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わかりやすい娘
昨夜仕事を終えて帰った私は、休みだった夫と娘と共に夕食のテーブルを囲みました。
ーそれで、今日の分電盤のお客さんはどうだったの?
と、夫。
前日私が打ち立てた作戦の通り、私の話を引き出そうと思ったのでしょう。かなりな前のめり感を出しながら聞いてきました。
(夫よ、分電盤のお客さんはクレーム対応だと申したではないか。クレーム対応の話を娘のいる食卓でどうしたらわかりやすく話せるであろうと思われたのか)
私は手早く、夫だけにさらっと状況を報告してその話は終わらせました。
夫は自分の選択ミスに気づいたのか、もしくは、わかりやすく話をしようと言っていたのに母さんの話は娘には難しかったじゃないか。と思ったのか、すぐに主役を娘に変えるべく話題を振り直しました。
ーそれで、今日の朝練ではどんなことをやったんだい?
今まで、夫からそんな風に聞かれることが少なかった娘は、ここぞとばかりに一生懸命話をしようとするのですが、急に振られても早朝の練習のことが上手く思い出せません。
ーこうやってコートがあってね、あれ、コーンがみっつ置いてあるの。
それで、あれ、それぞれに人が立っていてね。
一個めには、あれ、ふたりいて、あれ、二個めと三個めには、あれ、ひとりずつで……、
ごめん、ごめん、ちょっと「あれ」しか耳に入って来なくなっちゃったよー。
あ、やっちゃった。
ちゃんと話を聞こうと思っていたのに、つい、笑ってしまった。
夫も同じように笑ってしまったので、娘は話の腰を折られたと、一瞬嫌な顔をしました。
大丈夫大丈夫。大人だって人それぞれ口癖ってあるのよ。えー、とか、あのー、とか。ただ、あなたの場合、間に頻繁に入るから、気になるなぁ。って言っただけ。
気を取り直した娘は、話を再開しましたが、あーれー?、あぅー、あじゃなくってー、とあれを言わないために悪戦苦闘。
結局そんな様子も、娘本人も含めて、ケラケラ笑ってしまったので、いつまでも話題の中心は娘で、いつも以上に楽しい食卓になったのでした。
雲行きが怪しくなってきたのは、朝練の話もひと通り終わり、大人たちの食事が終わろうとしていたころでした。
話に夢中になっていた娘は、ほとんど食事に手をつけておらず、それでも段々と箸の進みが遅くなってきました。
原因はわかっています。
今日のサラダに、娘の嫌いなミックスビーンズが入っていたのです。
いつもなら、早く食べなさい、だの、真っ直ぐ座りなさい、だの、困った行動をいちいち注意するのですが、夫も私もすっと席を立ち、カウンターキッチンの中で食器を洗ったり明日の準備をしたり、どんどんだらしがなくなる娘には一切気を向けず、普通に会話や作業を続けていました。
あからさまに動揺する娘。
あれ?注意しないの??
私、ものすごくお行儀悪いんだけど?
私、ご飯全然食べてないんだけど??
最初はカウンター下のティッシュを大袈裟に取ってアピールしていた娘。
どんどんテーブルに身を乗り出し、最後には貞子さながら、カウンターギリギリまで頭を接近させ、私はここにいるよ、と無言で圧をかけてくる姿には、夫とふたり、笑いを堪えるのが大変でした(笑)
ようやく観念したのか、キッチンでの仕事を終えてテーブルに戻った夫に、豆が食べられないと訴えたのでした。
これもいつもの手口です。
時間をかけたことをアピールして、がんばったけれどもう無理だ、と言うポーズ。それも、言ったら許してくれるだろうと、必ず夫に言うのです。
うん、ダメ、食べて。
私はそれを許しません。
ーえー、だってふたつ食べたもん。
うん、ダメ、食べて。
ーえー、だってこんなにたくさん食べられないよ。
他のお野菜があるからたくさんあるように見えるけど、お豆はたくさんはないよ。数えてあげようか?
ほら、五つ。二つ食べられたなら後五つぐらい食べられるでしょ?
ーえー、食べられないよ。
食べられるまで見ててあげるから、今日は全部食べて。
こんなやり取りを繰り返しながら、なんとか残っていたサラダを食べ切ったのでした。
パチパチパチパチパチパチ👏
がんばったねー。
二つしか食べられないって言っていたのに、全部で七つも食べられたじゃない。
えらかったねー。
パチパチパチパチパチパチ👏
夫とふたり、全力で拍手を贈ると、娘は嬉しくて堪らなく、デレデレと隣に座る夫に崩れ落ちるのでした。
ああ、アドラー心理学で子育てを研究している学生さんがいたら見せてあげたい。
こんなにわかりやすいサンプルがあるでしょうか(笑)
今朝、玄関を出ると、お隣さんの家の前の廊下にプランターが並んでいました。
20年隣同士で暮らしているけれど、こうしてプランターが置かれたのは初めてです。
中には土からひょっこり出てきたばかりの小さな小さな芽がたくさん🌱🌱🌱
これからどんな花を咲かせるか、毎日の成長が楽しみでなりません。