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将来予想のインパクトを測る:連載「実証ビジエコ」第7回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」。気づけばもう第回!

今回からはなんと、新章に突入です!!

今回以降の大きなテーマは、「人々や企業の時間を通じた意思決定を考える」こと。今回は、その中でも最もシンプルなモデルである、単一の意思決定者(エージェント)が、将来の予想までをふまえて、現在の行動を決めるというものです。これを「シングルエージェント動学モデル」と呼んでいます。今回の文脈では、高額な耐久消費財である「自動車」の買い替えを検討する場合に、将来の値引きの可能性や現在までの自分の車の走行距離など、その時々で変化しうる状態を考慮に入れて、どのタイミングで買い替えるのがその消費者にとって最も望ましいかを考えるようなモデルを組み立て、データに基づいて分析していきます。

これまでとは内容が大きく変わってくることもあり、今回はごく基本的なモデルを用いて、仮想的なデータでシンプルな推定と分析を行います。今回のモデル・事例をふまえた反実仮想分析は次回=第8回で解説する予定です。また、複数のエージェントが登場して戦略的な相互作用が重要となる分析は第9回以降で解説していきます。

このnoteでは、連載第7回の内容紹介と、ウェブ付録のご案内を行います。本連載では、前回までと同じく、ここで紹介する理論や分析手法がなぜ必要かといったモチベーションの部分や、実際の分析の進め方を丁寧に解説します。サポートサイトでは、Rを用いた分析コードや補足的な解説ノートも提供しています。ぜひ本誌の解説を読みながらトライしてみてください!

今回のサポートサイトは【こちら】です:

連載「実証ビジネス・エコノミクス」サポートサイト

また、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。本連載のガイダンス+著者たちが意気込みを語った第1回は、本文の試し読みもできます。ぜひ覗いてみてください!

なお、第7回が掲載されている『経済セミナー』2022年4・5月号の特集は「『職場』の経済学」です。こちらもぜひご注目ください!

それでは、前置きはこれくのくらいで、第7回冒頭の内容を覗いてみましょう!

■連載第7回・第1節より

あなたが実証ビジネス・エコノミクス株式会社で働くようになってからあっという間に時が経ち、気付けば入社から1年が経とうとしている。この1年間を振り返るとあまりに多くのことがあった。先輩社員と「入社からまだ1年とは思えない」と話しながらメールをチェックしてみると、入社後すぐに仕事をした日評自動車の担当者からメールが届いている。「以前の案件で行った需要推定では、消費者は売られている車の中から効用を最大化する選択肢をとるという仮定が置かれていたが、車のような耐久消費財では単にそれだけでは十分ではないのではないか」という内容だ。

消費者の買い替え意思決定には、今乗っている車を買い替えるタイミングや、そのタイミングに影響を与えるメンテナンス費用が重要なはずだ。また、価格についても同社はさまざまなタイミングで割引販売などの施策を行っており、これらの要因についてさらに突っ込んだ分析をしたいという依頼だった。

確かに、以前の分析では時間がきわめて限られていたこともあり、将来の価格変動やメンテナンス費用を考慮した買い替えタイミングまでは分析に含めることができなかった。日評自動車が一定の頻度で割引販売していることを知っている消費者は、価格が高いときに買うのではなく価格が下がるタイミングまで待って購入しようと考えるだろう。価格が安くなるまで待って購入する消費者がいるのであれば、低い価格のときに一気に需要が増えているように見える。しかし、常にその低い価格(Every Day Low Price)にすると、今度は割引待ちをする消費者がいなくなってしまうので、割引販売を実施したときのペースで売れ続けることはない。このような、消費者が将来の割引を期待するような行動をどのように定量化することができるだろうか。

今回の案件では、日評自動車側にも少し時間の余裕がありそうだ。そこであなたは、以前から気になっていた将来のことを考えながら意思決定を行う消費者を扱うようなモデルについて、まずは考えてみることにした。しかし、最初から買い替えタイミングと買い替え車種まで同時に考えると問題が複雑になりすぎてしまうかもしれない。そこで分析の第一歩として、価格の変動や走行距離を考えながら買い替えタイミングを考える消費者の行動にフォーカスして検討してみることにした。

------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■連載第7回のウェブ付録

今回は、シングルエージェント動学モデルの推定の基礎編。先ほども述べた通り、将来のことも考えて、時間を通じて意思決定していくエージェントのモデルの最も基礎になる分析手法を解説しています。ビジネスの世界では、消費者も企業も当然、将来のことを考慮に入れて自身の行動を考えているはずです。だんだん複雑になってきましたが、より現実に根差した分析を行うことができる、実証ビジネス・エコノミクスの真価を、今回以降でさらに深掘りしていきます。

今回の分析手法でキーになる概念は「動的計画法」です。詳しい解説は、本誌内でも行っていますが、参考になるテキストとして、以下の2点を本誌内でも紹介しています。分析方法が変わる部分もあるため、これまでの連載では登場してこなかった新しい概念がいくつか登場しています。本誌内でも丁寧に解説をしていますが、さらに深く知りたい場合などは下記の文献など、動的計画法に関するテキストや資料などもあわせてご参照ください。

北尾早霧・砂川武貴・山田知明(2018-2020)「定量的マクロ経済学と数値計算」『経済セミナー』2018年12月・19年1月号~2020年2・3月号にて連載。
Adams, A., Clarke, D. and Quinn, S. (2016) Microeconometrics and MATLAB: An Introduction, Oxford University Press.

例によって、第7回も分析で用いたのRコード(およびデータ)とその解説、さらに本誌で解説しきれなかったテクニカルな補足ノートを、サポートサイトにアップして公開しています。本誌をご覧いただきながら、ぜひとも分析結果の再現や応用にチャレンジしてみてください!

分析コードの解説
補足説明ノート

■おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第7回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。

連載もかなり進んできましたが、引き続き実証分析の実践的な側面を重視しつつ、マーケティングや経営戦略の意思決定などなど、ビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析に関する学びの場を提供していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

なお、第7回を掲載している『経セミ』2022年4・5月号の特集は、「『職場』の経済学」。

巻頭には、経済学者である大湾秀雄先生(早稲田大学)と、服部泰宏先生(神戸大学)による異分野対談を収録しています。多様な視点で、現在の日本の企業、職場、働き方をどう見るか? どのように現場と共同しつつ科学的な分析を行っているか? 科学的な分析を、ビジネス現場にどのようにフィードバックさせ実践につなげているか? などなど、非常にエキサイティング内容となっています。

その他特集のラインナップは以下の通りです。デジタル化ジェンダー格差、テレワーク健康経営と、コロナ禍を通じても大きな課題となったマネジメントや働き方の問題を、先行研究が示してきたエビデンスや新たに進めた独自調査などにも基づいて、解説していきます。ぜひ本誌の特集等のコンテンツも、よろしくお願いします!

特集: 「職場」の経済学
・【対談】働き方と組織の課題に科学で挑む……大湾秀雄×服部泰宏
・デジタル化時代の人材投資……滝澤美帆
・職場におけるジェンダー格差と賃金制度……児玉直美
・デジタル経済とテレワークの進展――国際経済と日本経済の視点……大久保敏弘
・職場の健康マネジメント……黒田祥子

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8755.html




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