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メタバースは技術革新だけでは成功しない

2021年からメタバース(metaverse)という言葉が流行り始め、メタバース元年と言われてきました。もともとメタバースに非常にというよりは2000年代からどっぷりハマっていた身としてはこの流れはすごく歓迎するものであるし嬉しいものです。Facebookがmetaに社名変更したのも印象的でしたね。

しかし、このメタバースについて事業者がどのように取り組むべきか、はしっかりもう少し戦略的に考えた方が良いのではないかと考えています。とくにエンジニアにとってワクワクするこのメタバースという領域。UnityやUnrealなどのゲームエンジンが開発の参入障壁を低くしてくれている中で、面白そうと思って始めるエンジニアや事業者もかなり多くなっていると思います。これ自体はとても良いことだと思っています。しかし一方で、メタバース=単なるVRアプリ開発と誤認している方も非常に多いように思われます。

コミュニティや誘因・モチベーション設計が課題

ここで強く主張したいのは、メタバースをこれまでの技術論やプラットフォーム論に落とし込んではいけないということです。メタバースはその中で構成される世界と一緒に価値を発揮します。その世界をどう提供する、あるいはユーザに作らせるかが事業者にとっては大事です。世界を作る、コミュニティの場の作成が誰がどのようなライフサイクルで行われるのか、という点はまず考える必要があります。「どんな世界で」「誰と」「何をきっかけに」「何の話をするのか」と言ったユーザがコミュニケーションをする背景を徹底的に考え抜く必要があるのではないかと思います。つまりはコミュニティ形成に真剣に向き合う必要があるとも言えるでしょう。

SecondLifeであったPlayStation Homeであったり、メタバースは当然に新しいものではなく、過去にいくつか試みがなされ、撤退しています。一方でゲームをベースとしたMMOなどのある種のメタバース空間は事業として成功しているのです。ただこれもメタバース事業として成功しているというよりはゲーム事業として成功していると言った方が正しいでしょう。ただここで一つ言えるのは、明確な「誘因」を持っているかどうかが一つ中ようなポイントだと思っています。ユーザにとってクリティカルなもの。そこでしかできないこと、というのを真剣に考えて提供しないと最初のメタバースは成立し得ないのではないでしょうか。

事業者はコミュニティ設計やユーザをVR世界に惹きつけるための導線・モチベーション設計を本気で考える必要があります。資金力のあるmeta(旧facebook)ですら、ここを本気で考えないと失敗する可能性があるのではないかと思っています。これまで私自身色々なVR事業者さんのサービスを使わせてもらったり経営者の方とお話しましたが、「このサービスをずっと使うことはないな」と思ってしまうことが多いです。ユーザ視点や長期的なモチベーション・コミュニティ設計の視点が欠如しています。

2ちゃんねる創設者のひろゆきさんが言っている「それもうFF14(= FINAL FANTASY XIV)でやってますよね?」という発言。この言葉をもう少し真に受けた方がいいのでは?というのは僕が元MMOプレイヤーだからかもしれません。ですが、少なくともオンラインゲーム事業者にはコミュニティ運営やモチベーション設計、収益のプロセス、ライフサイクルなどがこうした事業者にノウハウとして確実に蓄積されていると思います。MMO事業者がメタバースに参入する方が勝ち筋があるのではないかと思ってます。

XR事業をやる人はXR好きが多いことの危うさ

僕もVR/ARの研究や開発を昔からしていて思うのは、XR領域は本当にXRが好きな人が多いのです。これは他の技術領域よりも突出している気がします。そしてそれはとても良いことでもあります。一方で、技術オリエンテッドで考えられすぎている分野だと思っています。すごく面白い分野であるが故にある意味作る側が熱狂しすぎている。それにゆえにユーザ視点が欠如しているように思えるのです。

日本企業やエンジニアどうしても技術に固執してしまいます。しかしメタバースにおいてはより一層デザイン思考やストーリー設計、世界観設計が大事です。感性的な価値基準やユーザ視点でのアプローチを徹底しないと事業者としては成功しないと思っています。競争が熾烈になると尚更です。技術・デザイン・コミュニケーション設計などの全てを考える必要のある総合格闘技的なものと言えるのかもしれません。

メタバース事業者はVR以外を学ぼう

メタバース事業者が本当に考えなければいけないのは行動経済学やコミュニケーション設計論、動機付け理論、デザイン思考などの体験設計戦略に必要な知識・ノウハウではないかと思います。あえて一旦「VR以外」を学ぶことをオススメします。こういったさまざまな分野を考えて使わなければいけないからこそろ私自身は非常に面白い事業領域だなと思ってます。

先ほど日本の技術嗜好を批判しましたが、日本はコンテンツを多く保有している国でもあり、コンテンツ開発力に長けている国であると思ってます。技術とコンテンツの両輪でメタバースを作っていくことができれば、海外のテックジャイアントに対しても勝算があるのではないでしょうか。



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