日本企業のガバナンスと株主⑤
前回に引き続き、先日受講したコーポレートガバナンスに関するWebセミナーの登壇者(企業年金を運用する方)が日本企業のガバナンス上問題視していた「政策保有株式」に関してコメントしており、これに関して意見を整理したい。
【日本企業のガバナンス上の問題点③:政策保有株式】要旨
日本企業の経営者の中で、「政策保有株式を持つことの何が悪いのか」という疑問を呈する経営者がいるが、政策保有株式は安定株主の「温床」であって「株主平等原則」に違反するものであると考える。政策保有株式があると、必然的に一般株主による議決権行使はまったく意味をなさない。投資家はスチュワードシップコードのために議決権行使を行うに過ぎず、エンゲージメントも意味が薄れてしまうことから、スチュワードシップを履行しているとは言えない。また以前から徐々に改善されてきたとはいえ、政策保有株式の持ち合いは、単なる株式持ち合いではなく、一方的に「持たせる」力関係が未だに存在し、隷属関係による株式保有が常態化しているのだ。ビジネス関係を構築・維持するために、売りたくても売れず、売りたいという希望すら言えない、あるいは売りたいと言っても脅されてしまうのだ。そもそも、現在銀行と一般事業法人はスチュワードシップの対象外だ。政策保有株式もスチュワードとして保有することが求められていないのがおかしいのではないか。日本企業の政策保有株式の比率は少なくとも30%以上となっており、一般的に買収・分離完了までの短期的な一部保有が中心である英米国で10%以下、欧州で10~20%程度と比べてもその比率は高い。政策保有株式を持つことは徐々に減少する傾向にあることは確かであるが、そのスピード感と早めること、絶対に売れない「岩盤」銘柄を排除することが必要だろう。
【所感】
政策保有株式を持つこと自体、何ら否定されることではない。取引先との強固な関係性を維持しながら互いに成長していくように経営する一つの手段である。ただ、とかく起こりがちではあるが、保有する側と、保有される側(保有してもらっている側、あえて保有させている側)が手段と目的をはき違えているとすれば、問題であると思う。政策的に取引先の株式を保有する目的はなにか、改めて取締役会や経営会議などで意見を戦わせてもらう、手段のはずなのに目的化していないかをチェックしてみる。手段であれば、その効果とくに投資効率やリスクリターン+インパクトという観点できちんと効果が認められるのか、通常の投資意思決定と同様に考え議論し、その上で経営判断すればいいし、そのプロセスや議論の結果を積極的に公表すればいいのではないか。
また、スチュワードシップが責任ある機関投資家の諸原則である以上、銀行と一般事業法人がその対象外となっていることは理解できる。資金提供者に対する受託者責任を全うすべき機関投資家と、政策保有株式を保有する銀行、事業法人とは立場がまったく異なるからだ。しかしながら、コーポレートガバナンスの観点から考えれば、銀行も一般事業法人も株主から委託を受けて経営しているなら、株主から受けた投資資金を効果的に使って資本コストを上回るリターンを求められている。このため、銀行と一般事業法人がスチュワードシップの対象外になっていることが問題ではなく、銀行と一般事業法人が政策保有株式の保有から得ているリターンが妥当なものかどうか、政策保有株式を保有している銀行・一般事業法人の株主がチェックすべき問題なのだろう。前述のとおり、政策保有株式を保有している銀行・一般事業法人の取締役会や経営会議などで意見を戦わせてもらう、手段のはずなのに目的化していないかをチェックしてみる、そしてそれを株主に報告しチェックしてもらう仕組みが必要なのだ。