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凡人に寸止めなんかできない〜情シス目線のプロジェクトマネージメントTips#69
世の中にプロジェクトマネジメントに関するコンテンツは非常にたくさんあるのですが、よく見てみるとどうしてもSIer目線のものが多いように思えます。SIer目線の場合だと、どうしても利害が一致しないせいか事業会社というか情報システム部門目線から見るとピンとこないものも多く、ちょっと腹落ちしないことが多くあります。
というわけで無いなら作ろうということで「情シス目線のプロジェクトマネジメント」なるものを書いてみようかと思い不定期だとは思いますがシリーズ的に書いていこうと思います。
今回はプロジェクトに中でよくある「相反する要求」について話してみたいと思います。
達人の領域である「寸止め」
「寸止め」という言葉を知っていますでしょうか?
「寸止め」とは空手などの格闘技において、打撃(パンチやケリなど)などの攻撃をしていながら、ギリギリ直前で急停止または攻撃を引いて相手に直接打撃を当てない、もしくは打撃のダメージを与えない程度に止める技のことです。
相手の身体の直前というか際で止める、引きを取ることで相手や審判に勝ったこと(きちんと打撃を与えたという認識を)見せつつ打撃による相手の損傷を与えないというギリギリの両立を成り立たせるのは、ものすごく高度な技です。何気ない動作のようにも素人目には見えますが、日々の鍛錬を続け極めた先の達人技なのです。
実社会でも存在する「寸止め」
達人技である「寸止め」ですが、この「寸止め」と近い状況というのは実社会のなかでもたくさん見かけます。
ようはきっちり技は実施するけど、事故となるような事態を避けるというギリギリのラインの状況なので、日常から真剣に仕事をしていたら結構あり得る事態です。
一番わかりやすいのは人の教育・育成です。例として熱血指導というか熱の入った指導とパワハラかを考えてみれば理解しやすいと思います。指導を受ける側が身体的、心理的な傷を負わない、ハラスメントと感じないギリギリのラインを見極めて指導相手が真剣に感じる、真剣に想う・・・・そんな状況がを生み出すという指導は「寸止め」に非常によく似た状況です。
「寸止め」を避けて「打たない」という選択
しかしながら「寸止め」は達人の領域だから実現できるのです。全然技術を極めていないごく普通の凡人にはなかなかできるものではありません。
仮に凡人が迂闊に「寸止め」を狙って事を起こすとなると、技がちょうどいいところで止まらずに打撃を打ち切ってしまうことになります。空手の試合であれば反則負けで済むだけなのかも知れませんが、実社会での「寸止め」にしくじるとハラスメントや体罰となってしまいます。そうなれば自身の社会人生活を失ってしまうことになりません。「寸止め」・・・そんな恐ろしいことをしてまで何かを成し遂げようとするのはあまりにも過酷です。
だから凡人は「寸止め」するのではなく「打たない」という選択をしがちになります。ギリギリの事態が必要になるくらいなら、そんな状況にならない程度に適当なところで途中で放棄するほうがよっぽど楽でリスクもありません。
これがよい事か悪い事かは別として、人間の習性としてそっちの方に流れるのは仕方がないことなのです。
システム開発に潜む「寸止め」前提の要求
システム開発にもこういった「寸止め」的な状況が生み出されることがあります。例えば新しい技術にチャレンジさせておきながら「絶対に成功させ路」とか、過酷な要求変更に耐えさせておきながら「絶対にバグを出すな」みたいな要求を受けることって、みなさんよく見かけませんか?
ここまでひどくなくても予算ギリギリでスケジュールもキツキツなプロジェクトの中で無茶な要求を付け足したり、予定にない「ユーザーに丁寧に説明」とか、関係部門との認識合わせなんかを要求されたことはないでしょうか?
言った側はけっこう何気なく言っているのかも知れませんが、こういった無邪気で無知で思慮の浅い要求がギリギリの「寸止め」的なバランスを求めていることがよくあります。
こういったとき、一部の熱血漢な人以外は、ギリギリを避けた行動をします。エンジニアだってビジネスマンです。ビジネスライクに考えたら、そういった判断はものすごく正しいと思います。
プロマネなら優先順位を示せ
こういったときにプロジェクトマネージャーとして必要なのは、優先順位を示し要求元ときちんと整合することです。
最新の技術を諦めるのか障害の発生防止を諦めるのか?当然、両方を求めて仕事はしますが、最後にどちら側を優先するのかをその場で関係者と調整する事が大事です。ギリギリの状況でなくともシステム開発にアクシデントはつきものなので油断せずにしっかりと優先順位の認識は合わせるべきです。
よく「大丈夫ですよ」なんて笑顔で回答していたプロマネがその言葉に絡み取られて無理な要求の両立という無茶な状況にメンバーを追い込む状況になってしまって、結果として、両方の要求を果たせなかったというのはよく聞く話です。
そうならないようにプロジェクトマネージャー、特に要求側に口を出せる立場の情シスのプロジェクトマネージャーはしっかりと優先順位を確認し、「寸止め」が要求されないように心がけるように注意が必要です。
大事なのでもう一度いいます
凡人には「寸止め」は無理
殺しますし、殺されてしまいます
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