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スルー力を磨いてネガティブ思考から自由になる「脱フュージョン」
はじめに
「自分はダメな人間だ」「どうせうまくいかない」「相手はきっと自分を嫌っている」
こうした考えが頭の中をぐるぐると回り、抜け出せなくなることはありませんか? 気がつけば、まるで事実であるかのように信じ込んでしまい、行動が制限され、人生が息苦しく感じる……。 これは心理学でいう「認知フュージョン(Cognitive Fusion)」の状態です。
今回は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の視点から、この認知フュージョンの正体と、それから抜け出すための「脱フュージョン(Defusion)」の技術について解説します。
認知フュージョンとは?
「認知フュージョン」とは、自分の思考と現実が融合し、思考があたかも事実であるかのように感じる状態を指します。
例えば、
「自分は失敗するに違いない」→ だから挑戦しない
「あの人は自分を嫌っているに違いない」→ だから距離をとる
「私は価値のない人間だ」→ だから何をやっても無駄
このように、思考に巻き込まれてしまうと、行動が制限され、本来の可能性を発揮できなくなります。
「思考はただの言葉」にすぎない
ACTでは、「思考は事実ではなく、ただの言葉にすぎない」と考えます。
例えば、「自分はダメな人間だ」という考えが浮かんだとき、それは単なる脳内のおしゃべりにすぎません。
でも、多くの人はこの言葉を真に受け、まるで絶対的な事実のように感じてしまいます。
しかし、よく考えてみると「ダメな人間」とは何でしょう?
仕事で失敗したらダメなのか?
一度でもミスをしたら価値がないのか?
そもそも誰が「ダメ」かを決めるのか?
このように考えてみると、「ダメな人間」という思考は、単なる自分の解釈や評価に過ぎないことがわかります。
脱フュージョンの方法
「脱フュージョン(Defusion)」とは、思考と距離をとり、思考をただの言葉として眺める技術です。
① 思考を「観察」する
「私はダメな人間だ」と考えたとき、そのまま信じ込むのではなく、「今、自分は『私はダメな人間だ』という考えを持っている」と言い換えてみましょう。
この言い換えをするだけで、「ダメな人間」という考えと自分を切り離し、距離を取ることができます。
② 思考を言葉遊びにする
例えば、「私はダメな人間だ」という考えが頭をよぎったら、次のように言葉をユーモラスに変えてみましょう。
ロボットの声で「ワタシハダメナニンゲンデス」
歌のメロディに乗せて口ずさむ
こうすることで、その思考の「重み」が薄れ、ただの言葉であることを実感できます。
③ 思考を紙に書き出す
ネガティブな思考が浮かんだら、それを紙に書き出し、眺めてみてください。書かれた文字として見ることで、頭の中でぐるぐるしていたものが客観的に捉えられるようになります。
さらに、その紙を「破る」「クシャクシャにする」「燃やす」などすると、その思考との距離をより実感できるでしょう。
④ 「人生のバス」の運転手になる
ACTでは、私たちの心を「バスの運転手」に例えるメタファーがよく使われます。
あなたは自分の人生というバスを運転しています。しかし、バスの中にはたくさんの乗客(思考や感情)が乗り込んできます。
「私はダメな人間だ」という乗客
「どうせうまくいかない」という乗客
「あの人は自分を嫌っている」という乗客
これらの乗客は、時には大声で叫び、あなたの注意を引こうとします。
しかし、ここで大切なのは、運転手は乗客の言うことをすべて聞く必要はないということです。
彼らが何を言おうと、あなたは行きたい方向にバスを運転することができます。乗客を無理に降ろすことはできませんが、彼らがどれだけ騒いでも、それを気にせずハンドルを握り続けることはできます。
このメタファーを使うことで、私たちは「ネガティブな思考や感情があるままでも、自分の価値に基づいた行動を選択できる」ことに気づくことができます。
もし、ネガティブな思考が頭に浮かんできたら、「ああ、また乗客が騒ぎ出したな」と認識し、それでも自分の進みたい方向に向かってバスを運転し続けてください。
まとめ
思考はただの言葉であり、それが「事実」とは限りません。
「脱フュージョン」を実践し、思考と距離を取ることで、より自由で可能性に満ちた人生を送ることができます。
これらの方法を試しながら、少しずつ「思考に振り回されないスルー力」を育てていきましょう!
ACTの面白いところは、「脱フュージョン」で思考と距離を取った後、その思考をコントロールしないという戦略をとるところにあります。そして、その代わり「アクセプタンス」でその思考をそのまま受け入れたり、「価値にコミットした行動」へ注意を向けたりということをして、心理的柔軟性を高めることを目指します。ほんとうに自分の役に立たない思考をスルーしちゃいましょうということなんです。これがACTのすごく画期的な部分でもあります。