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『キャラ化』してしまった継娘

継娘と暮らし始めて四年半が過ぎました。

小学四年生から今に至るまで、それまでの私にはまったく無縁だった子育ての世界を、継娘ツムギは余す所なく見せてくれています。

私がツムギと向き合う中で困ったり、悩んだりすることをちょっと調べてみると、たいていそれは現代の子育てで直面している問題を孕んでいて、既にいろいろな著書で語られていることを知ります。


『キャラ化』

そんな言葉があることも、ツムギが気づかせてくれました。


それまでも、「ツムギは陰キャだから!」と口にするのは聞いたことがありましたが、陽キャ陰キャぐらいの色分けは、さほど珍しいこととは思いませんでしたし、アニメ好き=陰キャ、かつてオタクとカテゴライズされて、若干差別的にグルーピングされていたその人たちが、時代と共に市民権を得て、むしろいい意味合いで使われるようになったのが陰キャだと勝手に思っていたので、今どきの子の言葉として聞き流していました。


今月、学校の宿泊行事で寒い地域に行く予定のツムギが、今回は珍しく早い段階から、持ち物の話をし始めました。

「宿泊のためにパジャマがほしいの。今のはみんな小さくなってしまって」

この1、2年はさほど身長も伸びていないでしょうに…とは思ったものの、ツムギの冬用のパジャマは胸元に大きなクマのアップリケがついていたり、すみっこぐらしのイラストが描いてあったり、中学生が友達の前で着るには抵抗があるのかな?とも思ったので、「買ってもいいけど、家でもちゃんと着てちょうだいね」と、ともすると、外にも着て出かけた普段着でベッドに入ってしまうことのあるツムギにちょこっと条件をつけて、試験が終わったら買いに行こうと約束をしていました。


「ねぇ、これをパジャマ代わりに持っていってもいい?」

それは、2年ほど前にツムギ自身が選んで、かなり気に入って着ている裏起毛のスウェットワンピースでした。

「いいけど、それ、お尻まで隠れてあったかいから、部屋着に持っていった方がいいんじゃない?」


それまでご機嫌に話していたツムギの顔が一気に曇りました。

「ヤダ!これ長いからヤダ!」

「じゃあ、あっちの白いトレーナーは?」

「あっちは小さくてヤダ!」

「フードがついているのもあったじゃない?」

「あれは短いからヤダ!」

あー、始まった。

自分の要求が通らず不機嫌になると、代案もすべて拒絶してきます。

「パジャマは買おうねって話になっているし、下着だって新しいのを持っていきたいでしょう?必要な物は買ってあげるけど、ある物まで買うのは嫌よ」

実際、今月は、突然授業で必要だと言われた柔道着を買ったり、部活のラケットのガットが切れたのを直すついでに、練習着のTシャツとハーフパンツをもう1セット買ってくれと言われて、予定していない出費が続くなぁと思っていたので、少しはがまんしてほしいという気持ちが先に立ってしまいました。


こういう時は、ツムギも家族の一員として物事を捉えてほしいと、包み隠さず、我が家の家計の状況も踏まえて説明してみたのですけれど、ツムギの場合、これも逆効果。

そんなことにまで話を広げてツムギの意見を否定する気かと、更にヘソを曲げてしまいました。



そもそも私がこんなにケチ臭いことを言わなくちゃいけなくなった原因を作っている夫に応戦してもらおうと、三人で夕飯を食べているときに、もう一度この話を持ちかけました。

中学生女子の気持ちすら理解できない夫は、本気のハテナ顔で、「なんでこれじゃダメなんだ?」とツムギに質問し続けます。

「嫌なんだよう!こんな背中が真っ赤で目立つやつ、着たくないんだよう!」

え???

だって、最初はパジャマの代わりに持っていくって言ってたじゃない。
真っ赤って言ったって、白と赤の幾何学模様だから、どぎつい赤じゃないし、どちらかと言うと、全体的にはツムギが希望しているクール系じゃない。
星空鑑賞のときはアウターを着るのだから、前から見たグレーしかわからないじゃない。

夕方入浴が終わって寝るまでの5時間程度それを着ることを、なんで、そんなにも拒むの??

「ツムギのキャラじゃないんだよ。ツムギはカッコいい系だから、こんな赤いの着られないんだよ。そのキャラでいるのが楽なんだよ」

あー、ここに本音があったのね。
あー、苦しそうだなぁ。

「楽」と言っているから、本人にとっては本当に楽なのかも知れませんが、私から見ていると苦しい。


学年でね、ウルフカットが一番似合うって言われているから、髪型変えるのやめようかな?

ツムギがね、スカート履いて行ったら、みんなビックリして、一日女子に追っかけ回されたんだ!

部活の女子ってさ、キラキラキャラばっかりで、先輩に媚びてて嫌いなんだよね。

Nちゃんのポニーテール可愛いくない?ね、ね、ずっと見ていられるよねー!

おばあちゃんがね、ツムギは黒が似合うねって。だからツムギはカッコいい系なんだよ。


私から見るツムギは、超女子なのです。
キラキラや可愛いに憧れる女子。

本人的には、嫌悪の対象であると言っているけれど、そんな可愛いが気になって仕方がない。


年頃の女の子が、周りの友達と比較し出し、自信を無くしたり、迷ったり、時には自意識過剰になったり、それはわかる。

友達の目が気になって気になって仕方がないのもわかる。

人間関係に不安を感じて、何者かを演じざるを得ないのもわかる。


わかるのだけれど。


今どきの子育てではきっと、宿泊行事のトレーナーごときでイジメにあっては大変!と、本人の希望通りにトレーナーを買ってあげるのでしょう。
それとも、中学生女子ファッション大事よね!と、端から、着るものすべて新調して、宿泊行事に送り出すのでしょうか。


私はなぁ。

ツムギにしては珍しい服着てるけど、そういうのも似合うね!なんて言われたりして、そうかなぁ、って、新しいファッションに挑戦してくれたらいいのにと思ったり、そもそも誰にも背中のデザインのことなんて注目されなくて、ツムギの自意識過剰だったよ、って学んでくれたらいいのにと思ったりしてしまいます。


仮面。


コミニュケーションが得意ではない今のこどもたちは、『キャラ化』して仮面を被ることによって、傷つきやすい心を守っているのだそうです。


鎧。


ツムギは、転校によって自然に被らざるを得なかった仮面の下に、鎧を身に纏って、母親がいない寂しさを紛らしてきたのではないだろうか?


それに気づかない祖母に、黒が似合うと、天真爛漫の笑顔に不釣り合いな服を着せられて。


せめて、家の中では仮面も鎧も脱ぎ捨てて、素のツムギでいてほしいと、頭では願うのですが。

そして、わーわーわーわーこちらの都合などお構いなしに、自分勝手に振る舞うツムギを見ていると、私の前では素のツムギを出せているんだと思うのですが。


私にもうちょっと余裕があったら。


家族としてではなく、第三者としてツムギをサポートしたかったなぁ。

同じ家の中でそれを受け止め続けるほどの器が、私にはまだなさそうなのです。


一緒に買い物に行ってほしいんだよね。

一緒に選んでほしいんだよね。

どうか、その日まで、私の心の余裕を奪う出来事が起きませんように。

我が家が、ツムギが『キャラ化』せずに過ごせる、安心の居場所になりますように。

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