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100日間マンガを描いたら、キャラクターがこちらに語りかけてきた


水島新司は、原稿を描き終えるまで、そのストーリーに出てくる試合がどんな結果になるのかわからないらしい。
浦沢直樹は、自分のマンガのキャラクターがいつも勝手な行動を取るので困ってしまうそうだ。
「左ききのエレン」のかっぴーさんはインタビューで、「脳内にいるキャラクター達が会話しているのを聞いてセリフに書いているだけ」と言っていた。

いや、さすがに無理あるでしょ

正直そう思ってました。物語やキャラクターは作者の頭の中から生み出されるものなのだから、キャラクターの発する言葉はおろか、着ている服から髪の毛の本数まで、全ては作者が決めるもの。そう信じて疑わなかったのです。しかし今年、僕はこの考えを覆さざるを得ない体験をしました。
今日はその話をさせてください。


* * * * *


僕は今年の4月から8月まで、Twitter上に「コロナ収束したら付き合う二人」という4コママンガを自主的に連載していました。ストーリーは至って平凡な幼馴染の二人が、出会って、成長して、恋をする、というどこにでもあるようなモノです。

真ん中で手を繋いでいるのが主人公のおさむ君とヒロインのつかさちゃん。収束だから、収(おさむ)と束(つかさ)という安直っぷり!

今だから言えますが、緊急事態宣言が出て世の中ギスギスしまくってたのを見て「何かできることないかなー…せや!」くらいの軽い気持ちで始めたものだったので、1話をアップしたのはこれを思いついた翌日です。GoToキャンペーンもビックリの見切り発車。なので、正直1話目の時点ではキャラクターの事なんて何も決まってませんでした。(胸張って言うことではない)


ただ、流石に20日も書いたあたりから、徐々に二人の輪郭がはっきりとして来ます。つかさちゃんは、気が強くて自分を持っているけど、それ故に人と衝突したりすれ違ったりする不器用さのある女の子。そしておさむ君は極度のお人好しで、誰かに頼みごとをされたら絶対に断らない。

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なにせ彼の口癖は「うん、いいよ」です。
あー僕にもこういう友達がほしい。



しかし物語も佳境となる110話目を描いているとき、不思議なことが起こりました。
つかさちゃんは膵臓癌を患っている母親から誕生日に「つかさの未来の旦那さんが見たい」と告げられます。しかし彼女はちょうど付き合っていた先輩と破局した直後だった為、恋人がいません。そこで幼馴染でお人好しのおさむに「一日だけ私と付き合って、母と会ってほしい」と伝えます。

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このお願いに対しておさむ君が何と返すのか?答えは1つですよね。
「うん、いいよ」
以外に考えられません。

終盤のストーリーは序盤の頃から決めていたので、何なら「うん、いいよ」という彼の口癖は、このシーンに向けた布石として用意したようなものでした。ここまで描いた僕も、まぁ当然その言葉っしょ、と思っていたように記憶しています。
よーし、おさむよ、その決め台詞をビシッと返してしまえ。

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!!?????????


いつの間にか僕は、決めていた流れに反したセリフを書いていました。

この時に頭の中で起こった事は、上手く言えないのだけど…
3コマ目のセリフは、このページを描く直前まで僕の頭の中に無かったものです。でも、1コマ目を描き、2コマ目に差し掛かった時に唐突に脳内をよぎり、そして3コマ目を描くときには「このセリフ以外はあり得ないな」という強い確信とともに、僕は筆を動かしていました。

それはまるで、おさむ君が、作者である僕の意図に反して勝手に喋っているようでした。


これか!!浦沢直樹が言っていたのは!!!ウォァ―――!!!!!


確かにおさむ君はお人好しですが、その根底には自分以上に相手のことを考える思いやりの深さがあります。そんなおさむ君が偽装婚約を持ちかけられたら、まずそれが相手の為になるのかを確認するでしょう。理屈で言うとそういうことなんですが、それがこちらに語りかけるかのように、反射的にセリフとして浮かんできたことが驚きでした。

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結果的にその後の会話はこうなった。

大げさかもしれないですが、物語づくりにおける本質の片鱗に触れたような、不思議な出来事でした。


それきり、キャラクターが勝手に喋るという事はまだ起きていません。しかし良い漫画を描きたいのなら、同じような体験を、再び、何度もしないといけないような気がします。物語をキャラクターに委ねる勇気、とでも言えばいいのかな。そういう勇気が僕にはまだ足りないのかもしれません。水島先生、浦沢先生、かっぴー先生、早くそっち側に行けるように頑張ります。


* * * * *


ちなみに(すいません、急に宣伝みたいになっちゃいますが)今日触れた作品「コロナ収束したら付き合うふたり」がこの度、紙の書籍となりましたので、最後にその報告です(自費出版です!)。製本方式にこだわったり、巻頭カラーページを入れたりしたら、いつの間にか完売しても赤字の状態になっていました。…まぁ、でも一人でも多くの人に読んでほしいので、良かったらこちらからお買い求めください!


もちろんtwitterでの連載も残っていますので、買うほどではないが読んでみたい、という方はこちら↓からぜひ!
https://twitter.com/i/events/1263808070896910338


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