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応接間の絵画の値段はいくらまで許される?〜情シス目線のプロジェクトマネージメントTips#34

世の中にプロジェクトマネジメントに関するコンテンツは非常にたくさんあるのですが、よく見てみるとどうしてもSIer目線のものが多いように思えます。SIer目線の場合だと、どうしても利害が一致しないせいか事業会社というか情報システム部門目線から見るとピンとこないものも多く、ちょっと腹落ちしないことが多くあります。
というわけで無いなら作ろうということで「情シス目線のプロジェクトマネジメント」なるものを書いてみようかと思い不定期だとは思いますがシリーズ的に書いていこうと思います。

今回のテーマは「プロジェクト」ではなく「プロダクト」のお話です。DXの波に乗っかってデータ活用と世は浮かれていますが、前世紀からうたわれてきた亡霊みたいなものに人はいったいいつまでお金を使うのでしょうか?

DXブームに乗っかる亡霊

空前のAIブームでトレンド的にはやや下降気味になっているかもしれませんが、今はまだまだDXが大ブームの真っ只中にいます。しかしながら実際に提供されるソリューション(そもそもそんなものでどうにかなるものではないのですが)は何を今更といった感じのものも多いです。

そのなかのひとつが「データ活用」という大波の影に乗っかった「経営ダッシュボード」です。自社の経営状況を社長を含む役員に一元的に見えるようにするといういわゆる「見える化」の代表例みたいなソリューションです。

しかし、これってなんだか既視感が・・・・・

「経営ダッシュボード」なんてかっこいい言葉にはなっているが、考え方事態は20世紀の後半にブームになった「MIS(経営情報システム)」そのものの考え方をそのまま引きずっている考え方が背景なのです。

MIS(経営情報システム)
1960年代くらいに提唱された考え方で、それまで会計処理とかで床割れていただけの電子データを集計して経営管理や経営判断に役立たせようとした考え、社長や役員がひと目で会社全体の経営状態や課題を見つけられることを目指したが、当時のコンピューターの性能不足からなかなか達成できずブームは下火になったが1990年頃に「SIS」の名のもとにちょっと復活したが、やっぱりぽしゃった。

なんとなくMISを語る

ゾンビのような「経営ダッシュボード」

ちなみに1990年代の「SIS」もビジネスにITを直接役立たせようという動きだったが、このときも同じような「経営ダッシュボード」的なものが一瞬注目されました。

まさに亡霊

しかしながら、こうなんどもなんどもゾンビのように復活してくる「経営ダッシュボード」ですがまったくもって不思議です。半世紀を遥かに超えても復活してくるだけのなにかがあるのか?

なぜこんなに復活するのか?

そんなに魅力があるものなのか?

これには2つの観点があると思います。経営者の(なにやらよくわからない)幻想と、SIerの「売りやすさ」です。

経営ダッシュボードは「使えない」

残念ながら日本の経営者のほとんどには「経営ダッシュボード」は必要がありません。というか使うことが出来ません。スタートアップを除く日本の多くの企業は良くも悪くも民主的な決定の構造を取っています。経理部長(または経理担当役員)の意見も聞かずに融資や投資の話を進めることはないですし、営業部長(または営業担当役員)の話も聞かずに営業戦略を打ち立てることはないのです。だからどんなにリラルタイムに全経営指標を見ることが出来たところで、経理部長や営業部長を呼び出して意見を聞くくらいしか出来ないのです。

つまりは経理部長の持ってきた財務状況の報告書とか営業部長の持ってくる営業報告で十分なのです。どうせ判断ができないのですから・・だから、実際に「経営ダッシュボード」を作っても実際には毎日見ないのです。

この「経営ダッシュボード」を見て本当に効果があるのはイーロン・マスクみたいな独裁的な経営者くらいなのです。日本にはあまり居ないですよね。彼ならばきっとダッシュボードを見て「こいつクビ」とか「この事業撤退」とか「ここ増資」みたいな判断というか実行をするので(怖いけど)ダッシュボードを使いこなすことが出来るでしょう。

応接室の絵画のような経営ダッシュボード

ということで、日本の経営者が臨んでいる経営ダッシュボードって具体的な決断を下すものではなく、ほぼ意味のない「応接室の絵画」みたいなものなのです。

取引先の社長が来たときに自慢気に指を指して「我が社は経営情報をリアエウタイムに把握しているんだよ」と言いたいくらいの動機しか無いのです。だから何回かクリックしないと入れないBIツールのダッシュボードを作っても、みんな見ないのです。

世の経営者たちの本当のニーズをちゃんと聞き出したとしたら、社長室か応接間の壁に大きなディスプレイを埋め込んで、そこにダッシュボードをだすべきなのです。これで依頼元の社長は大満足間違いなしです。

売る側には非常に都合の良い「経営ダッシュボード」

そしてこの「経営ダッシュボード」というのはSIerにとってはとっても売りやすいものなのです。作らされる方はつらいかもしれませんが営業的には素晴らしく美味しい商談なのです。

なんせ、このシステムいくらまずくても、依頼元の事業に悪影響が直接出ることはないのです。受注や売上の登録が滞るリスクもないですし、間違った在庫品が出庫されてしまうことも、間違った金額の請求書が出ることもないのです。リスクはものすごく少ないのです。

しかも、その評価はすごく後になるし、明確に成否が判断されることもないのです。元大阪ガスのデータアナリスト河本薫氏の著書「データドリブン思考」にもこのような「経営判断型の意思決定プロセス」と紹介されていますが、正直、この領域で「良い判断だった」とか「だめな判断だった」とかという評価は殆どできないのです。できたとしてもものすごく時間が経ってのことなので、プロジェクトの失敗を責められることなんかないのです。

つまりは損しない美味しい案件なのです。

そりゃ、SIerが一生懸命に馬鹿な経営者を熱意を持って営業しますよね。

救いがないダッシュボード開発

そもそも、経営の判断なんて固定的な視点で出来るわけもなく、その時点その時点で見るべき指標も切り口も違うのがあたりまえなのです。VUCAっていうくらいですから・・・・・

というわけで、タイミングが悪いと要件定義はいつまで立ってもまとまりません。作っている途中で経済的事件が起きたりして、要求はコロコロ変わります。追加発注で儲かるのかもしれませんが開発現場は疲弊するし、事業会社は大金を失っていきます。現場はだれひとり幸せにはなりません。

というわけで、今日もまた地獄絵図が続いていくのです。



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keita
チップもらったらきっとMidjourneyに課金すると思います