【191日目】一緒にお風呂実験
お夕飯先に食べ始めてて。とメッセージを送っていたのに、夫と娘が準備していた食事に私が間に合ったので、夫は上機嫌でした。
もっとも、主菜にしてねと用意していたホッケを焼き忘れていて、玄関を開けても、炊きたての白米の匂いしかしてきませんでしたけれども。
帰りに寄ったスーパーで、半額になっていたお刺身を買っておいてよかった。と思いました。
「早く食べてアーニャの続きを観よう。お風呂沸かしちゃったけど、ツムギは今日はいいな。たまにはお母さんに一番風呂に入ってもらおう!」
とってつけたような労いでしたが、悪い気はしませんでした。
いただきますをしたのは20時15分。
よほどサッサと食べない限り、アニメを観る余裕なんてないでしょうに。
まったく、父親は娘に甘い。
それでも、今家族3人で一緒に観ているのはSPY×FAMILYだけで、私たちのようなステップファミリーの主人公たちに、自分の姿を重ね合わせたりしてみんな楽しみにしています。
娘の食事が終わったのは21時。ほとんど守れていませんが、就寝時刻です。
「アーニャ、アーニャ!」
ウキウキする娘の機嫌を損ねないように、静かな口調で言いました。
「ツムギ、やっぱりテレビはまたにして、一緒にお風呂に入らない?寝る前にテレビを観るのはあまりよくないし、今日は急に冷え込んだから、温まって寝ようよ」
娘はしばらく考えていましたが、珍しくわかったとお風呂の支度をし始めました。
「じゃあ、あれ入れていい?」
「いいよ。今日は特別に高級なクナイプにしてあげるよ」
娘が喜ぶので、一緒に入るときには入浴剤を入れてあげることにしていますが、いつもは〇〇の湯みたいな、お手ごろ価格の入浴剤。私はあまり好みではなかったのですけれど、そうそう贅沢もしてはいられませんので。
オレンジの湯に身を沈めた娘は、もうアーニャのことなどすっかり忘れている様子でした。
他愛のない話をしばらくした後、娘が学校での出来事を話し始めました。
「今日ね、ツムギが描いたイラストを持って行って教室に貼ってもらったんだけどね、白髪みたいって言われたの」
その絵は、私もチラリと目にしていましたが、水色のペンで輪郭を描いたボブの可愛い女の子でした。
「そうなの?それは嫌な思いをしたね。でも、作品を作る人は、見る人がどんな風に感じるかは自由だと思っておいた方がいいんじゃないかな?こう感じてくれ!って言うのは押し付けだよね」
「でもさ、白髪だなんて、おばあちゃんって言われたみたいで嫌だよ」
「そうかー。それは、ツムギが白髪イコールおばあちゃんだから嫌って思っているからだね。じゃあ、私も白髪あるからおばあちゃんなのかな?」
「いやぁ、それは…」
少し気持ちが和らいだようでした。
「それからね、Hちゃんに嫌なことされたの。前にツムギが描いた絵をあげたんだけど、それをメモ書きにしたんだよ」
娘曰く、Hちゃんはときどきカンニングのようなことをすることがあるらしく、それに使われたんじゃないかと。
「それはHちゃん良くないねぇ。ツムギは嫌な思いをしたんだね。そう言う気持ちがわかるようになったことはいいことだよね。私も、一生懸命選んでツムギに買ってあげた机に、字を書いたり汚されたり、同じように悲しい気持ちになっていたんだよー」
「あれぇ?そんな人いたねぇ」
娘はおどけて言いました。
「でもさ、その絵が教室の床に落ちていたのを、ツムギ見ちゃったんだよ」
2人で顔を見合わせて笑いました。
「あれぇ?いっつも私が選んであげた服を床に脱ぎ散らかしているのは誰だっけぇ?」
学校に通っていれば、楽しいことばかりではないようです。
少しずつ人間関係も複雑になって、傷つく機会も増えていくのでしょう。
「ツムギが嫌になった気持ちは当たり前だし、よくわかるよ。また嫌な気持ちになったら、お家に帰って話してくれたらいいよ」
お風呂は、そんな話ができる場所なんだ。と、前回の一緒にお風呂で感じてくれたのかも知れません。
アーニャを先延ばしにしてよかった。
おかげで娘の悲しい怒りを聞いてあげることができました。
今朝、寝室でいつも通りお化粧をしようと思ったら、私の鏡の上にメモが置いてありました。
『パットのついたシャツを買ってください。クラスの女子の2/3が持っています。口で言うのははずかしいので手紙を書きました』
えー、そんなの、お風呂で言ってくれてよかったのにー。と思いましたが、彼女には彼女なりの判断基準があるようです。
難しいお年頃になってきましたね。
でも、間に合ったのかな?
娘とのことは何でも夫に報告してきましたが、「えー?お父さんに話したの?」と怒られることが増えてきました。
そう言えば、しばらくお父さんとお風呂に入っていないようですけれど、たまには一緒に入ったら?と、きっかけを作ってあげた方がいいのかしら。