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「はじめに」先行公開+内容の紹介:植田健一・服部孝洋『国際金融』

2024年11月中旬に、植田健一先生(東京大学)と、服部孝洋先生(東京大学による国際金融が刊行されます!!

本書は、国際機関や金融の実務経験も豊富な著者のお二人が、平時の国際金融システムに関する経済学や金融論の理論・実証、現実の動向や制度、さらに、近年たびたび世界を襲う「経済危機」の特徴とそれへの対応も盛り込み、現代の国際金融を理解するための必須知識をバランスよく解説する一冊です。

この note では、本書の発売に先駆けて本書の「はじめに」から、「ねらい」「構成」を紹介する部分を抜粋してお届けします。

また、著者の一人の服部先生による内容紹介記事に関する情報も、リンク集の形でまとめていますので、あわせてぜひご覧ください!



はじめに:植田健一・服部孝洋『国際金融』


■本書のねらい

本書の特徴は、伝統的な教科書でフォーカスされてきた為替の日常的な動きを説明することにとどまらず、その奥にある経常収支や金融収支の動向を解説するとともに、非日常的な通貨危機、国際収支危機、国家債務危機についての議論も盛り込み、最後にはグローバリゼーションの意義を展望するという構成で、バランスよく「国際金融」の諸問題をカバーしている点にあります。為替の日常的な動きを理解することはもちろん重要ですが、近年とりわけ国際金融市場における危機が頻発していることから、本書で為替のほかに取り上げている国際的な経済危機に関するトピックは、政策担当者や金融の実務家、学生など、幅広い読者にとって必須の内容であるとともに、関心の高い問題でもあると感じています。そしてこれらは、経済学の世界でも、近年とくに研究が進んでいる分野でもあります。

本書は、二人の経済学者が共同で執筆しました。両者とも、現在は大学に所属していますが、かつて実務家や政策担当者としての職に就いていた経験を持っているという点も、本書の大きな特徴です。本書を執筆したきっかけは、著者の一人(植田健一)が、東京大学大学院経済学研究科および公共政策大学院で行っている国際金融の授業の内容をわかりやすくまとめ、財務省の若手研修の一環として講義をしていたことです。その講義をもう一人の著者(服部孝洋)が活字化したうえで、為替やデリバティブなど金融市場との関係を中心に加筆し、二人で修正を繰り返して完成させました。

その結果、本書は、学生はもちろん、銀行・証券会社・保険会社などに勤める金融の実務家や、政府・国際機関の政策担当者が、国際金融を学ぶうえで基本となる経済学の理論・実証研究の主要な成果を網羅的に解説したものとなりました。さらに、そのような実務の現場で必要となる制度的な知識もバランスよく盛り込んでいます。

本書を執筆する際には、最先端の経済学研究を厳密かつ数理的に説明するのではなく、それらのコンセプトの直観的な理解を促すような解説を行うことに努めました。たとえば、日本経済に関する調査・研究をする場合、日本経済の状況や歴史に関しては、日本で一定以上の教育を受けている読者には、ある程度の前提知識があり、そのうえで対応できると思います。しかし、国際金融となるとそうはいきません。そこで本書では、国際金融システムを理解するために筆者らが必要だと考える背景知識や概念を、できる限り盛り込んで説明しています。

さらに、本書は国際金融に関する有益かつタイムリーな内容もカバーしています。近年、世界金融危機や欧州債務危機、コロナ禍、各地での戦争など国際情勢の不安定化、エネルギーや食糧の問題、急激なインフレ、発展途上国の国家債務危機など、世界全体に影響を与える大きな出来事が続いています。そのため、国際的な経済のつながりを考慮して危機に備えることの重要性はますます大きくなっています。直近では円 / ドル相場の変動が大きく、為替介入などの話題も世間的に大きな注目を浴びてきています。本書は、こうした今まさに直面している問題についてもコンパクトに解説したうえで、主要な参考文献を適宜紹介しています。

植田健一・服部孝洋『国際金融』
(日本評論社、2024年)

■本書の構成

本書は3つの部で構成されています。第I部では、平時のマクロ経済の動きである景気循環と経済成長に対して、国際金融システムがどのような影響を与えるかを考えます。その中でも、とくにマクロ経済の主要な指標と国際収支との関係を説明します。第II部では、為替市場という金融市場に焦点を当てて、重要な話題を幅広くカバーします。第III部では、経済危機を国際金融的な側面から解説します。基本的には、各章で独立して読めるように配慮しています。

第I部の第1章と第2章では、シンプルな国際マクロ経済学のフレームワークを使って、国際金融取引の構造的な概念を理解するための解説を提供します。第1章では、ほぼ同じ経済発展段階にある国同士の国際金融取引を、消費の平準化とリスク・シェアリングの観点から説明します。第2章では、先進国と発展途上国という異なる経済発展段階にある国の間の投資リターンの裁定という観点から国際金融取引を説明します。

続く第3章と第4章では、実務的なコンセプトを説明します。第3章では、国際収支統計の仕組みについて説明します。第4章では、国際収支を決定づける貯蓄・投資バランスの概念を説明します。そのうえで、国際通貨基金(IMF)において最近行われている国際収支の評価の考え方を説明します。

第II部では、外国為替について解説します。第5章では、世界の為替制度と為替市場の様相を説明します。第6章からは、為替レートの決定に関するいくつかの理論と実証研究を俯瞰します。第6章では、財市場における裁定(購買力平価)との関係に注目し、為替レートがどのように決まるかを議論します。また、第4章で導入した貯蓄・投資バランスという国際マクロ経済学のアプローチから、為替レートについて議論します。第7章では、金融市場としての為替市場の仕組みを説明しつつ、金利の裁定(金利平価)という考え方に基づいて為替レートを議論したうえで、実務的に必要なデリバティブの説明も行います。また、2020 年以降円安が進み為替介入が話題になりましたが、第8章では日本の為替介入を詳しく取り上げます。

第Ⅲ部では、国際金融危機・経済危機の問題について、アジア金融危機や世界金融危機など具体例を多く示しつつ、説明します。第9章では、データからみた過去の経済危機の特徴を紹介します。第10章では、通貨危機と国際収支危機について理論と現実の両面から解説します。その際、ここでの理論の基礎となっている銀行危機の理論についても説明します。第11章では、多くの国が国債を海外投資家向けに販売していることから、国際金融資本市場の危機と捉えられている国家債務危機について説明します。そこでは、とくに関連の深い国際法上の問題点も指摘しつつ、経済学に基づく考え方を説明します。第12章では、複合的な危機(通貨危機、国際収支危機、国家債務危機、銀行危機が同時にいくつか起きること)の解説をします。最後に第13章では、軍事上の危機や保護主義に端を発する、グローバリゼーションからの揺り戻しの含意を解説します。加えて、デジタル化とともに今までのドルを基軸通貨とする国際通貨体制の変容を議論し、今後の展望を俯瞰します。


服部孝洋先生による内容紹介も!(リンク集)

著者の服部先生が、ご自身で運営している【 note 】にて、本書の内容紹介記事を連続で投稿しています。本書の内容紹介や特徴、これまでの書籍との違い、金融実務との接点など、連続で投稿される予定なので、こちらに随時追加していきます!

(以降、服部先生 note が更新され次第追記していきます!)

 




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