サンプルコードで実践的に学ぼう!+立ち読み公開!:川口康平・澤田真行『因果推論の計量経済学』
■ ウェブサポートでRコード等を提供!
川口康平・澤田真行『因果推論の計量経済学』のウェブサポートは、本書のGitHubリポジトリで提供しています!
本書のサポートGitHubリポジトリでは、各章で解説している因果推論の手法の実装面の解説と、実際のRのコードを提供しています。また、本文の解説に対する数学的議論(証明、補足など)をまとめた「テクニカルノート」の提供も行っています。
サンプルコードでは、以下のように、コードの解説、コードと本書の内容のつながりなども丁寧に説明しながら、本書の理解と実装をサポートします。
ぜひ、以下の本書のGitHubリポジトリにアクセスいただき、サンプルコードやテクニカルノートも覗いてみてください!
提供しているファイル群の説明や利用方法等の詳細は、リポジトリの README でガイドしています。まずはREADMEをご覧いただき、ご自身のコンピュータに本リポジトリをクローン(ダウンロード)いただいてお試しいただければと思います。
■ はしがき・序章「経済学の因果推論アプローチ」を公開中
本書のねらいをまとめた「はしがき」、経済学における因果推論の位置づけを解説した「序章」、および本書の細目次を、【コチラ】で公開中です!(PDFが開きます)
「はしがき」では、著者のお二人がなぜ本書を書こうと思ったのか、どのような想いを込めて本書を書いたのかを、計量経済学の教え方や学び方に関する問題意識も交えてまとめています。
「序章 経済学の因果推論アプローチ」では、本論に入る前に、本書のねらいと構成の意図について解説しています。本書で学ぶのは、経済学の課題を分析するために発展してきた「経済学訛りの強い」因果推論です。それがどういうものなのか、なぜわざわざ「経済学訛りの強い」と断っているのか、このように学ぶことにどんな意味があるのかを解説しています。もちろん、経済学を学んでいない人にとっても、実は「経済学訛りの強い」因果推論を学ぶメリットがあることも述べられています。
また、本書は「潜在結果モデル」で一貫してまとめられていますが、その意義を、過去から現在にいたる経済学・計量経済学の流れの中に、現在の因果推論の活用を位置づけながら解説していきます。
計量経済学、因果推論を学ぶうえでも、また本書を読み進めるうえでも重要な情報がまとめられた「はしがき」と「序章」を、ぜひご覧ください!
なお、以下にも本書の「はしがき」をこちらにも掲載しています。
はしがき
本書は、「因果推論」のフレームワークでミクロ経済学の実証分析を行うために現在必要とされている知識を、半ば暗黙知となっている実践も含めて、余すことなく、統一的に解説するために書かれた計量経済学の教科書である。主に学部上級から大学院レベルの学生で、ミクロ経済学の実証研究で論文を書きたいと考えている人たちを対象に執筆した。このような教科書を書いたのは、複数の因果推論の教科書や論文を漁らなければ、現在必要とされる知識のすべてをカバーするのが難しいということに、筆者らがそれぞれの勤務校で大学院レベルの講義を準備する際に気づいたからである。
計量経済学の分野には、理論家の手による優れた教科書がすでにたくさん存在する。しかし、それらの教科書では、経済学における伝統的な「構造推定アプローチ」、すなわち「経済理論による均衡条件の構造型の導出 → その誘導型の導出 → 最小 2 乗推定量 → 操作変数法 → 一般化積率法」へと進む流れで体系付けられており、現在の「潜在結果アプローチ」による因果推論は、その体系の中に埋め込まれる形で解説されるスタイルとなっている。しかしそれは、制度の記述から始まる近年のミクロ経済学の実証研究における因果推論の実践とは必ずしも一致する形とはなっていない。また、計量経済学の理論を学習するうえでは欠かせない、推定量の妥当性を保証するための漸近論に紙幅を割かざるをえないという面もある。
加えて、実際に現実の制度とデータを前にして因果推論に基づく実証研究を行う際には、ある程度定型的に用いられる実践の「型」がある。分析方法の仮定の妥当性を検証したり、結果の解釈の妥当性を議論したりするうえで、理論の枠内には収まり難いものの、実証研究を行って論文を学術誌に出版するためには、こうした「型」の習熟が必須である。また、プログラミングを通じて実際に手法を実装する方法を学ぶことも重要である。しかし、理論家の手による教科書は理論を学ぶことを目的に書かれていることが多く、これらの点にはあまり言及されていない。
一方、応用家の手による優れた教科書もすでに存在する。それらの教科書では、分析方法の仮定の妥当性を検証したり、結果の解釈の妥当性を議論したりするための実践に関する解説や、プログラミングによる実装の解説が厚く提供されている。しかし、理論的な内容の解説は必ずしも十分とはいえないことが多い。たとえば「差の差法」では、2×2の設定のような限定的なシチュエーションにおける直観的な解説にとどまっており、識別や推定量の性質に関する厳密な論証は行われないなどの傾向がある。
このことは、応用家による教科書において、統計的推測における多重検定問題、回帰非連続デザインにおける最適バンド幅の選択、差の差法における一様信頼区間の構成など、実際に論文で頻繁に用いられているにもかかわらず、既存の教科書には解説がなく、元論文に当たるしかないような最新の手法について、厳密な議論が避けられがちになるという問題にもつながっている。また、こちらのタイプの教科書でも、意識的か無意識的かにかかわらず、やはり「構造推定アプローチ」の流れを引き継いでいることが多い。
因果推論の活用は経済学以外にも多くの分野で広がっており、各分野で優れた教科書が複数出版されている。しかし、そうした教科書では、経済学で頻繁に用いられる各種手法の解説が手薄になっている。たとえば、「疑似実験」に含まれる回帰非連続デザインや差の差法、特にその派生的な手法が扱われていなかったりする。その代わりに、マッチングなどの実験を近似することを目的とした手法が手厚く議論されていたりする。こうした違いは、因果推論の世界には分野固有の課題に応えるために生まれた「訛り」があるため生じている。そのため、経済学が直面する課題に向き合うためには、「経済学訛りのある因果推論」の知識が必要になるのである。
計量経済学の講義は、従来は計量経済学の理論家によって教えられることが多かったが、近年では著者の 1 人である川口のように応用を専門とする研究者によって教えられることも多い。そうなると、因果推論の手法の単純な局面での直観的な側面ばかりが教えられる一方、その理論的な側面や、最新の手法の裏側にある議論などがごっそりと抜け落ちてしまうおそれがある。プログラミングによる実装を教える場合にも、パッケージのどのオプションが理論のどの側面に対応するかは解説されるものの、その厳密な内容の理解が不十分なままになってしまうことがある。たとえば、R の rdrobust というパッケージにおける “robust” な標準誤差は何を意味するかといった理解があやふやなままということすらある。
とはいえ、もう 1 人の著者である澤田のような理論家が教えればこうした問題が解決されるというわけでもない。今度は、仮定の検証や解釈の妥当性の議論といった、実践的な側面の解説が不十分になってしまう可能性がある。
また、最新の手法について解説しようにも、教科書に記述がないので、学生には元論文を参照してもらうしかない。さらに、このような講義を準備したことのある研究者の多くは実感されていると思うが、元論文はそれぞれ記法や仮定が異なっており、講義の中の統一的な解説に落とし込むのが意外に難しい。このような、何をとっても「帯に短し襷に長し」といった現状を補完するために書かれたのが本書である。理論家が教えるにしても、応用家が教えるにしても、また、理論を志す学生が読むにしても、応用を志す学生が読むにしても、あるいはビジネスや公共政策の世界のデータサイエンティストなどといった、そのどちらの立場にもない人が読むにしても、既存の因果推論の教科書では扱いの薄かった側面まで分厚く記述されていて読み応えのある内容を目指して、応用家である川口と理論家である澤田が共同で本書を執筆した。
本書が実現しようとしている教育効果を達成するためには、従来、計量経済学の古典的な教科書に因果推論に関する各種教科書をあわせ、元論文の講読や輪講、あるいはデータ分析の実践を通じて、教育を行う必要があった。しかし、その結果として得られる知識は、今や最先端の実証研究の世界ではただのコモディティである。ただのコモディティをもったいぶって学んでも仕方がない。本書は、「そのような既存の知識は暗黙知も含めてドキュメント化してさっさと共有してしまおう。人々の貴重な時間はもっと新しくて未解決の問題について考えるために使おう」という構想のもとで書かれている。
そうした構想に従い、本書の内容はウェブ付録を含めて主に 4 つのパートから成り立っている。まずは、潜在結果モデルや無作為化実験のもとでの因果推論、回帰非連続デザインや差の差法などの疑似実験のもとでの因果推論に関する基礎知識をまとめた「基礎編」、それらの手法の実用例について議論する「応用編」、多重検定、クラスター頑健標準誤差、回帰非連続デザインと差の差法の最新の手法や理論的な結果についてまとめた「発展編」、最後に、それらの手法の R による実装を紹介したウェブ付録の「実装編」(本書内の該当箇所に[R]) である。また、数学的な証明に関する「テクニカルノート」(本書内の該当箇所に[T]) もウェブ上で提供している。なお、ウェブ付録は本書のサポート用 GitHub リポジトリ (https://github.com/keisemi/EconometriciansGuide_CausalInference) で公開している。扱う手法は、既存の教科書や公刊論文で導入されており、かつ (未公刊論文を含む) 最新の実証研究の論文でいくつかの応用例が認められるものに限った。したがって、最近未公刊論文として公開された手法や、学会やセミナーで発表されたような手法などは含んでいない。こうした手法は、元論文を読んでその意義と限界を自分で理解できる研究者だけが使用すべきだと考えるからである。
本書を読んだ初学者が短い期間で既存の研究者を乗り越え、それを上回る成果を発信し始めることを期待している。
* * *
本書は著者の川口と澤田が構成から内容まで、編集者とともに議論を重ねながら執筆した。その過程で、当時一橋大学の大学院生だった中井絵理奈氏には、文献調査などの面で大いに手助けいただいた。また、東京大学の奥井亮氏、重岡仁氏には、第 1 稿を批判的な観点から読んでいただき、さまざまな有益なコメントを頂戴した。日本評論社の編集者である尾崎大輔、杉田壮一朗の両氏には、資料の準備、文章の推敲、校正などのさまざまな面でお世話になった。彼・彼女らにここで深く感謝を捧げたい。その結果としてできあがった本書の内容の文責は、すべて川口・澤田の両著者にある。
2024年5月
川口康平・澤田真行
サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。