介していく。
まずは主人公のワタナベトオル。
彼ははっきり言って典型的村上春樹的主人公だと思う。
群れることなく淡々と生活を送り、お決まりのの相槌「あるいは」を使うし、端々に諦観をのぞかせるような言動をするのが村上春樹的だ。
「日曜日には僕はねじを巻かないのだ」
とはワタナベの言葉で、
一度は言ってみたいがそんな機会はない。
悪く言えば、付き合いが悪く、暗いキャラクターのワタナベだが、永沢さんという上級生に気に入られて、目をかけられる。
その永沢さんと一緒に女の子と寝るような遊びもやるが、ほとんど永沢さんの手柄でおこぼれにあずかる形でいい思いをしている。
また大学で緑という女の子に好意を寄せられたりと、彼は結構人間関係に恵まれている。
クールなのに男女問わず気に入られる。それも特別な人間に気に入られる。
おまけに彼自身のスペックも高め。
こんな設定で人生やってみてーと思わせる設定である。
次に、永沢さん。
少し触れたが、ワタナベの上級生で同じ学生寮に住んでいる。
スーパーハイスペックマンで、学業優秀(東大法)で外務省にいくことになるし、眉目秀麗で口もうまいため女の子を落とすのもお手の物。
実家は太いし、恋人のハツミは聡明なお嬢様。
上級生との揉め事を解決するためにナメクジを飲み込む度胸まである。
こんな設定で人生やってみてーと思わせる設定である。(二回目)
彼の発言には名言がそれはもうたくさんあるので、少し紹介する。
ほんの一部だけど、こんなに含蓄のある事を言っているのだから。永沢さんというキャラクターに会えるというだけで、この小説に意味があるといっても過言ではない。多分。
最後に、死んでしまった親友のキズキ。
『ノルウェイの森』は、ワタナベと、ワタナベの親友キズキと、その恋人直子の3人で過ごした高校時代の青春がキズキの自殺によって終わり、歯車が狂ってしまったことによる、ある種の喪失感からスタートする物語だと思っている。
3人の青春にはいつも中心にキズキがいたのに、キズキの自殺によって終わってしまった。
彼は、直子とワタナベを自身の座談の才能で盛り上げたが、直子とワタナベに向けてしかその才能を使わなかった。
正直キズキに対しての描写は少なく、どんな心理であったのかを推し量るのは難しいが
3人の青春を誰よりも大事に思っていたのはキズキだと思っている。
だからこそ、彼は己の才能をこの中で最大限発揮し、外には向けなかった。少年期特有の極端な考え方なのだが、彼は内に向いていくこと決めてしまった。
そしてその青春は限られた時間の中でしか許されないと気づいた時から、純粋すぎるが故の希死念慮を徐々に増大させていったのかと想像する。
その純粋さがかっこよくて、美しいとも思った。
こう見ると、キズキと永沢さんはかなり対極の存在として描かれているとわかる。
少年的な純粋さがゆえに世の中や社会を遠ざけて、死んでしまったキズキと
社会に己の才能を問い、努力しサバイバルしている永沢さん。
その間にいるワタナベはキズキの純粋さに未だ心を惹かれながら、大人になろうと努力しているように見える。
直子や緑やレイコさんの存在もこの方向で考察してみると面白いかもしれない。
ところで、当然のことながら、
僕は永沢さんのようなスーパーハイスペックマンにはなれなかったし
ワタナベのようなクールでタフな男にもなれなかった。
しかし、数少ない友人と座談の才能(?)で盛り上がることはできる。
キズキには少しなれたということだ。
問題は、もっとキズキに近づくには自殺しないといけないこと。
そんな度胸はない。
あと、まだまだ少年的立ち位置にいるということでもある。
オトナにならねば。。。