持続可能性移行の研究者です

最近、やっと自分の研究課題について、自信を持って述べられるようになった。というのも、私はもともとお寺や神社などの伝統木造建造物の造営や修理に用いられる大きな木材の確保策について研究していた。その後、林業部門におけるイノベーションの創出について少し手を付け、日本における林業経済学の歴史についても調べた。里海生態系の評価枠組みや、政策過程論の枠組みの一つである衝動連合枠組みの日本の適用状況についても共同研究したことがある。今は、化学品原料としての森林バイオマスについて定性的・定量的な研究をしている。
これらの研究テーマは、それぞれに関係性を持たない。だから、自分は何者と表現すればよいのか、ずっと悩んできた。

最近、この悩みが氷解した。私は、持続可能性移行(sustainability transition)の研究者だ。
sustainability transitonというのは、なんと日本語に訳すと適当か悩んでいるのだが、要するに今の社会は長続きしない社会で、それを続く社会に変えていくためには、社会や技術に急激な変化が必要である、ということだ。

お寺の木材は、長い歴史の中で、主要な樹種がヒノキ→ケヤキ→台湾ヒノキと変遷してきた。この意味するところは、大径材が再生産の速度を上回る速度で消費されてきた、つまり持続可能でないということだ。これを持続可能にするための政策のあり方を考えるのが私のこれまでの研究テーマだった。林業部門におけるイノベーションについては、林業部門そのものが経済的にも社会的にも生態学的にも持続不可能である現状の下で、林業という産業においてイノベーションの創発と普及のメカニズムを探求し、それと政策との関係を分析する研究をしたいと思っていた。林業経済学の歴史についても、森林資源のあり方を研究対象とする林学・森林学の体系の中で、林業経済学と呼ばれる学術がどのように展開してきたのか、それを理解したうえで林業経済学の現在地と将来展望をどう描くのか、というのが問題関心だった。里海生態系の評価枠組みは文字通り里海生態系の持続可能性を評価するための方法論の開発だったし、政策過程論にしても、政策の変更がなぜ起こる/起こらないのか、ということを、日本の環境政策や森林政策の「頑固さ」みたいなものへの違和感を念頭において考える活動だった。化学品原料としての森林バイオマスというのも、結局化石資源に依存した化学産業は長続きしないので、量的に多いバイオマスである森林バイオマスをその原料にして、自然再興(nature positive)も実現するような、制の波及効果を持つ化学産業を作れないか、ということだ。

結局、全て持続可能性移行の枠組みに収まる。こう納得できたとき、とてもすっきりした。

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