第1話『計画的無計画計画』#タイ1
バンコクはカオサン通りで「Anti Social Social Club」のTシャツを着ている青年を見かけた。ファイトクラブといえばブラッド・ピットの肉体と、ヘレナ・ボタム=カーターの嬌声。そして、この言葉遊びである。
旅の予定は狂うことこそ醍醐味だと信じてやまない僕からすれば、バンコクのドンムアン空港に着いた瞬間に入った一通の連絡は僥倖といえた。タイで会社を営む友人のO君から、今から事務所に遊びに来ないか、というものだ。もともと連絡は取っていたのだが、繁忙期らしく、会えればくらいの話だったので、タイの赤十字に破傷風や黄熱などのワクチンを打ちに行く計画を喜んで変更し、空港からタクシーを拾う。
ありがたいことに昼夜ともバンコク在住8年の彼にバンコクを案内してもらうこととなり、初めての本場タイ料理。なるほどうなるほど美味い。夜は彼の知り合いの日本人女性がやっているバーにも連れて行ってもらった。酒も進んできたところで、中老の男性客(勿論日本人だ)が日本の曲を歌おうとギターをつま弾く。タイの夜に中島みゆきが、スピッツが響き渡る。気持ちの良い夜。
日本を懐かしむ。自然と涙がこぼれる。
わけがない。なにせ僕は24時間前まで日本にいたのだ。
流れに身を任せた結果、夢にも思わなかった旅の初日を迎えた。O君には感謝しかない。
しかし、初日から労せず楽しんでしまい、タイ入国初日、まだ日本語の方を多く聞いている。きっとこの後彼の紹介以上に美味しいタイ料理のお店に出会うこともないだろう。ほんの微かな寂しさが芽生える。
幸先が良すぎるのも考えものという旅の幕開けとなった。
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