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記憶に残るExhibición 2

『記憶に残るExhibición』第二回。
今まで私が踊ってきたExhibición の中から、心に残っている踊りをご紹介。踊り手としてのエピソードや舞台裏などを、お話していきます。


さて、今回は
2018年2月23日、Milonga Mi Refugioでのエキシビションをご紹介します。

【Yo Te Bendigo /Osvaldo Pugliese - Roberto Chanel】


私はブエノス・アイレスに来てからの5年間で二度、大きな成長の階段を登りました。もちろん、小さな成長は沢山あります。しかし、自分自身が驚くようなビッグジャンプは二回だけ。このエキシビションが、そのうちの一回、決して忘れられないエキシビションの一つです。


この日、アンコール含め4曲を踊りました。
終わった瞬間、今まで聞いたことのないような、割れんばかりの大きな拍手。そして数え切れないほどの方が、わざわざテーブルまで来てくださり、あたたかいハグとお褒めの言葉を下さいました。
エキシビションを踊り終えてからミロンガが終わるまで、しかも全く知らない方々から、こんなに沢山のお言葉を頂いたことは今までになく、本当に驚きで、心の底から嬉しかったです。

明け方、疲れた身体を引きずり、自宅に到着。
ベッドに腰掛けた途端、
涙が止まらなくなり、大号泣。

女性ダンサーとして、
道はあるのだ、光はあるのだ、
と初めて思えた日でした。


この日、私が手にしたものは、自分自身。 
私は踊りの中で初めて”自分”  として立つことができました。

もちろん、今までだって、踊っていたのは私自身です。ですが、ただのフォロワーとしてなのか、Kei Hasegawaとしてフロアに存在するのかは、全く違います。


それまでの私は、パートナーと一体となることが一番の課題でした。曲を聞いて、パートナーのリードや、パートナーの聴く音楽を聴く。彼と、リードに一体となり、正確であること。
そこには、自分はどう感じるのか、どう踊りたいのか、というものはほとんどなく、あまり重要視もしていませんでした。

しかし、パートナーと組み始めて一年半が過ぎた頃、その段階は終わりました。
いくら男性のリードに100%正確に、ミスのない完璧な踊りをしたとしても、それならば相手は ”私” でなくても良い、誰でもできます。
そして、それはパートナーに全ての仕事を押し付けていることを意味します。
プロのパレハとして踊るということは、私とパートナーの関係は50対50。パートナーなら、半分についての責任を負うものだよ、という師匠からの言葉でした。


曲を聴いて、”私は” どんな感情が沸き起こってくるのか。
楽器たちの織りなす旋律の中から、”私は”どの音を聴いているのか。
どんな彩や景色が見えるのか。

そして、パートナーとどんな会話をしていくのか…
パートナーが聴いているものは?
パートナーの感情は?

…それを、
自分の身体で、
二人の身体でどう表現するのか。



これは、私が男性のリードを無視して、自分の踊りたい踊りを踊る、ということではありません。Tangoですから、もちろん男性のリードで踊っていますし、私達のエキシビションはすべて即興で踊っています。(2019年度まで)

男性のリードに対して、ただついていくだけ、ではない。男性が踊りを創り出していくその瞬間瞬間にも私は存在し、パートナーの織り出す彩に、私が織り出した彩が組み込まれ、一つの踊りを創り出していくようなイメージです。


ちなみに、
Mi Refugioの2週間前に踊ったエキシビションがこちらです。
ぜひ、比べてみてください。

2018年2月9日、Milonga Rodriguez 
[Así Es Ninón / Anibal Troiro - A.Marino] 

たった二週間前に踊ったものです。テクニック的な変化は、ほとんどないかと思いますが、存在感、音の聞き方、パートナーとの関係性…今回の動画との違いがよくわかるかと思います。

二週間で急激に変化した結果となりましたが、実際には、それ以前から積み重ねてきたものが、Mi Refugioのエキシビションでようやく爆発した、という感じです。

ちょうどあの頃、女性ダンサーとして悔しいことが、山のように沢山、重りました。
その悔しい気持ちから、未だかつてないエネルギーと決意で、このMi Refugio のエキシビションを迎えました。
このことも、ビッグジャンプへと繋げてくれたのだと思います。



ヨチヨチながら、初めてフロアに存在し、
”私”として踊ることができた。
また、それを実感できた日として、忘れられないエキシビション。


私が “私” として踊るー

長い長いこの道をスタートした日。
今現在も模索中。
とても、大きな課題です。



※おまけ…※
今回、比較として取り上げた2018年2月のRodríguez でのエキシビションの曲、Así Es Ninón / Anibal Troiro - A.Marino。
実はこの曲、第1回の「記憶に残るexhibición 」で、”これが今現在の私の最高の踊りだ!”とご紹介した曲と同じものです。

2018年のAsí Es Ninónと、2019年のAsí Es Ninón。

もちろん一年以上経っていますから、テクニックに違いがありますが、
”私”がフロアに存在しているかどうか、
“私”が踊っているかどうか、
比べてみると、面白いです。


2019年 Así Es Ninón



第1回「記憶に残るexhibición 」記事はこちら。



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