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助手席から見守る
夫が四半世紀憧れて手にした左ハンドルの車。
年季が入った車なので、そこまでビックリするようなお値段ではないけれど、これからコツコツ支払っていかなくてはいけない大切な宝物なので、普段車を運転しない私は、ハンドルは握らないと宣言していました。
が、諸々事情があり、一応、練習しておく?という話になって、人も車も少ない山奥まで、ドライブにいくことにしました。
まだ自宅を出て間もないところから、「運転代わる?」としつこい夫。
私がイメージしていたのは、山奥のだだっ広い駐車場で練習してから路上に出ていく段取りだったのに、その一歩手前のコンビニの駐車場で、運転席に押し込まれてしまいました。
「いい?ウインカーは左だからね。前のライトの辺りに白いラインがくるようにすれば、だいたい真ん中を走っている感覚だよ。ブレーキはちょっと固く感じるかもしれないけど、きちんと効くからしっかり踏み込んでね。※★◯¥▶︎〜」
そんないっぺんに言われてもわかりませんがな。
そうは言っても免許持ってますから。
ここまできたら、覚悟を決めて運転するしかないか、と、アクセルに足をかけました。
「あ、ちょっと右に寄ってるよ」
「はい、アクセルもっと踏んで」
「次を左折するから、左のウインカーを下に下げてね」
「あー、カーブは減速できたら、またすぐ加速してすぐに抜ける!」
「またはみ出してるな」
うるさい!
うるさい、うるさい!!!
久しぶりの運転で、初めての左ハンドルで、左のガードレールの下は崖になっているようなグネグネの細い山道で、私は手に汗かきながらハンドルを握って、ようやく湖の広い駐車場に着いたのでした。
「私、ツムギの気持ちがわかったわ」
缶コーヒーを飲みながら、夫に言いました。
「私、左ハンドルなんて初めてだったんだよ?
わぁ、すごいね、運転できてるね!とかなしに、いきなりダメ出しの連発じゃ泣きたくなっちゃうよ」
「あ、ごめんごめん」
夫は笑っています。
「それにさ、一応、免許だって持っているんだし、ちょっと慣れるまでには、自分のペースってものがあるじゃない。そんなに矢継ぎ早に指示されたら、もう自分で考えるのやめようってなる」
夫や義母ほどではないと思うけれど、私もツムギには似たようなこと言っているんだろうと思いました。
助手席に座ったら、よっぽど危ない!ってことがなければ、口出さないでほしいと思う。
余計に焦ったり、自信なくしたり、注意散漫になったりしてしまうもの。
子育ても同じなのだろうなぁ。
こんな危なっかしい運転の私の助手席に乗ってくれているんだ。
信頼してくれているし、私も何かあれば助けてくれると思っているから安心して運転している。
何より、自分のせいで事故を起こすわけにはいかない。
安全に家まで帰らなくちゃ。
この感じ。
こうして、信頼関係を結んで、同じ車に乗り合わせる感じ。
これが理想的な親子関係なのだろうと思いました。
ツムギの人生のハンドルはツムギのもの。
乗りたい車だって自分で決めたいだろう。
車なら、運転の仕方や交通ルールを教えてあげられるかもしれないけれど、ツムギが乗りたい乗り物は、私が運転できない新しい乗り物かもしれない。
それでも、助手席に乗せてくれてありがとうね。って。
一緒にドライブ楽しいね。って。
危険が迫っていないか、周りはよく見ておくからね。って。
この道を行くとどんな景色が見られるのか楽しみだな。って。
そうやって、余裕を持って、ツムギの運転を見守れたら、もっとノビノビと楽しそうに進んで行くのかなぁと、帰りには調子に乗って、高速まで運転しちゃいながら、反省したのでした。