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いま焼酎を知りたければ、いちき串木野に行け

文化庁主催のプログラムの一環として、鹿児島はいちき串木野市にある焼酎蔵3軒、あわせて郷土料理とのペアリングとカクテルパーティーに参加した。

今回はユネスコ無形文化遺産への登録を記念したプログラムであり、麹を使った伝統的な本格焼酎造りを改めて体感できる貴重な機会をいただいた。

いちき串木野市は鹿児島県のほぼ中央に位置しており、鹿児島中央駅から市来駅までは電車で約30分、駅から蔵のエリアまでは、徒歩10分ほどであるので、焼酎蔵としては比較的アクセスしやすい地域と言える。

今回訪問させていただいたのは、濵田酒造・大和桜酒造・白石酒造の3つだ。訪問記を自分なりにの感想交えて振り返る。

濱田酒造

鹿児島ではナンバーワンの規模を誇る同社は、海童や赤兎馬で知られ、近年、だいやめは、焼酎に親しみがない方でも存じているであろう。製造箇所が3つあり(伝兵衛蔵・傳藏院蔵・金山蔵)、今回は伝兵衛蔵と金山蔵を見学させていただく。一度行ったことがあるが、傳藏院蔵にて濱田酒造の商品はほとんど造られている。この2つは伝統を継承しているという立ち位置だ。

伝兵衛蔵入り口

本社に隣接されているのが、伝兵衛蔵だ。濵田酒造創業者の伝兵衛ゆかりの地で、創業当時・明治時代の造りをいまに伝えている。甕で仕込み、木製蒸留機を使用している。

本社から車で15分行ったところに金山蔵がある。350年前の江戸時代から続いた串木野金山の跡地を活用してできた。最盛期には7000人が従事していたという。

トロッコで向かう

入り口から坑内までトロッコで10分ほどいくと、焼酎造りの現場や貯蔵庫はもちろん、名残であるダイナマイト庫や、神社なども点在する。

このなかで造られている焼酎はドンブリ仕込みで、兜釜蒸留機を用いられる。原料である芋や米も、また造る人も、もちろんトロッコで行く。

また坑道内は年間通して温度湿度が一定なので、安定した熟成には最適である。ウイスキーのカスクオーナーのように、何年後かに送っていただくボトルキープの制度もある。

だいやめなどの革新的な商品の裏には、このような原点となる歴史的な造りがあると改めて思わされた。

大和桜酒造

濱田酒造から通りを挟んですぐ向かいにあるのが、大和桜酒造。年間製造量は250石ほどで、鹿児島県内の110前後ある焼酎メーカーの中でもかなり小規模な部類に入り、目の前が売上100億円を超える濱田酒造という対照的な構図が、いちき串木野の焼酎多様性を表している。

そんな大和桜を造るのは焼酎好きならみんな知っているであろうカルチャー番長こと徹幹さんだ。全量手作業はもちろん、それを基本的に少人数でやっているというのが驚きである。

米麹には国産米を使用、麹蓋を用いて一つ一つずつ行なっている。麹室で気を失いかけた蔵元しか信じれない(笑)と。

麹室

芋焼酎は、芋を投入する前の一次仕込みに米麹・水・酵母で約1週間ほど発酵させ、その後2次仕込みで芋を投入する。芋焼酎といっても造りの工程で芋が登場するのは途中からであり、米1に対して芋は5を使用するのが、100年以上前から受け継がれてきた芋焼酎造りのセオリー。

焼酎界隈ならわかる、あの現場

その酒母造りと同時並行で行うのが、芋切りや芋洗いという工程だ。芋焼酎造りのアイコニックな景色の一つに、地元の方たちが焼酎造りの時期に一斉に集まって行うこの工程がある。それを毎朝自ら、造りの時期に行なっている。自分でも言っていたが、まさに芋洗い兼CEOだ。

上記の場所で行っており、焼酎好きならこの光景を見たことある人は多いであろう。

全量甕仕込み
芋投入後の二次仕込

そして二次仕込みで芋を投入する。醪(もろみ)を発酵させるのは、全量甕仕込みである。

その後蒸留し、商品ができるのが造りの一連の流れだ。

よく小さな蔵なので先進的な造り(酵母無添加など)をやっているかよく尋ねられるらしいそうだ。徹幹さん曰く、全くそんなことはなく、むしろ失敗できないのでセオリー通りの芋焼酎造りを行なっていると。

現代において、そのような造りがキャッチーで持て囃される風潮になってきたのは間違いない。ただ、昔ながらで小さく手作業だからこそできる麹造り、甕仕込み、芋の仕込みなど、基本に忠実な仕事の積み重ねこそが、大和桜のシンプルで奥深い味わいを生み出していると思う。このスタンスが自分も好きであり、飲み手の心を掴んでいるのがよくわかる。

白石酒造(天狗櫻)

最近、さまざまな界隈でも注目を集めている焼酎蔵で、実は2019年に一度訪れたことがある。その時からこんな造りがあるのかと心底びっくりしたが、最近は今まで焼酎が置かれていなかったようなワイン系の飲食店などにもセレクトされており、今一番火がついている焼酎メーカーの一つだろう。前に訪問した時より、変態レベルが断然上がっていた。

自分自身、ここ数年の天狗櫻はもう驚きの体験の連続で、そういう意味でも今回の訪問を楽しみにしていた。

この天狗がトレードマーク

大和桜のパートで芋焼酎造りについてざっと説明したので、白石酒造の特徴的をピックアップしてみたい。

麹室

伺った前の日に今期の造りは終わったので、口頭の説明だけになったが、大和桜と同じく麹造りは、蓋麹で行われる。

そんな麹づくりに関して、今月初旬に代々木の寄で行われたイベント、大焼酎祭 vol.2。都合が合わず、伺えなかったが、その告知投稿で白石さんの限定ボトルに目を奪われた。

白石酒造「天狗櫻(芋麹仕込み)」#白石酒造
素材の味を更に引き出せないかと考え、米とさつま芋、原料の全てを麹化して仕込みをおこないました。甘酸っぱい果実のような風味が特徴です。

なに、白石さんの芋麹だと!

ということで聞いてみたら、2024年の造りから新たに芋麹に取り組んでいるとのこと。従来の焼酎造りでは全量米麹を用いるのが一般的だが、芋麹1/3、米麹2/3という麹の割合で仕込んでおり、ゆくゆくは全量芋麹を目指しているという。これは直接見てみたかった…

さまざまな芋の品種

僕は焼酎造りが下手くそだから芋作りを極めるしかなかったと仰っていたが、白石酒造が注目されている理由が、原料である芋の特徴が随所に見れることだろう。

使用されている原料の芋は、数年前から徐々に切り替え始めており、今では全部で約10町(約10ヘクタール)の畑にて、無農薬・無肥料で全て自家栽培されている。

2019年に伺った時の蔵の横の畑

重要なのが、雑草を生やしたり、畑を1〜2年休ませるという点だそう。土中の微生物を活性化させすることで生み出す環境が、サツマイモに影響を与え、最終的に芋焼酎の味わいにも反映される。単に芋の品種だけでなく、白石さんがつくる土壌の個性そのものが深く関わっている。

芋貯蔵庫。水分を飛ばすため、空調管理されている。

そして原料のサツマイモは、基本的に30日間熟成させる。芋焼酎が9月頃から造られ始める理由は、芋の収穫時期に合わせてなので、白石酒造の場合は他の蔵より1ヶ月ビハインドで焼酎造りがスタートする。芋の熟成を長くすれば甘みや香りが増す一方、50日以上寝かせると腐れ具合が出てしまう。ただ現代風の悪い香りではないのだが、奥行きのある複雑なフレーバーが得られないため、使用しないとのこと。

発酵について語る白石さん

芋投入後の二次仕込み、比率は2024年は米1:芋6、2025年の造りは米1:芋7で仕込むそう。発酵期間も、基本的には20日、最長で50日と発酵させ、醪の状態を見て決める。もうこうなると最早、仕込みスケジュールなる製造計画は、絶対に立てられない。原料や微生物の働きに委ね、自然と対話しながらの焼酎造りだ。

芋掘りの道具

今回は造りと被っていなかったので、直接見ることはできなかったが、それ抜きにしても、狂気を感じざるを得なかった。

原料の芋が焼酎の味わいを決める、それしかないという哲学でいて、畑と土壌の違いがワインにおけるブドウの立ち位置と重なるものがあり、飲食シーンにおいて注目される理由もわかる。

そして一番驚きなのが、上述の造りをその年は一貫しているという。普通、商品ポートフォリオに応じて、定番酒と、限定商品や試験的な新しく攻めた造りを分けるが、白石酒造ではそれをいっさい行わない。全量同じ造りをしないとやっている意味がないんだと、その姿勢に改めて感銘を受けました。

3蔵の商品と、カクテル

その後、濵田酒造の社員食堂のスペースにて、さつま揚げなどの地元の料理と、福岡の名店バーオスカーの長友さんにもよる3蔵の焼酎を使ったカクテルが振舞われました。やはり鹿児島で飲む芋焼酎が1番美味い。

今回見学させていただいたこの3蔵だが、地図で見ると分かる通り、全て徒歩数分で回ることができる。

革新的な濵田酒造、伝統的な大和桜酒造、狂気の白石酒造、同じ芋焼酎で同じ土地でも、これほどスタイルの違うのは、そうそう無い。

そして今週末23日(日)には、焼酎ツーリズムが行われるので、参加できる方はぜひ行ってみてほしい!

いま焼酎を知りたければ、まずいちき串木野に行くべきである。

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