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28話『旅の恥を搔き集め』

バラナシで有名な和食屋「MEGU CAFÉ」は残念ながらコロナで閉店したようなので(26話参照)、別の和食屋「BUNNY CAFÉ」へ訪れてみることにした。日本だったら間違いなくガールズバーかその類のこの店名、今回はGoogleの最新口コミが2週間前ということも確認済みなので、閉店ということはないだろう。

GoogleMapもあてにならないとにかく複雑なバラナシの路地を右往左往しながらやっと店を見つける。厳密には和食屋ではなく、日韓料理屋のようだ。店内には韓国人グループ2組と、インド人青年2人組。僕はインド人青年達と相席することに。彼らはキムチチャーハンと豚肉のセットを食している。

箸の使い方に苦慮している姿や、明らかに食事に満足いっていない姿が微笑ましく、思わず「美味しくない?」と声をかける。彼らは「僕たちにはこれは甘すぎるな。もっとスパイスが欲しい。日本人はいつもこういうものを食べているの?」と返してきたので「いや、それ韓国料理だよ」と訂正しておいた。辛い物は辛く、甘いものはとにかく甘いインド人には、韓国の甘辛は理解に苦しむようだ。

そうこうしているうちに、隣に日本人の男女が着席した。30代後半に見える男性と、20代中盤位の女性だ。女性の方は敬語を使っているのでカップルではなさそうである。僕は詰める必要もないのに、不必要に詰める仕草をみせ、会釈をする。こういう時に自分が日本人だなと何となく感じる。

会釈をきっかけに何か会話が始まるかなと密かに期待したわけだが、考えてみれば久しぶりに日本人と話したいのはこちら側だけなので、一切会話は生まれない。

しかし、僕は基本的に一期一会のコミュニケーションが好きな人間だし、旅先では尚更である。彼らが店のWiFiを探っているのを好機とばかりに、パスワードを伝えると同時に話しかけた。

「バラナシ何日目ですか?」「さっき着いたところなんですー」ということなので、僕はここぞとばかりに1週間滞在している先輩風を吹かせ、ガンガーの見所や、プージャについて説明する。旅先での生の情報交換に助けられたことは幾度もあるので、今度は自分が誰かの力になれば、という気持ち1割、単純なマウンティング精神9割だろう。

しかし、男性はスマホを弄っているし、隣で相槌を打つ女性は笑顔を絶やさないものの、生返事の域を出ない。すっかり意気消沈してしまった僕は、「日本人というのはやはり冷たい連中だな。コミュ力の欠片もない」と心で悪態をつきながら、縋るようにして再びインド人青年達と話し始めた。

程なくしてインド人青年たちは退店をし、黙々と食事を待つ時間が過ぎていく(インドでは平気で40分以上待ったりもする)。僕はスマホを弄りながらも、隣の男女の会話に耳をそばだてる。すると、あることに薄々気が付き始める。どうやら彼らは、インドの旅行関係の仕事をしているようだ。

なんということだ。僕はエキスパートたちにしたり顔でバラナシのことを話していたのだ。それは生返事にもなろう。むしろ笑顔でいてくれただけで優しかったのかもしれない。よくよく考えれば旅行者が到着初日に日本食を選ぶわけもないのだ。

45分程待ってようやく運ばれてきたたまごそばを一息に啜ると、僕は足早に店を後にした。あんなに楽しみにしていたそばの味がなにもしなかったのは、精神と物質どちらに要因を求めるべきなのだろうか。

今夜もガンガーに独り問いかける。


卵そば(バニーカフェ)

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