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安酒のアイデンティティが染み付いた酒

洋酒業界を見て、感じることの1つとしては、プロモーションに対する資金投入の違い。なぜそれが可能かといえば、そもそもマーケットの規模そのものが違うからだ。その華やかなプロモーションを見るたびにファンとして憧れをいただくと共に、焼酎業界(和酒)とは全く比較にならない現実を痛感する。

ただこれだけではなく、特にウイスキーを見ていると思うことが、その市場規模の大きさがゆえに、製造過程も徹底的に研究され尽くしているとうこと。
熟成やブレンドが味わいを決定する重要な要素であることは周知の事実であるが、特に自分が和酒寄りの人間であるので、バーテンダーや蒸留所に見学に行き話をすると、発酵プロセスについて、どうしても偏重して聞いてしまう。

発酵はもちろんどの酒にも共通する基本的で重要な工程であり、これなしにアルコールは精製することも、嗜好品的な観点でも美味しい酒はできない。しかし、他の酒と比べても、語弊を恐れずに言うと、ウイスキーの製造過程において発酵プロセス自体はそこまで重要だとは思わず、決定的な要素ではないと感じる。(もちろん相対的なので、どの過程も重要なのは間違いない)しかしながら、「木桶の発酵層は〇〇を使っている」や「乳酸菌が〜」など、その細部まで抜かりない。自分としては、世界には(焼酎を含めて)もっとユニークな発酵を行う酒があるので、そちらの方が個人的には面白いし勉強になると思う一方で、この発酵プロセスが色々な方に語り尽くされているあたりが、前述したプロモーションよりも、そういうような会話を聞いていて、その市場規模の大きさを如実に物語っているなと個人的に特に感じる。

結局、高く売れる→プロモーション・マーケティングや研究開発に再投資できる、このサイクルが規模を大きく、そしてうまくいっている。そこに尊敬の念と嫉妬を抱きながら、毎晩スコッチを嗜んでいる。

我々の和酒の話をしよう。伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録と多方面で話題になっている。この伝統的酒造りにある「並行複発酵」や焼酎の「1回蒸留」といった技術は確かに和酒の特徴の一つであるのは間違いない。しかし、これらはいかに安くという、昔のアルコール収集率が高いことを重視した時代においては重要だったかもしれないが、現代においてはそれが特徴であり、価値なのか、自分は疑問に思う。
安酒の歴史が生み出した特徴を、さも和酒の強みとして打ち出しているように感じる。

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/koujikin/pdf/0023009-023.pdf

もちろん、その特徴が生み出す特有の商品や味が存在することは間違いないし、自分自身もこの和酒文化を愛している。しかし、付加価値創造というと擦れた言葉になってしまうが、この特徴に囚われていると、いつまでも現状のままな気がしている。

1円でも高く売る努力をすること。もちろん多様なレイヤーがあって産業は成り立っているので、高く売る事だけが正義ではない。しかしこの努力こそが、和酒業界には足りていない。  

それができれば、原価がかかる非効率でユニークな造りができるようになる。歴史を見るとインフラとしていかに安くという観点から嗜好品的なポジションに移行せざるを得ない現状であるので、逆にやっていない事が沢山ある、未知の産業だとも思える。
蒸留技術が日本にやってきて500年。日本全国に焼酎が広まり、第三次焼酎ブームはまだ20年前。もちろん他産業のような特別な技術革新があるわけでもないが、これから焼酎はもっと面白くなる。

※ヘッダーは昨日のグレンモーレンジのイベントでもらったカード

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