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地震を”正しく怖がる” ー マグニチュードについて

今週月曜日、2018年6月18日の朝に発生した大阪府北部を震源とする大きな地震。僕の暮らす京都府大山崎町は震度5強の揺れで、家中から軋み音や物が落ちる音などが響いて、かなりの恐怖を感じました。幸い僕や家族にケガはなく、家や店にも損傷はありませんでした。食器類が床に落ちて割れた程度です。震源近くの高槻や茨木ではいまもガスや水などが復旧していない地域があり、一刻も早い完全復旧を願うばかりです。

最初の地震のあと、6月19日午前0時半頃にも大きめの地震があったのですが、その後ネット上で下記のような投稿が出回りました。多くは「本震はこれから!?」「怖い」といったコメント付きで、僕は数回は目にしました。

これを見た多くの人が、「本震はこれから」という「恐怖心」を抱いたようです。でも、僕はこれを見たときに違和感を持ちました。その理由をいまから書きます。

あらかじめ断っておきますが、僕は6/18の地震が前震である可能性、つまり今後本震が起こる可能性を否定したいわけではないですし、ましてや「もう安心していい」という話をするわけでは全くないです。僕は今後も大きな地震が起こる可能性は十分にあって、それに備えるべきだと考えていますし、僕自身も警戒心を強く持って備えています。

上記を断ったうえで、僕の考えについて書きます。
それはマグニチュードという指標の捉え方に関する違和感です。

僕はいまは哲学や思想ばかり勉強していますが、学生時代は地球惑星科学を専攻していて、決して専門ではありませんが地震についても多少は授業に出てきていて、そのときに得た知識から考えたことです。

上のネットで広まった投稿では、過去の大きな地震ではその前震として大きな地震が2回(以上)あったことがマグニチュードを使って示されています。熊本地震ではM6.5とM6.4、東日本大震災ではM7.3とM6.8という「同クラスの大きな前震」があったと示されています。そのうえで、「今回の大阪北部地震でもM6.1とM4.0の地震があった。だから、過去の大地震と同じように今回もこれらはまだ前震で、本震はこれから(かもしれない)」という理屈です。

ここで考える必要があるのは、今回、2回目の”前震”とされた6/19のM4.0の地震が、6/18のM6.1の地震と「同クラスの大きな地震」とみなせるかということです。投稿のような比較をした人は、過去の大地震における2つの余震のマグニチュードの差(熊本地震では「0.1(=6.5-6.4)」、東日本大震災では「0.5(=7.3-6.8)」)と今回の大阪における2つの地震のマグニチュードの差「2.1(=6.1-4.0)」を同じように扱っています。これは正しいでしょうか?

ここで必要となるのは「マグニチュード」という指標の理解です。
マグニチュードは「地震の規模を示す指標」で、簡単に言えば、地震のエネルギーを「2」とか「6.5」といった身近な数字で表せるように変換したものです。

そして、ここが重要なポイントなのですが、変換する前の「地震のエネルギー」で見ると、マグニチュードが1増えたとき、地震のエネルギーは約32倍に大きくなっています。そして、マグニチュードが2増えたとき、地震のエネルギーは約1000倍大きくなっているのです。

このことを知ると、僕の違和感を分かってもらえると思います。つまり、過去の大地震における2つの余震のマグニチュードの差(熊本地震:0.1、東日本大震災:0.5)と今回の大阪における2つの地震のマグニチュードの差「2.1」は、地震のエネルギーの差で考えるとまさに「桁違い」で、比較にならない規模の差なのです。にもかかわらず、それらをならべて比較して、「”大きな地震”が2つ続いたからこれらは余震で、本震はこれから」というのはあまりに感覚的に過ぎると思うのです。

繰り返しますが、僕は6/18や6/19の地震が前震である可能性、つまり今後本震が起こる可能性を否定しているわけではないですし、ましてや「もう安心していい」という話をしているわけでは全くありません。ただ、ネットに広がった今回の「本震が来るぞ」投稿については「ちょっと待って」と言いたかっただけです。

今回の投稿を最初にした人も、それを拡散した人も、善意からの行為だと思います。それに、本震にしろ余震にしろ別の地震にしろ、近いうちに大きな地震が起こる可能性は十分にあるわけで、それに警戒を促すことは大切なことです。ただ、必要以上に怖がること、必要以上に怖がらせることは過度なストレスになったり、パニックにつながると考えられます。

正しく怖がって、正しく備えることが大切なのではないかと思って、このブログを書きました。

最後に、僕は決して地震の専門家ではないので、上記の議論に誤りや認識違いがあることは十分に考えられます。詳しい方でもし誤りを発見された方はコメントなどでご連絡をいただけると助かります。すぐに訂正します。

(おまけ)
マグニチュードについて、なんでわざわざ地震のエネルギーを変換するのかというと、地震のエネルギーの大きさをそのまま使うより、人間の感覚に近づくからというのが一つの理由です。たとえば、地震のエネルギーが300から310へと増えても、実は人間はその差を感知するのが難しいのです。300から3,000や30,000へと増えたとき(ざっくりいえば桁が変わるくらい増えたとき)、人間は前回の地震より今回の地震の方が大きいなと感知するのです。 

こういった現象を『ウェーバー・フェヒナーの法則』(刺激に対する人間の感覚量は、物理量の対数に比例する)というらしいのですが、このような変換は物理学では度々行われます。たとえば、恒星の明るさの指標である「等級」もそうです。(1等星の明るさは6等星の100倍です。6倍ではなくて。)

ただし、この変換の代償として、今回のように「2くらい増えてもあまり変わらない」というような感覚を持たれてしまうことがあるということです。(人間の感覚とは違って、実際のエネルギーは1000倍も違うのに)

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中村 佳太|エッセイスト,コーヒー焙煎家
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