
校正・校閲(3): 「声に出す」ことのメリット 【 新入編集部員の日記 #9 】
皆さん、こんにちは(こんばんは)!経済編集部のSです。
今回は校正・校閲シリーズ3回目です。
ただ黙って文章を読む以外にも、ミスを見逃さないための校正技術が存在します。
今回の内容は、編集者・校正者など出版関係者に限らず、論文や報告書を書く研究者の方々、社外向けの文書・資料をつくるビジネスパーソンの方々にも役立つ内容だと思います。
前回の記事(#8)はこちら!
■ 校正にはいくつかのやり方がある
校正の方法はただ文章を読む(黙読する)だけに限りません。校正の目的や制作スケジュールの都合によっていくつかの方法がとられます。
今回は、私の体験とともに色々な校正の方法論をご紹介したいと思います。
※記事を書くにあたり、用語の意味を先に整理しておきます。
原稿:本のもととなる文字情報。テキスト。
校正紙(ゲラ):実際の本のレイアウト通りに組んで印刷したもの。
戻しゲラ:印刷所に戻す(赤字が入った)校正紙のこと。これを反映したものが新しいゲラとなって印刷所から再度出てくる。
工程に沿って説明すると、次のような形になります。
原稿を印刷所に入稿
→最初の校正紙が出る(初校ゲラ)
→赤字をいれて印刷所に戻す(初校戻しゲラ)
→2回目の校正紙が出る(再校ゲラ)
→赤字をいれて印刷所に戻す(再校戻しゲラ)
→……→責了・校了
※多くの場合、校正は2回から3回(再校了、三校了)行われます。スケジュールによっては念校といって、予定していた校正に加えてもう一回校正プロセスを踏むこともあります。
■ 素読み
素読みとは、新しく出てきたゲラのみを読む方法です。これが最もイメージされる方法ではないでしょうか(少なくとも私はそうでした)。『次世代の実証経済学』のゲラを最初に読ませてもらったときは素読みでした。
素読みでは、誤字脱字・図表やレイアウトの修正などと同時に文章の内容のチェックも行います。
私の感覚だと、素読みの際は内容:誤字脱字など=3:7くらいの割合で意識を向けています。読者からどのように読める・見えるかも意識して素読みをするようにしています。
素読みはシンプルですが、デメリットも感じます。特に、
誤字脱字を見逃しやすい
戻しゲラを照合しないため、意図通りに赤字の修正指示が反映されているのかわからない、あるいはこちらが誤った指示をしているのかもわからないことがある
の2つが挙げられます。
1つ目の点について:文章を流して読むと誤字脱字は思っている以上に見逃します。どれだけ注意したつもりでも、読んだときは脳が正しいと認識して通り過ぎることが本当によくあります。
2つ目の点について:編集者・校正者と印刷所のどちらかがミスをして希望通りに修正されていないと、校正作業の意味がなくなってしまいます。人が行う作業なので100%正しく作業が行われている保証はありません。
■ 引き合わせ
引き合わせは、「原稿あるいは戻しゲラ」と「(新しく出てきた)ゲラ」を照合させる方法です。
これは、先ほど挙げた素読みのデメリットに対処するための方法です。引き合わせにもいくつか種類があるのですが、少なくとも弊社の経済編集部で「引き合わせ」という時は「赤字引き合わせ」を指します。これは名前の通り、赤字の入った場所のみを照合する作業です。これにより、赤字と修正結果を照合することができます。
※本来は、戻しゲラと新しく出てきたゲラを一文字ずつ照合していくやり方を「引き合わせ」と呼ぶようです。
■ 読み合わせ
読み合わせとは、実際に文章を声に出して確認する方法です。
弊編集部では、主に目次などの最終確認の際に読み合わせを行っています。読み合わせは二人一組で行います。
目次チェックの場合は、責了紙(責了時の戻しゲラ)の本文中にある見出しとそのページ数を片方が読み上げ、もう一人は目次そのものを見てチェックを入れていきます。
もし読み上げられた内容が目次に書いてある文字と異なる場合はいったん読み上げをストップさせて、正しい表現を両者で確認します。
読み上げる際は、ただ音読するのではなく、漢字の表記(同音異義語が多いものは特に)・送り仮名・算用数字か漢数字か・カッコや点の種類などが分かるように読みます。
『経営戦略の経済学』の目次を例に挙げると
第Ⅳ部 経営戦略におけるその他の重要トピックス
第14章 リソース・ベースト・ビュー 229
1 ポジショニング VS. リソース
ショートケース 富士フイルムの新規事業展開 230
は次のように読み上げられます。
だいよんぶ、よんは時計数字、けいえいせんりゃくにおけるそのたのじゅうようとぴっくす
だいじゅうよんしょう、じゅうよんは算用数字、りそーす、なかぐろ、べーすと、なかぐろ、びゅー、すべてカタカナ、229
いち、いちは算用数字、ぽじしょにんぐ ぶいえす、ぴりおど、VとSはどちらも大文字、りそーす、しょーとけーす、ふじふいるむ、ふじは富士山のふじ、ふいるむのいはおおきい「イ」、のしんきじぎょうてんかい、230
(※あくまでこれは読み方の一例です。)
このように、実際に文字を熟語の構成や文字の種類の情報とともに丁寧に読み上げることで、本文中のタイトルと目次の表記が違うといった「事故」を未然に防ぎます。
■「声に出す」ことのメリット
読み合わせは二人一組になって行うものですが、一人でゲラを読んでいるときも声に出しながら読むとかなり効果的だと感じます。
実際、私自身は目次・カバー・表紙などの目立つ文字は一人で確認する際でも読み上げるようにしています。また、本文であっても可能であれば読み上げてゲラを読むようにしています。
黙読しているときに比べて、読み上げたときのほうが誤字脱字をスルーせず発見できることが多いように感じます。脱字は明らかに気づきますし、熟語の漢字構成を声に出すと同音異義語にも気づきます。
文章を声に出して確認することは、編集者に限らず、研究者の方でも重要な報告書・申請書類や発表資料などのチェックに応用できると思うので、ぜひやってみてください(すでに実践している方はすみません)。
※ ちなみに私がよく誤りを発見する同音異義語はこんな感じです。
追求・追及・追究
実践と実戦
有意と優位
授賞と受賞(賞をもらう方なのに前者になっていることがあります)
■ おわりに
前回から間があいてしまい申し訳ありません…。今回でいったん校正・校閲のシリーズは終わりにしたいと思います。
校正は地味な作業が多いですが、本の質を担保し事故を防ぐためにいろいろな工夫がされていることがお分かりいただけたら幸いです。
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