音楽ヒットの秘訣=SNSバズ&アニメタイアップ必須は本当か?-『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書 』
SNSでバズったらヒットする
世界でヒットするためには「アニメタイアップ」になることが必須
最近の音楽トレンドを見ると、多くの人々が(ボクも含めて)SNSでの話題性やアニメとのタイアップがヒットの重要な要素だと感じていると思います。
しかし、本書に言わせると「半分は正しく、半分は間違っている」となるでしょう。
本書ではアーティストが長く愛されるためには「ファンダム(能動的なコアファン)に対するアプローチ」がキモであると主張しています。
今回は、『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書 』 (リットーミュージック 礒﨑誠二・著 山口哲一監修)をご紹介します。
Billboard JAPANのチャートを支える「アクティビティデータ」
2008年にスタートしたBillboard JAPANの音楽チャート。
このチャートは、CD売上はもちろん、ダウンロードやストリーミング、カラオケ、ラジオといった多様な音楽サービスのデータを統合しています。単なるランキングではなくファンのアクティビティを詳細に反映。共感性が高く、「しっくりくる」チャートを形作っています。
そして本書では、こうした視聴データや歌唱データなどを「ファンのアクティビティデータ」として活用することで、ファンの行動変容を掴むことができるといいます。
20年代に入ってから「コアファン」→「ファンダム」への流れが顕著に
「ファンダム」を定義すると、自律的に新規顧客獲得に関与してくれるコアファンのこと。
これまでは受け手に終始していた「受動的なコアファン」。ところが、2020年頃から従来のコアファンから一歩進んだ、「ファンダム」のアクティビティが顕著になってきました(『推し活』もそのひとつの現象)
TikTokなどで「踊ってみた」「歌ってみた」を披露したり……例えば、BTSの飛躍もファンダムによるUGC(User Generated Content)の貢献が大きいのは間違いありません。
本書では、こうした「新規顧客を連れてきてくれるファンダム」に対する施策がアーティストの成長サイクルを促進する、といいます。
ファンダムタイプの分類:アーティストファンダムか?楽曲ファンダムか?
本書によると、アーティストを支えるファンダムは大きく分けて3種類。
アーティスト起点型ファンダム
楽曲起因型ファンダム
その両方が入り混じったファンダム
これらの違いは「アーティストが好きか、楽曲が好きか」の違いです。具体例な違いは以下のようなものです。
■アーティスト起因型ファンダム
・例:アイドルなど
・ファンダムのサイクル傾向:顧客単価が増える
■楽曲起因型ファンダム
・例:TikTok経由で楽曲が認知されたアーティストなど
・ファンダムのサイクル傾向:顧客人数を増やす
こうしたファンダム種別を決定する要因となるのが、Billboard JAPANのチャートのRawデータとなる「ファンのアクティビティデータ」であり、鍵となるのはアクティビティの占有率といいます。
<各指標の占有率とファンダム種別の関係>
CD(占有率が多い):アーティスト起点型ファンダム傾向
DL〃:アーティスト〃
K(カラオケ)〃:楽曲〃
STM(ストリーミング)〃:アーティスト〃
TW(Twitter)〃:アーティスト〃
R(ラジオ)〃:両方
MV〃:両方
アーティストファンダム:CD+DL占有率が20%前後
楽曲ファンダム:MV+STM占有率が80%前後
そして長く愛されるアーティストになるためには、楽曲をフックとして楽曲ファンダムを集めつつ、アーティストファンダムを既存/新規で入れ替えながら、アーティストファンダムを拡大させていくことが重要になってきます。
そのための方法論については、一例を挙げると以下のようになるそうです。
例
楽曲ファンダムを多く持つアーティストの場合、ソロライブよりもフェス出演の方がファン拡大には有効
アーティストファンダムを多く持つアーティストの場合でも、顧客拡大には、楽曲をフックした「楽曲ファンダム」を増やしていくことが重要。その際、MV等の施策が重要になってくる
これらを踏まえて、冒頭の質問に対する回答としては、以下のようになります。
●SNSでバズったらヒットする
→単に「バズる」というよりも、『歌ってみた』『踊ってみた』といったアクションを起こしてくれる能動的なファンダムが重要
●世界でヒットするためには「アニメタイアップ」になることが必須
→確かに世界でヒットするためには、アニメのタイアップになることは重要。しかしながら、それだけが唯一の方法ではない。また、現状では楽曲ファンダムは形成できているが、アーティストに紐づくファンダムが形成できていない。そのための次の一手が必要
また、本書では、ピックアップアーティスト:Ado、BE:FIRST、IVE、JO1、King & Prince、LE SSERAFIM、Mrs. Green Apple、NewJeans、SixTones、Snow Man、YOASOBI、スピッツ、櫻坂46、日向坂46、米津玄師などのファンダムのアクティビティピックアップ。
アクティビティの傾向や波形を分析しファンダムのステータスを判別。データを元に、長期的に支持されるアーティストになるためのマーケティングの仮説を挙げています。
まとめ
21世紀のエンタメビジネスを語るためには、いかにUGCを生み出すファンダムを巻き込むか?にかかっています。
本書は、ファンダムの傾向をデータで掴み、長く愛されるアーティストにしていくためのマーケティングヒントが随所に散りばめられた一冊です。