夫の浮気騒動(反面教師)
「お父さんの会社の人は、家族がいる人に、早く帰った方がいいですよ、って、言わないのかな?ヒドくない?」
職場の人たちとの1泊旅行からの帰り、ツムギの寝る時間になってようやくきた連絡が、更に寄り道をして帰るような内容だったために、「すぐ帰ってきてください」と、冷たく返した私。
今日はそのつづきから。
「ツムギがそんなこと言ったのか?へぇ」
その日の寝る間際、ツムギもお父さんのこと心配しているよ。と、釘を指すつもりでツムギの言葉を伝えると、夫は呑気に、まるで娘の成長を感慨深く味わっているかのように返してきました。
浮気疑惑がかかっているというのに。
ここまで白日の下に晒されたら、おとなしくするだろうと、半ば勝者の気分でいました。
「残業になっちゃったよ」
シフト勤務の職場で体調不良者が出ると、その日いるクルーでなんとか穴埋めをしなくてはいけないことは今までも何度かありました。
何もこんなタイミングで。
私の妄想劇場では、誠実な夫が(この期に及んでも愛のある言い方笑)、別れ話でもしているのだろう。今日で終わりにするなら、それもやむなし。と、夫がクロである前提のストーリーが展開されていました。
「残業になっちゃったよ」
一週間経ったかどうか。
え?そんなことある?偶然にしちゃ、タイミング絶妙じゃない?
まぁでもな、娘の前で浮気疑惑かかってるって言われて、さすがにそれはないよな。
このときは、裏付けを取るため…といっても、シロの裏付けが取りたい気持ちで見たのだったと思います。
え?
夫の位置情報はまたしても、あの場所を示していたのです。
後輩「マキ」を迎えに行った場所。
血の気が引きました。
「今日はどこで残業?」
その日によって、職場の敷地内の施設を持ち回りで仕事している夫にカマをかけました。
「◯◯だよ」
「うそつき。うそつきは嫌い」
「え?なんでそうなるの?」
その後、スッと位置情報の共有を外されているのを見て、私の疑惑は確信に変わったのでした。
夫とすれ違ったまま土曜日を迎え、私は夫婦の寝室のレイアウトを変えました。
夜勤明けで昼には帰って来るはずの夫が、その日も15時頃に帰宅し、小さな隙間を開けたシングルベッドの片方に、めんどくさそうに潜り込んでいきました。
翌朝ツムギが「お父さん、今日は休み?」と聞くので、「そうなんじゃない?」と興味なさそうに答え、相変わらず帰りが遅い日が続いていることを伝えました。
「どう思う??」
「そりゃあ、浮気だね」
どこまで理解しているかわからないけれど、私が諸々吹き込んだので、ツムギもそうなのかなぁと思い始めています。
「本当に浮気だったらどうする?」
「浮気だったら、ツムギはケイトについていくよ」
「そうかー。そうなるよねー」
今まで家庭内で問題が発生すると、どんな時でも、夫とツムギがセットだったのに、まるで、普通の家族のように、ツムギはどちらの親についていくかを選んでいるのでした。
「あーあ、せっかく今日は部活休みなのに。
ケイトも予定ないんでしょ?三人でお出かけしたかったな。どうしたらいい?」
「どうしたらいいだろうねー。お父さんに聞いてみる?」
まったく話をする気がしていなかったけれど、こうしていても仕方がないので、そんな風にのらりくらりとツムギに委ねてみました。
すると、「わかった!お父さんを起こしてくる!」と言って、いつもは自分が父親に呼び出されている要領で、夫を家族会議に召集したのでした。
「えーっと、お父さんに浮気疑惑がかかっていますけど、お父さんの意見を聞かせてください」
最初は何から話したらいいか戸惑っていたツムギが、しっかり進行役となって、会議を進めてくれました。
余計な疑いをかけられてめんどくさがっていた夫も、私たちが真剣な話し合いを求めていることに気づき、ポツリポツリと話始めました。
「あまり仕事のことを家庭に持ち込みたくなかったんだけどさ…」
職場で若い後輩がパワハラに遭っているという話は、夫婦だけのときに少し聞いていました。
事態は思った以上に深刻だったらしく、出勤できない日も増えてきてしまった後輩を家まで訪ねることもあったそうです。
「でも、位置情報を切る必要はなかったんじゃない?」
バツが悪くなりながらも、引っ込みがつかなかった私は、何か言わずにはいられませんでした。
「わかったんだよ。ケイトが言いたかったことが。
確かに位置情報を見られているっていうのはいい気がしないって。
だから、両親とも位置情報の共有をやめることにしたんだよ」
そんな話を聞いていたツムギが、自分の考えを挟んできました。
「出かけた時には連絡が必要だね。ツムギもお父さんを反面教師にして、ちゃんと連絡することにするよ」
「そうしてもらえると嬉しいな。
それに、何か大変なことや困っていることがあったら、詳しいことまではいいけれど、やっぱり家族に話しておいてほしいな。
今回のことも、状況だけでも話しておいてくれたら、余計な心配しなくてもよかったもんね」
これから友達付き合いが増え、行動範囲も広がっていく娘。
この約束を守れるかどうかはわからないけれど、きっとこの出来事はツムギの心に何かを残してくれたのではないでしょうか。
家で待つ母が、どんな思いでみんなの帰りを待っているか。
中学生の娘に、父親の浮気疑惑の話を事細かにするのはいかがなものかと思ったけれど、私も私で、困ったことを一人で抱えず、家族に共有したことで、今回の件はまるく収まったように思います。
もう、余計な詮索はやめよう。
浮気されていようが、されていまいが、どっちでもいいや。
そんなことに心を振り乱されるよりも、この家族と過ごす時間を大切にしよう。
こうして、4年目の浮気疑惑は、シロという結果で終息したのでした。(たぶん)
ちなみに、車で出かけた帰りに、いつも後輩クンの家の手前で消息不明になっていたのは、ドライブ中、後輩クンのスマホの音楽を聴くために、夫のスマホを切っていたからだそうです。
それと、急にキムタクになったのは、本当に本当に他意はなかったらしい。
探偵事務所のサイトで、夫の美意識の変化は、ほぼクロであるって書いてあったんだけどなー。