硯の世界 vol.1
こんばんは。グラフィックデザイナー、カラリストの藤田です。
今日は硯の世界のお話。
なんで硯?
製硯師の青栁貴史さんをご存じでしょうか?
2018年1月の『情熱大陸』に出演されて、それで知ったという方もいらっしゃるかも。
実はもうかれこれ20年ぐらい交友がある方でして、
東京・浅草にある青栁さんのお店『宝研堂』や、製硯師としての活動に関わる各種アートワークを手掛けています。
その作品を少しずつ紹介していければと思います。
ちなみに、自分は毛筆で書くのは好きですが、どちらかというと「絵の延長」で書道を習ったりしたことはありません。
しかし、この20年で硯の世界に触れ、石の種類や特徴を学ぶについて、その魅力にどっぷりとハマってしました。
まずは素敵な作品を
2020年から『在宅美術館』と称して、オンライン展覧会をスタートしました。
今までにいくつか公開していますが、
2021年に作った『青栁貴史の硯展-online-』を。
(以前に開催した『日々』『而今』という2つの展覧会の作品をまとめて掲載したものです)
在宅美術館は、すべてのコンテンツにおいて、Webのデザイン・コーディングを担当しています。
石そのものの個性を活かした製硯の技。
高解像度の写真で見ると、その美しさが際立ちます。
自分は『端渓老坑天然日月硯』が大好きです。
硯の名称の読み方
先にお断りしておくと、青栁さんの作品に付けられる硯の名前の付け方に限ったお話なので、他の硯では異なるかもしれません。
さきほどの『端渓老坑天然日月硯』を例にすると。
そのままだと、中国語みたいな「漢字の羅列」に見えますが、
分解すると「硯の石材、形式」となります。
分け方としては『端渓老坑|天然日月硯』。
これだけで意味不明な文字の羅列が、少し意味を持った形に変わりますね。
前者の『端渓老坑』が使われている硯材。
「端渓の老坑」という場所で採れた石で、硯の王様と言われる石材。
端渓には、いくつか石を採れる場所があり『端渓坑仔岩』『端渓麻子坑』といった感じで記載が違います。
他に有名なのは『歙州』がありますね。
日本でも山梨の『雨畑』、栃木の『雄勝』で採れる石があります。
後者の『天然日月硯』ですが、
ここもちょっと分けて『天然|日月硯』にします。
『日月硯』というのは、硯の墨を溜める部分(墨池、海)が三日月のような形をした硯。『天然』はすべてに手を加えず、石本来の部分を残した形になります。
他には、硯と言えばこの形!な『長方淌池硯』、ゲタがあって手をさして持ち上げられる『挿手硯』、墨池のない平らな『硯板』などが入ります。
このように「硯の石材+形式」という形で統一されています。
深い黒の世界
硯は黒いものという認識がありますが、よく見るとちょっとずつ違う黒で、赤っぽいものもあれば、青っぽいものもあります。
石紋まで見始めると、その表情の豊かさに飽きることがありません。
通になると、水につけて紋の出方を楽しむなんていう方法も。
黒にも細かな違いがあり、それを見分け楽しむ力を養えば、日常生活にも活かせそうですよね。
意外なものも硯に
硯は鋒鋩という、石の表面にある目に見えないギザギザした構造があれば、どんな石でも硯になります。
墨を削れれば、書くための墨が得られるということですね。
なので、このサイトの中では「月の石」「隕石」「金」なども硯になっています。指先くらいの小さなサイズですが、ロマンのある話です。
デザイン的な話
サイトは黒と白で構成しています。
単純な白黒ではなく、「硯の黒」を活かすために少し明度を上げたダークグレーを使っているのがポイント。
深い黒はより際立ち、少し色みが乗っているものはその色相が強調され、背景に埋もれないような見え方になっています。
またロゴは「書道具」という簡単から筆文字を使いがちですが、あえて明朝体フォントで組んでいます。
癖のない明朝体にすることで「硯の美しさとぶつかるのを防ぐ」のと、
書の道具を扱う人の作品として「半端な筆文字は使えない」という2つの意図があります。
印刷物系は、写真が素敵なので、そこを損なわないようにシンプルに。
奥深い硯の世界の入り口のお話でした。
他にも語りたいことがあるので、シリーズにして順を追って書いていきたいと思います。