林業経済学会 50周年記念誌 『林業経済研究の論点:50年の歩みから』 読書ガイド

林業経済学会50周年記念誌『林業経済研究の論点:50年の歩みから』が、同学会70周年記念事業の一環としてデジタル公開された。同誌は重要文献であるが、50周年記念事業に関わった当時の会員の手に渡った割合が大きく、図書館の所蔵数がそんなに多くなく、古本の流通も限られていて入手がそんなに簡単ではなかった。筆者はもちろん持っていなかったので、大学の附属図書館で合計50回は借りたと思う。

この本は、一応林業経済学の当時の水準を示す好書であり、労作である。しかし、学部生や初学者がこの本を読んで林業経済学とは何か、どのような領域からなるのかを理解することは難しいだろう。

①総論がない

時代別、論点別の各論の集合体で、総論がない。類書の『農業経済研究の動向と展望』(中安・荏開津1994)や文化経済学会20周年誌(文化経済学会2012)であれば、冒頭の時代別動向の章が総論の役割を果たしているのだが、この本ではそれがなくいきなり各論に入るので読みにくい。

②章立てが不親切

農業経済学や文化経済学の記念誌は、基礎的な話題から応用的な話題へという順序におおむね整理されている。
ただ本書は、①と重なる部分もあるのだが、分野別各論のはじめの3章の順序に違和感がある。まず冒頭に「森林・林業政策論」が来る。経済研究というタイトルなのにいきなり政策の話かよ、と違和感が来る。
次が「林業構造論」、その次が「林業地代論」である。これもおかしい。地代論は構造論の基礎理論的な位置づけだし、時代的にも地代論が先だ(そのことは構造論の章に書いてある)。
筆者なら、地代論→構造論→政策論 とする。そうすると、そのあとの入会林野や国有林野論との接続もよくなる。
ちなみに、そのあとの 入会林野論→国有林論→家族経営→林業労働論→森林組合論 という順序も読みにくい。例えば、国有林→森林組合→林業労働→家族経営→入会林野 であれば、国有林や森林組合は冒頭3章との関係が深いため読みやすかったと思う。

③マルクス経済学の説明がない

1980年代までの林業経済学の主流は間違いなくマルクス経済学で、それは主流派経済学とは全く違う枠組みや特徴を持つ学問なのだが、そのことが説明されていない。

④教科書との読み比べができない

農業経済学や文化経済学には学部での講義向けの親切な教科書があって、それらと記念誌を読み比べることで一層理解が深まるのだが、林業経済学には教科書がない。

読者の方へ

筆者は、日本の林業経済学はすごいと思っている。日本最古の林業経済学の教科書は1879年(明治12年)出版の『一国山林経済学』だ。これは、日本における「経済学」の用例としてもかなり古いと思う。それに、林業という産業は、戦後相当ダイナミックに振り回された。そこにこだわりを持って研究を進めてきた人たちの成果には、学ぶべきものが多いと思う。
私は理由があって林業経済学会を退会したので70周年記念事業にはかかわっていないが、一人の林業経済学者としてその発展に貢献したいし、50周年記念誌がオンライン公開されたことを喜びたい。願うことは、記念誌が難解であるために林業経済学なるものを敬遠する人が現れないことである。


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