美術とか映画とか本とかが、暮らしの近くにあってほしい話
コロナ禍において急沸騰したワードの一つに「メタバース」がある(個人的感想)。その背景はよくわかる。リアルでの出来事だけがリアルじゃない、かもしれないという感覚。あるいはその具体的装置のようなもの。わたし自身、メタバースには大いに期待していたし、今だってその期待がなくなった訳ではない。なんとなく以前の勢いとか話題性は弱くなった感じはするけど、相変わらず盛り上がるといいなと思っている。それは「地域の文化格差を少しは埋めうるかもしれない」と思っているからだ。
ここで書きたいのは「メタバースが地域間の文化格差を埋めるかもしれない」という話ではない。けれども「住んでいるところで文化に触れる体験は随分と違う」ということはまず言いたい。都市部に住んでいれば、美術館も映画館も書店も当たり前にある。でも東京と福岡では触れられる頻度も、数も、内容も、比較にならないほど違う。福岡はそこそこ大きな都市だけど、それでも随分違う。だから東京が良い、地方はダメだ、という話ではない。ただ「違う」という話だ。
美術館で作品に触れたいと思った時に、触れられるか。この映画は映画館で観たい、と思った時に映画館に行けるか。本を探したい、と思った時に本が探せるか。これが人生にどんな違いを生むのかはわからないけど、わたしは美術に触れるハードルは低い方がいいし、映画はできるだけ映画館で観たいし、あてもなく書店の中をブラブラと歩く時間ができるだけほしい。演劇にも音楽にももっと触れたい。わたしにとってそのような文化は、生きる上での支えである。そのすぐそばで生きることで、干からびずに済んでいる。メタバースは、どこにいても文化に触れられる環境を作ることになるかもしれなくて、期待はそこにあるっていうことでもあるんだけど。
佐賀県唐津市のまちづくり会社「いきいき唐津」(カラクリワークスのお取引先です)は、心から尊敬する企業の一つ。ただでさえ大変なまちづくりを事業として正面から取り組んでいるところもすごいけど、尊敬する最大のポイントはまちづくりの拠点として映画館を作ってしまったこと。いつの頃からか日本全国で色々な「まちづくり」が行われているけど、映画館を作ったところなんてそんなにたくさんないじゃなかろうか。まさに文化の力がまちの活性化に寄与する、といきいき唐津のみなさんが信じているということなのだと思う。でなければ、映画館なんて作れないし運営を続けるなんてできない。作ることよりも、続けることの方が何倍も困難なはずだからだ。
動画配信サービスがこれだけ普及しても、地域に映画館を作る価値はある。立ち上げも運営も簡単ではないけど、それをする意義は大いにある。
まちの中心部に上映作品の大きなポスターが並んでいて、それらを目にしながら日常を過ごすこと。映画に向き合うしかできない時間を提供する空間に身を置けること。挙げるとキリがないけど、有形無形の財産がこの街には少しづつ積み上がっているに違いない。映画業界には唐津ゆかりの人が多いよね、なんて話をする未来だって、結構リアルにイメージできる。
2011年に映画上映会をスタートさせ、2019年に唐津市では22年ぶりとなる映画館「THEATER ENYA」(シアターエンヤ)は開館した。大林宣彦監督との出会いがあり、市民参加の映画を作り…などなどそこに至るまでには一言では語りきれない紆余曲折の物語がある。その辺りをまとめたドキュメンタリー映像が、海外に日本のミニシアターを紹介する「JFF+インディペンデント・シネマ」(「国際交流基金」の企画)にて配信されています。映画でまちづくりに取り組むみなさんの姿を、ぜひ観てみてください!
「JFF+インディペンデント・シネマ」内の紹介WEBページ
https://jff.jpf.go.jp/watch/ic2023/jp/theaters/theater-enya/