【シカ色デイズ】Hitの理由分析レポート〜TikTok今週の1曲 [No.1 - 24.08-1]
はじめまして!山本慶太朗と申します。
普段アニメとかの音楽を作曲したり、アーティストさんのSNS運用代行などをする会社を経営してます。
今日から毎週1曲その週SNSでーーーーとりわけTikTokにて流行った楽曲のバズ理由を"詳細に分析するレポート"を配信いたします。
初回の今回は「しかのこのこのここしたんたん」のフレーズで知られる
「シカ色デイズ / シカ部」のレポートになります。
本楽曲のヒット理由に関して
1、TikTokで使用数が増大した理由の分析
2、編曲、Mix等の楽曲面からのHit理由分析
3、SNS流行における本楽曲の立ち位置
4、本分析から得られた楽曲作り、楽曲SNSPRに際して使える知見
これらに関して詳細に解説いたします。
現代楽曲のバズの流れに置き去りにされたくない方は、
ぜひ最後までご覧になって下さい!
シカ色デイズ / シカ部 はUGC数が驚異的
「しかのこのこのここしたんたん」のフレーズで知られ、TikTok公式動画は驚異の2400万回再生を達成した本楽曲ですが、
中でも特筆すべき数字はUGC数(User Generated Contentの略)が11万を超える点。
この数字は国内リリースの曲では今年最大級といって差し支えがなく驚異的と言えます。
ちなみに楽曲使用数(UGC数)はこちらの方法で確認できます。
↓↓
例えば似たような曲調で昨年TikTokをひとつのきっかけとしHitした楽曲の中で本楽曲に曲調や流行り方が類似していて、筆者が印象に残っている例を挙げるとすれば「美少女無罪♡パイレーツ / 宝鐘マリン」があります。
こちらがリリースから今日に至る迄でUGCが【約5万】であることを踏まえると、リリースからたった3,4ヶ月で11万以上がいかにすごいかがお分かり頂けると思います。
このように一口に「TikTokでバズった曲」と言えど、
①TikTok内で公式動画が多く再生された曲(例:Overdose/なとり 香水/瑛人 など)
②TikTok内で使用数が多かった曲(例:シカ色デイズ/シカ部 など)
③TikTok外でHitしていたものがTikTokに持ち込まれ更にブレイクした曲(例:美少女無罪♡パイレーツ/宝鐘マリン ヴァンパイア/DECO*27 など)
…と主に3つのケースが想定できます。
これらは楽曲PR的側面から分析する時全く違う意味を持ちます。
わかりやすくいうと、①と②ではTikTok内での再生回数が10倍100倍1000倍と変わってきます。
何故かというと①のHitの場合はあくまでその曲の公式動画や少ないカヴァー動画などの再生数の合計ですが、
②の場合数多あるユーザー動画の再生数の合計となるので1億再生は簡単にいくどころから10億再生されることも珍しくありません。
これらの再生数の違いを比較するだけでもPRにおいてどのような伸び方をTik内でしているのかをまず観察すべきなのはご理解頂けるかと思います。
ここを読み間違えると分析自体が崩壊してしまう恐れがあるので、TikTokヒット曲を分析する際まず押さえたいポイントです。
そして前述の通り本楽曲はとりわけリリース初期からTikTok内での楽曲使用数が格段に多いーーーーつまり『②TikTok内で多く使用されたことがきっかけとなりバズった曲』であると言えます。
なぜUGCが増えたのか?
ここからは本楽曲がTikTok内でUGC数がどのような流れで増え、
その後どのような流れで他PHへ遷移したり、バズの恩恵をどのような形で受けたのか順番に解説いたします。
1、バスの拡大経路
UGCが増えた理由を知るためには、
どのような順序で、どんなタイプのUGCを誰が投稿したのかを知ること
が何よりも重要です。
ですのでまずは楽曲が公開された日から時系列順にどのようなタイプの動画がアップされたのかをまとめましたのでこれをみてもらいましょう。
弊社では通常UGC拡大の様子を【イノベーター理論】を用いて分析しております。イノベーター理論とはサービス等の市場での普及率を示すマーケティング理論の一つです。
詳しくはこちらのサイトの解説が分かりやすかったので拝見ください。
今回もそれに倣い拡大経路の順を以下の3つに区分してリサーチいたしました。
それぞれの区切りは投稿された時のUGC数の合計地点で判断します。
ざっくり以下の通りの認識で今回は分析します。
(1) イノベーター (一番最初に広まったきっかけ)
→曲にもよりますが今回はUGC数~1000以下程度のフェーズで投稿されたもの
(2) アーリーイノベーター (初期段階で拡散されたきっかけ)
→今回はUGC数10,000前後程度で投稿されたもの
(3) アーリーマジョリティ (早期段階でさらに拡散されたきっかけ)
→今回はUGC数30,000以上で投稿されたもの
(1)イノベーター
まず今回のイノベーターは本家であり、再生数は驚異の2400万回を超えている。
本家動画がちゃんと再生された理由として、大きく考えられる要素は2つ。
(1)TikTokの時代的にハマっている曲調だった
→こちらは話したいことが多すぎるので後ほど(4章の時代のもの止めるサウンド分析)の項目で詳しく解説しますが端的に言えば『今TikTokに求められているサウンドを踏襲していた』のです。
(2)フレーズの繰り返しだけで終わる楽曲かつ動きと表情が面白い動画なので、ループ視聴の抵抗が低いことが同一視聴者の複数回視聴数を上げる事に繋がった
またサブ的な要素として、
X等の他PHでのヒットが事前にあったので動画がTikでインプレッションされるときには既に曲を知っている人もいた
UGC数があまりにも拡大した後は楽曲ページからの流入で本家へ飛ぶ人も多かった
という側面もあります。
特に2つ目の理由は1000万再生を到達した後に更にそれを2500万まで押し上げた要素としてはおそらく1番目か2番目にデカいと推察しています。
何故かと言うと私が過去作った曲でUGC数が10,000を超えたことがあるのですが、その際本家動画の流入元インサイトを確認すると30%が楽曲ページからの流入でした。
以下は私の作曲系個人アカウントのインサイトのスクショです。
UGCが拡大した後の話なので今回のイノベーターとして再生数が取れた理由とは少し離れてしまいますが、公式動画の再生数UPへの貢献としての効果は期待できます。
通常TikTokは基本的におすすめで回すことが中心となってくるゲームなので、これはTikTokを深くプレイしている人ほど衝撃的な数字だと思います。
(2)アーリーアダプター
その後、アーリーアダプターとして意外にも海外での拡大が先行します。
一例の韓国の動画がこちら
↓↓
アニメタイアップ曲は近年、海外でアーリーアダプターが生まれたものが逆輸入的に国内にトレンドが取り入れられる事が非常に良くあります。
例えば記憶に新しい「Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts」などもアーリーアダプターが海外クリエイターだった作品の例です。
こちらもTVアニメ「マッシュル-MASHLE-」のOPでした。
海外のアーリーアダプター動画の一例がこちら
↓↓
これらの現象が起こる要因は主に2つ分析しています。
-①そもそも日本ショート動画市場全体が海外の後追いになっている
実はこの現象は音楽ショート動画市場のみに限った話ではないのです。
例えば近年『Bump』『こねこフィルム』『ごっこ倶楽部』などのアカウントの登場によりショート動画市場で爆発的に流行している『ショートドラマ』形式の動画も、元を辿れば中国版TikTok「Douyin」での流行が先駆けです。
こねこフィルムさんの動画参考例
↓↓
またHIKAKINさんなどが実践し一躍話題になった登録者ページシリーズ企画も元を辿れば海外トレンドが先行していました。
このように国内のショート市場は音楽コンテンツに限らずアーリーアダプターが海外であることは多く、
その中でも「アニソン」は海外版アニメ配給サイト『Crunchyroll』の急速拡大などの影響もあり放映早期の段階で海外のインフルエンサーに認知されることも増えてきています。
-②楽曲紐付けおすすめアルゴリズムが海外と国内を横断する
TikTokのおすすめアルゴリズムは日々進化しているのであくまで執筆時現在の話ですが、
ある動画に対して良いシグナル(いいね数、視聴完了率、コメント、シェアなど)を出した視聴者に対して、同じ楽曲を使った別動画をお勧めしやすい動きをします。
これはTikTokが他ショート動画SNS(Instagram、LINE、YouTube)と比較して『トレンドを生み出す』をコンセプトとしているから出る動きと言えます。
ちなみに一昨年まで全くそういった動きをしなかった他SNSも最近TikTokを真似てこの動きをするように段々なってきています。
しかしどこまで行っても他SNSにはそれぞれで違ったコンセプトがあるのでTikTokほどこの動きが盛んになることはないでしょう。
最近はインスタリールから楽曲が流行り始めることも増えてきましたがやはりどこまで行っても楽曲HitのセンターピンがTikTokである理由は、
TikTok自体が『トレンドを生み出す』をコンセプトとしているからに他なりません。
つまりこの動きがあることによって、TikTokは他SNSと比べ、海外の動画であっても良い成績を残したものであれば比較的日本人のフィードに現れやすい傾向があります。
それが日本の曲であれば尚の事そうなりやすいです。
このような、
クリエイター側の動機(海外輸入をすればバズれるという打算)
と
視聴者側の動機(視聴者がTikTokにトレンドを生み出すことを望んでいる)
の2つが合わさり、特にアニメタイアップ曲において海外動画がアーリーアダプターとなることが増えているのです。
このようにして海外の動画を見た日本のクリエイターたちがUGCを作ることによってバズの初動が作られました。
その一例がこちら
↓↓
(3)アーリーマジョリティ
ここまで広がった後は、国内海外の両方で同様のパターンの動画が無数に出てくることになります。
中にはこのような変化球でもバズる例が。
↓↓
本楽曲はこの後指数関数的に毎日UGCが続々と増えていくフェーズに順調に入る事となりました。
アーリーマジョリティの分析で大事になるのが、どのくらいの期間でどのくらいの規模まで広がったのかを把握することです。
ここでイノベーター理論に当てはめ分析するメリットが出てくるのですが、どのフェーズで止まったのかを分析することで、楽曲や施策の敗因を探ることができるのです。
イノベーターで止まった場合は、そもそもUGCされるような曲ではなかったことや、イノベーター動画のTikTok界隈内での位置や見せ方が悪かったことが敗因として上がります。
アーリーアダプターで止まった場合は、イノベーターの界隈と楽曲の相性が悪かった、そもそも楽曲が攻められるTikTok内の界隈領域のボリュームが小さかった、大手が取り上げる際には障害となる音楽的要素があった、などが敗因として上がります。
本楽曲はアーリーマジョリティで無事拡大したのですが
主に2つの理由があると分析しています。
-①非言語で伸びた
本楽曲の場合、そもそも海外きっかけでの拡大だったため、
UGCをするターゲットとなる界隈がグローバルレベルに最初からなっていた点が強かったです。
ここに持っていくためには非言語によるコミュニケーションが必須になるのですが「しかのこのこのここしたんたん」というのはそもそも日本語として成り立っておらず我々日本人からしても意味がわからないものなのでそこを自然と突破できていた点は強いです。
ちなみに前述の例で出した「Bling-Bang-Bang-Born」も同様の意味のわからないもの+英語歌詞の点でここを突破していました。
その上日本の女性声優さんの声は、海外のEDM界隈からも「kawaii voice」としてサンプルで使われることも多いことから分かるように、おしゃれなものとして認識もされているので『意味はわからないけどなんかカッコいい』と認識されていると推察します。
-②全世界の有名人たちの意外性を引き出せるポテンシャル
そしてこのシュールなダンス自体が現代TikTokerの可愛い自分をアピールするという訴求を後押しする形で刺さっていたのも理由の1つです。
こちらのUGCはiveのオフィシャルCHのものです。
本楽曲は上記UGCのようなトップ韓国アイドルの動画が多数あるのですが、彼らのような属人性があり集客目的で運用しているTikTokアカウントに共通する欲求を包み隠さず言語化すると「自分の良さを他面的に理解してもらうことでいいねを稼ぐこと」です。
そして、
かっこいい曲でカッコよく踊る、可愛い曲で可愛く踊る
などはもう既に他の曲でアピールが完了していることが多く、
それらではなし得ない"何か"が訴求できる楽曲を常に探しています。
そしてその際曲を取り上げる文脈を重視していることは多いです。
文脈がない曲を取り上げれる方が反応がいいからです。
本楽曲はそれら2つーーーーつまり、他の曲ではアピールできない著名人たちの魅力を引き出す力と、著名人が採用する理由として十分なイノベーターたちとそれらによって熱狂するファンたちの期待という文脈の準備ができている曲でした。
その結果アーリーアダプターで終わることがなくアーリーマジョリティにまで繋がったどころか、広がり方がワールドワイドでかつそれを乗り越えるポテンシャルを持つ(つまり海外著名人が取り上げる理由が曲の中にある)楽曲だったので、ここまでのUGC数になったのです。
文章で読むと「へぇ〜」って感じなのですが、
実際曲作って回してみると『何か』が原因でアーリーアダプターで止まることはよくあるので、これがいかにすごいかはやっている人ほどわかると思います。運もあります。
2、楽曲の音楽的特徴の整理
TikTokでUGCがバズっている曲とは
視聴者がショートムービーという体験の中で何度も聞きたくなる要素で成り立っているということです。
本セクションではそれが何故なのか音楽面から紐解いていきたいと思います。
いきなり蛇足で恐縮ですが、私は音楽業界でしばしば用いられる「中毒性のある曲」という表現が得意ではありません。
もちろん会話の中で「ヤバい」とか「エモい」的なものの延長として話し言葉で使う分には何ら問題ないと思います。僕も使います。
しかしこと音楽制作の議論の際には『どのような人が何故何度も聞きたくなるのか』を紐解くことが重要であり、それを抽象度の高い「中毒性」という言葉でラッピングして曖昧にするのはいかがなものかと思います。
ですので「中毒性」という言葉を用いるからには、
誰が、どんな状況で、こういう気持ちになるから、何度も聞きたくなる中毒性がある、というレベルにまで言語化が必須であるというのが持論です。
では本楽曲が何故TikTokで出てくるたび視聴者は指を止めてしまうのか
中毒性の正体を紐解いていきます!
結論は『可愛い×間抜け』の絶妙なバランスです。
そしてそれを構成する具体的な要素は大きく3つ。
(1)可愛い声
(2) セリフ + ハモリによる神秘感の演出
(3) 軽やかなリズムアレンジ
これらの要素が後述する「ダンスの映像的な魅力」と相乗効果を生んでいるので、それぞれ解説します。
(1)可愛い声
先ほども触れたように現代のTikTokではクリエイター側の「使いたい」という欲を満たす必要があり、本楽曲の場合それは「可愛い」です。
つまり「投稿者側が自身の可愛いを存分に発信できる」と思える要素が楽曲の中にあるということです。
つまりクリエイターにとって楽曲とはある種Instagramのフィルターのような役割に近く「自分が盛れる曲」というのがあるわけなのです。
-①クリエイターにとって選曲はフィルター選び
その中で本楽曲のように女性声優さんが歌うキャラクターソングは
言ってみれば"フィルタージャンル"の中で一定の地位を獲得しているジャンルです。
その話の前に一旦この「可愛い声」が何なのか紐解きますと、
これらは帯域を構成する要素として「喋り声に近い中音域」+「少し高い声」でありますが、「中音域」の声に関しては「鼻腔共鳴」と呼ばれる鼻に響きを集めるような発声方法を用いることによって明るさやコミカルさを演出しています。
さらに喉頭 (喉仏) を引き上げることによってトーンが高くなり、これも明るさ及び可愛さの演出に繋がっています。
この声こそがある種記号的な"可愛い"として演出され、
SNSという短時間で刺激を与え続け合いいいねを奪い合う戦争の中で優秀な武器として成り立っている背景が想像できます。
具体的な曲で言うと可愛い女性声優さんのような声のジャンルでのHit曲で筆者が好きな曲をあげると…
「シル・ヴ・プレジデント / P丸様」「誇り高きアイドル (feat. Kotoha)」「スカーレット警察のゲットーパトロール24時 / IOSYS」「ニンジーン Loves you yeah! / ランカ・リー」「粛聖!!ロリ神レクイエム / しぐれうい」「サインはB / B小町」などの作品たちです。
これらの曲はいずれも可愛い声が持つ「記号的な可愛さ」をフィルターのように用いてクリエイター達を可愛くラッピングすることに成功してきた曲で、この流れを本楽曲も汲んでいると言えます。
TikTok音楽のフィルター的な用途のジャンルは、もう既にいくつかのパターンに大別でき、弊社ではこれをパターン化して把握していますが女性声優ジャンルはそのうちの1つ、と言うイメージです。
気をつけなければいけないのはこれは音楽そのもののジャンルとは全く関係がないと言うことです。
本ジャンルもあくまで『女性声優(またはそれに類する声)の可愛い曲』であり、アニソンやキャラソンといった括りではございません。
何故ならクリエイターらは音楽のジャンルや文脈までは見られておらず、そのサウンドが持つ空気感が彼らの作品に対してどんな演出効果を与えるのかという視点で選曲していることは留意しなければなりません。
-②可愛い声をブーストするヴォーカルアレンジの解析
また本楽曲ならではの特徴としてヴォーカルアレンジ面で言えば「高い声」に関してはウィスパーボイス (ささやき声) 気味に発声する声を重ねることにより可愛さとシュールさの演出をさらに高めています。
複数の声優さんのユニット曲ならではの音楽的にも面白い工夫ですが、これがTikTok的にも意図的なのか偶発的なのかはまっていたということです。
演出された動画のクリエイターたちにいいねを押したくなってしまいカラクリの一つです。
もう一つ付け加えるなら、実はこの楽曲にはアニメ公式OPバージョンが存在し、そちらではさらに声が重なって厚みが増していくのですが、今回TikTokでUGCが拡大した方のバージョンはあえてその厚みがないパートをループしています。
アニメOP版とTikTok版の違いをぜひ観察してみてください。
この理由はフィルターとしての役割をより端的に表現した結果といえます。
ある種『ドラマの劇伴的発想』にも近いのですが、
音楽単体で聴いた時に面白い『展開の豊富さ』は感情を揺らしてしまいすぎるので、映像に重ねた時に違和感となることがあります。
動画における音楽はあくまでも演出装置なので過度に目立ちすぎてはいけないということです。
つまり原曲verの場合、まさにアニメOP映像のようにキャラクターが重なっていく映像には合うけれど、それ以外ではヴォーカルアレンジの豊富さが逆に違和感となるということです。
これがUGCの幅を狭めるリスクとなります。
そして使用箇所も『1箇所目のしかのこのこのここしたんたんのループ』である所も些細だが素晴らしい。
4箇所目の金髪少女が出てくるバージョンを聞いてもらいたい。
この子ーーーー主人公の虎視虎子の声はかなりはっきりとしており、これが入ってくると迫力が出て若干シュールさが削がれる。
これは虎視虎子が作中ではツッコミ役のような機能をしているため、OP曲としての歌唱ディレクションとしては100点満点なのですが、それがショート動画クリエイター視点からだと原点要素になると言うことです。
このバージョンを公式から配布していた場合はUGCの幅を狭めた可能性は大いにあるでしょう。
公式からこれを早期で提供したのは「SNSわかってるなァ!」と言わざるを得ない素晴らしい仕事に感じました。
(2)トラック数の少なさ
TikTokは縦で見る性質上、イヤホンをしていない視聴者からは『製作者が想定した正しい定位感』で再生されません。
(製作者が意図した音源の左右感・奥行き感が曖昧な状態聞く視聴者も多い、ということです)
またUGC前提の文化なので音楽の上に誰かが作ったSEや声などを新規で収録したものが何千万回も再生されることもよく起こることです。
そうなると音を詰め込んだ2MIXの音源は(これはMIX面・編曲面両方に言及しています)TikTokでは映えにくい傾向があります。
つまりTikでUGCされたいなら、
帯域や音量に余白のある音源の方が基本は有利ということです。
そのような視点で考えてみると、例えば今まで本書で例に登場したHit曲のTikTok内使用箇所をみると以下の曲が比較的余白のあるアレンジやMixをされています。
「シル・ヴ・プレジデント / P丸様」
→一般的なアニソンに比べウワモノの数が少ない
「スカーレット警察のゲットーパトロール24時 / IOSYS」「ニンジーン Loves you yeah! / ランカ・リー」「Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts」
→音数が少ない
「美少女無罪♡パイレーツ / 宝鐘マリン」
→人気だった切り出し箇所(ねぇ、言ったよね?からはじまるフレーズ)は音数が少ない
勿論例えば「誇り高きアイドル」などは比較的詰め込んだサウンド感でありますのでこれがHitの必須条件ではないですが、余白がある音源は有利になりやすい傾向はあると言えます。
本楽曲の切り出し箇所も例に漏れず、
ヴォーカル、ギター、ドラムという楽器しか切り出し箇所はなっていません。ギターもミュートのカッティングで帯域を全く奪っていません。
ベースすらいないのは単純な音楽性だけで言えば違和感さえありそうに聞こえますが、それが余白となり使われやすい音源になったと推察できます。
(3)軽やかなドラムアレンジ
TikTokHit曲を分析する上でグルーヴ感は非常に重要です。
何故ならショート動画の視聴者は長尺のYouTubeやブログ等と異なり目的を持ってアプリを立ち上げていないからです。
つまり「暇な時間で感情を適当に揺らしたい」という怠惰な状態である視聴者にとって、音楽の作り出すグルーヴ感が心地よいかどうかはスワイプするか否かに強く作用します。
本楽曲のドラムは跳ね気味で非常にリズミカルで、スネアやキックの音色もあまり重低音〜中域を感じさせすぎない軽やかな響きが特徴的。
これにより、先ほど解説した可愛い声を邪魔せず、むしろその軽やかなリズム感がダンスなどの映像的要素とも相まってより惹きつけられる楽曲に仕上がっています。
3、楽曲構成の整理
上記でお伝えした3要素は曲としての全体像です。
しかしこの楽曲がバズる理由は視聴者の感情から逆算された楽曲構成にもあると考えています。
それが以下の3つ。
(1)冒頭のキャッチーな鳴き声「ぬん!」
(2) 耳障りが良くループできるセリフ
(3)可愛い一定の動き
順番に解説します!
(1)冒頭のキャッチーな鳴き声「ぬん!」
冒頭で「ぬん!」という可愛い鳴き声を入れることによって直感的に気になてしまい、スワイプ防止に寄与するというシンプルな効果が期待できます。
これは心理学の「カクテルパーティー効果」の応用です。
カクテルパーティー効果とは、カクテルパーティーのような騒がしい空間でも自分の名前を呼ばれると何故か気付いてしまう効果、のことであり、
スワイプすれば永遠に動画が出てくるカオスな市場はまさにカクテルパーティー。
その中で冒頭で「ぬん!」と一言言われることで、何故か自分に語りかけてくれたかのように錯覚してしまい指を止めてしまうのです。
これは冒頭で使うのに非常に効果的です。
これはTikTokの歴史的には2021年辺りからずっと数多くのHit曲で使われている再現性の高い手法であり、例えば「わたしの一番かわいいところ / FRUITS ZIPPER」では「ねえねえねえ!」という冒頭で視聴者を引き留める手法を用いていています。
(2)耳障りが良くループできるセリフ
興味づけをした後の本編では「のこのこのこ」「たんたん」など語感が良く繰り返されるフレーズを使うことによって、意味は理解できなくともなぜかボーッと聴きたくなってしまうような中毒性を生み、これがUGCの視聴継続率担保につながっている。
これは逆に今年から特に有効な手法となっている。
例えば今年のHit曲「しなこワールド / しなこ」では似たような仕掛けで成功している。
(3)可愛い一定の動き
動画内で登場するキャラは左右に腰を振る一定の動きを繰り返しています。
この動き自体が可愛いのはもちろんですが、(2)のループするセリフとの相乗効果を呼びさらなる中毒性 (=視聴継続率) を生んでいます。
これは前述したTikTok視聴者の視聴姿勢ともリンクしますね。
さらに「可愛くて簡単で真似しやすいダンス」というのは単純に動画投稿する女の子側からしても「自身の可愛いをポップに表現できる」事とシンクロしている事は改めて説明するまでもないでしょう。
つまりTikTokHit曲の本編は
・時代に合った視聴者への感情変化の提供
・時代に合ったクリエイターの投稿したい欲の刺激
という2つを満たす必要がある、ということです。
また「可愛くて簡単で真似しやすいダンス」の中でも"少しエロ可愛いもの"はTikTok視聴者の興味をひきやすいです。
例えば過去の事例だと4万5000UGCを記録した「오리지널 사운드 / 조주봉」のダンスが同じような要素を持ちます。
そしてここからが重要。
その時代を反映した、という部分から
何故今の時代この曲がHitしたのか、というTikTok流行の時代背景に対する本楽曲の立ち位置を改めて整理して解説します。
4、時代背景における本楽曲の立ち位置
(1)2024年求められるサウンド
これはJ-Popマーケティングも同様の考え方をすると思いますが、
TikTokトレンド曲においても時代の流れを汲み『今時代が求める曲をリリースすること』は非常に重要です。
例えば「香水 / 瑛人」「逃避行 / imase」などを2024年現在投稿してもおそらくバズらないであろうことはなんとなく皆様もイメージできると思います。
それが何故かこれから具体的に言語化します。
TikTokにおける時代が求める曲とは、
【クリエイターと視聴者両方が求める曲】である点はやはり留意しなければなりません。
あんまり弊社としても手の内を明かしすぎたくないので具体的にどんな時代の流れがあるのかなどの詳しい解説は避けたいのですが、
結論:2024年後半期現在、直感で面白い楽曲が伸びやすい
です。
私はこれを「感情ダイレクトアタック曲」と呼称しています。
今年のTikTok内UGC数での特大Hitと言われて思い浮かぶ曲といえば、
「Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts」
「しなこワールド / しなこ」
「シカ色デイズ / シカ部」
の3曲がありますが思いますが、
(流石にCreepy Nutsさんが頭ひとつ抜けてますが…)
これらに共通する要素として、
歌詞の意味が謎
メロディのリズム感が心地よい
が挙げられます。
では22~23年にUGCが流行った曲ですと
「わたしの一番かわいいところ / FRUITS ZIPPER」
「可愛くてごめん / Honey Works」
「シル・ヴ・プレジデント / P丸様」
などですね。
これらを比較すると、以前は
クリエイターが振りでしっかり何か(可愛い、面白い、エロいなど)を訴求できる曲
切り出し箇所の楽曲構成が「興味づけ→本編」となっているもの
などが多かったことが観察できます。
(2)タイパを強調できる曲とは?
複雑な話なのでまず分かりやすい所で比較すると、
「わたしの一番かわいいところ / FRUITS ZIPPER」
の冒頭は「ねぇねぇねぇ」ですが、
「シカ色デイズ / シカ部」
の冒頭は「ぬん」です。
「ねぇねぇねぇ」というのは語りかけであり、次のセクションに対する興味関心を惹く歌詞です。
対して「ぬん」は興味関心を惹くものではなく、それ単体として感情を揺らす力を持っています。
これらの違いは、ショート動画の市場自体が加速化していることに起因します。
ショート動画とは元々「時短文化」に成り立つものであり
【タイパ】を重要視します。
しかし近年そのショート動画内ですらタイパの戦争が起こっているのです。
その結果視聴者も投稿者もより短い時間により濃い情報を詰め込むようになり、そのような動画がバズりやすいようになりました。
その結果ショート動画の冒頭の役割は
「後半を見せるための興味を持たせる、単体では面白くない時間」
から
「単体でも面白く、後半への興味もそそるための時間」
に変化していった時代背景があると想像しています。
それが楽曲の流行にも反映されており、
「本編の映像を楽しめるための曲の流行」
から
「映像全体の感情力を高める曲の流行」
に変化していったのです。
それが「ねぇねぇねぇ」と「ぬん」の違いであり、2024年現在「ねぇねぇねぇ」系統の冒頭はやや流行りにくくなっていると言えます。
歌詞に意味がある曲は、脳内で意味を感情に変換するバッファが発生しますね。
それらが発生しない「感情にダイレクトアタックでサウンドの意味を理解させる曲」が最もタイパがよいのです。
「シカ色デイズ」はこの時代の流れにうまくハマったタイミングでリリースしたことがHitの大きな理由と言えます。
つまりこの曲を2022年にリリースして、
或いはトレンドは変遷するのでこのようなタイプの曲を来年の同じ時期リリースして、同じような数字が出ていたかは難しいと踏んでいます。
TikTok Hitを再現性高く作るための重要なセンターピンとして、
今のTikTokがどのようなタイプの動画が伸びるかを想像し、逆算して作ることが重要なのです。
「感情ダイレクトアタック曲」以外にも最近の流行はあるので、
それも次回以降の分析シリーズで触れられたらと思いますので、来週も読んでください。
5、バズった結果得られたものまとめ
この楽曲がバズることに一体何の意味があるのか?
(1)成果
執筆時現在、TVアニメ「しかのこのこのここしたんたん」公式OPはYouTubeで2100万再生を突破。
さらにアニメ「しかのこのこのここしたんたん」はdアニメストアの総合ランキングで上位を獲得。
TikTokでのショート動画バズをきっかけに、大元の作品プロモーションも大成功しているのがわかります。
またクランチロールのベストアニメにも選ばれており、シカ色デイズの海外UGC流行が無関係とは思えません。
マーケティングとは集客から販売までの一貫性が重要であることは言うまでもありませんが「しかのこのこのこしたんたん」という作品自体がTikTok楽曲Hitsと相性が良かった点も重要に思います。
結構勘違いされがちなのですが、TikTokのUGCが伸びることは
『流行ってる感が出る』ことに間違いはないのですが、それ単体では殆ど売上に影響がありません。
流行った結果、アニメの視聴数が伸びるとか、アーティストのライブ動員数が増える、のように何かしらのキャッシュポイント最終的に繋がる所から見越して施策を組まなければなんの意味もないバズになってしまいます。
実際の曲名をここで挙げることは避けますが、そういった楽曲は非常に多いです。
「シカ色デイズ」のUGC流行の流れはここも手堅い流れだったと考えています。
(2)しかのこのこのここしたんたん と シカ色デイズ流行のシナジー
しかのこのこのここしたんたんは大人から子供まで楽しめるギャグアニメです。
まずギャグというのが良かった。
例えば、iveのシカ色デイズUGC動画を見て「しかのこのこのここしたんたん」を知った人がいたとしましょう。
最初のイメージはおそらく「鹿が登場するシュールな作品なんだろうな」といった具合です。
(何を隠そう、不勉強ながら私自身原作を知らずUGCから知ることになったのでまさに私がこのような流れでアニメにたどり着きました)
彼らにとってその想像と作品が大きく乖離していたら視聴には結びつかないのです。
つまり登場するキャラクターや作風、ストーリーなどとUGC動画のイメージにギャップがないことがアニメのPRとしてUGCを回す時に重要なことです。
6、再現性のある要素
(1)感情ダイレクトアタック曲は今年まだ流行る
歌詞の意味が不明瞭
リズム感がクセになる
UGCに乗った時感情をダイレクトに刺激できる
という要素を満たす曲はまだ今年は流行ることが想像されます。
来年中盤以降は多分流行らないです。今がチャンス!
(2)アニソンは海外イノベーターを狙え
日本のアニメを見る外国人は年々増えています。
イノベーターが海外となる事例も年々増えています。
日本文化の面白い部分を出せる作品なら海外Hitも狙えます。
非言語でも伝わる魅力を楽曲に仕込んで海外イノベーターを狙いましょう。
「シカ色デイズ」の分析は以上となります。
来週は別の曲を分析しますので、
よければ僕のツイッターをフォローして来週の更新をお待ちください!
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次週は「はいよろこんで / こっちのけんと」の分析をしました。
よろしければぜひ
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