見出し画像

銀行員はなぜギャンブル依存に陥るのか?高収入なのにお金に困る不都合な真実

先日報じられた三菱UFJ銀行の元支店長代理が、顧客の貸金庫から総額17億円相当もの現金や貴金属を盗み出していた事件。

まさに驚愕のニュースです。

「銀行員=堅実」「高収入だからお金には苦労しないはず」と思い込んでいた方にとって、これは衝撃でしょう。

しかし、現実はどうでしょう?

実は「銀行員がお金に困る」ケースは決して稀ではありません。
今回の事件では、犯人はFX取引や競馬といった“ギャンブル”で多額の損失を抱えていたと報じられています。

なぜ、安定した収入と肩書きを持つはずの銀行員が、投資やギャンブルにのめり込み、ついには犯罪にまで手を染めてしまったのか。

この記事では、元銀行員である筆者の視点から、その背景にある人間心理と行動経済学の知見を踏まえつつ、銀行員のお金事情を深堀りしていきます。

銀行という「安定した職場」で起こり得る破綻の構造を、率直にお伝えします。

なぜ銀行員がギャンブルにハマるのか?

「身近なリスク」に慣れてしまう職業環境

銀行は多くの資金を扱う現場です。現金そのものから、小切手や手形、為替関連など、周りは「お金」に囲まれています。

日々、億単位の資金移動が当たり前で、金融商品や市場の相場の話題が飛び交います。

よって、以下のような状態になります。

・金銭感覚が麻痺する
・大きなお金に対する敷居が低くなる
・自分も大きく「稼げそう」と錯覚する

こうした環境では、「大きな数字」に慣れすぎてしまい、リスク判断の感覚が狂います。

行動経済学には「感応度逓減」という概念があります。

取り扱う金額が大きくなると、心理的なインパクトが逓減する(徐々に減っていく)という現象です。

これは、「銀行員あるある」だと思います。


プロスペクト理論が示す損失回避の罠

行動経済学の代表的な理論であるプロスペクト理論では、人は利益よりも損失を強く嫌う傾向があるとされます。

一度「負け」が膨らみ始めると、損失を取り戻そうとリスクの大きな賭けに出てしまう。これは典型的な心理的バイアスです。

• 負けを取り戻そうと、さらに深みにはまる
• 不合理な追加投資(サンクコストの呪縛)を繰り返す
• 「ちょっとの負けならすぐリカバリーできる」という過剰な楽観

安定した高収入の銀行員でも、この心理からは抜け出せません。

大金を扱う仕事柄、「もっと上手くやれば、すぐに取り戻せる」と思ってしまう。結果、損失が膨らめば膨らむほど抜け出せなくなり、まさに泥沼化してしまいます。


過度のストレスと逃げ道としてのギャンブル

銀行は外から見る以上にノルマやプレッシャーがきつい仕事です。

融資獲得、投資信託・保険などの販売ノルマに加え、上司からの評価、人間関係の複雑さなど、ストレス要因は山積みです。

• 数字を達成しないと居場所がない
• 業績のプレッシャーでメンタルが疲弊する
• ストレス発散のはずのギャンブルがさらに追い打ちをかける

行動経済学的には、ストレスに晒されていると認知能力や意思決定が歪みます。

短期的な快感や興奮を求め、合理的判断よりも「いかに早く苦しみから逃れられるか」を優先してしまうため、ギャンブルは絶好の逃げ道になるのかもしれません。


「自分は特別」と過剰な自信

「銀行員は金融のプロ」「自分には投資のスキルがある」。こうした根拠なき自信が芽生えやすい職種であることも否定できません。

• 自分なら勝てると思い込む(オーバーコンフィデンス)
• 他人の失敗は他人事として捉える
• カウンターパンチが来たときに予想外に脆い

この自信がギャンブル依存を加速させてしまいます。

最初は小さな金額でも「もっといけるのでは?」とハイリスクな投資に傾倒し、損失が出ると「いや、まだ取り返せる」と泥沼にはまる、非常にわかりやすい負の連鎖です。


構造的に生まれる「見えにくい罠」

ここからは銀行業界そのものについて、構造的な視点からの私見を述べます。

一人に業務が偏る

銀行に限らず、多くの組織で問題となりがちなのが「特定の個人が主要業務を一手に引き受けてしまう」状態です。

人員不足や仕事ができる人に業務が集中しやすい日本企業の風土など、さまざまな理由から一人に重責がのしかかるケースは珍しくありません。

貸金庫の管理は本来は複数名でのチェックや厳重な封印確認が必要ですが、実務上の効率や人手不足などを理由に形式的な確認に終始してしまうことはあると思います。

実際、私が銀行員時代も業務多忙を理由に、行員間で行う店内検査を疎かにする風潮はありました。

「署名や印鑑があればOK」など、手順は守られているようで実質的な監視が機能していない状態は、人手不足の銀行では、常態化している可能性はあります。

もちろん、こうしたリスクは銀行業界に限らず、あらゆる組織で起こり得ると思います。

特に日本の企業文化では、「経験を積んでこそ一人前」という考えのもと、若手や能力の高い社員に大きな権限や業務を丸投げする傾向が残っています。

その結果、適切な監視やサポートがないまま業務範囲だけが拡大し、不正発生時のダメージも拡大してしまうのではないでしょうか。


社内の過度なプレッシャー

銀行業界は業績目標や数値評価が特に厳しく、結果を出せない社員は出世が遠のく、あるいは肩身が狭くなるというプレッシャーを強く感じます。

これは銀行特有の問題ともいえますが、営業職やノルマが厳しい職種全般に当てはまるでしょう。

数字達成のプロセスや手段は黙認され、過度なプレッシャーのもとでは社内ルールや倫理感が後回しになる傾向は結構あると思います。

実際に、今回のように不正行為へと走る職員が出てくる背景には、結果を求められる強迫観念もあるかもしれません。

加えて、銀行の職場は営業職だけではなく、事務職も過酷な労働環境によってストレスが溜まります。

ギャンブルなどでストレスを晴らそうとしてしまう心理もまた、銀行員のみならず多くのビジネスパーソンに共通する課題かもしれません。

行動経済学では、ストレス過多の状態にあると意思決定が不合理になりやすいことが明らかにされています。


相談しづらい雰囲気

銀行を含む多くの日本企業では、失敗に対して寛容ではない評価体制が目立ちます。

これは数値重視の文化、実績を残すことが唯一の正義という価値観が根強いからだと考えます。

日本企業では、多くのケースで「失敗=能力不足」とみなされるリスクがあると思います。

失敗した場合、その結果だけで能力不足と判断されるのは、よくある事例ではないでしょうか。

これが銀行の場合は顕著で、「相談できないムード」を助長していると思います。

また、「減点方式」の人事考課も銀行の特徴です。

「できて当たり前」という風土のため、成功して加点されるのではなく、失敗した場合に減点する評価制度が一般的です。

そのため、銀行員は問題が小さいうちに報告して解決するのではなく、なるべく隠してやり過ごそうと考えてしまう傾向があります。

このように、「評価が下がるから黙って抱え込もう」という心理が働き、トラブルの早期発見や迅速な対策が難しくなってしまうのが銀行の風土です。

そして、最終的に組織全体が大きなダメージを被ることになります。


では、どうすれば防げるのか?

複数人管理と定期監査の徹底

当たり前の話ですが、貸金庫をはじめとする高いリスク業務は複数人がチェックする仕組みが必要です。

形式だけの点検ではなく、抜き打ちや外部監査を強化し、不正を早期に見抜く可能性を高めるべきでしょう。

ノルマ至上主義からの脱却

数字を追いかけるのではなく、社員のモチベーションや心理面を把握し、ケアできる体制づくりが必要だと思います。

行動経済学の視点では「認知負荷が高い環境は不正や意思決定のミスを誘発する」とされています。

私の経験でいえば、銀行内部のプレッシャーは非常に高いと思います。

「恥の文化」から相談しやすい風土へ

日本社会では「借金」や「ギャンブル依存」は人に相談しづらいテーマです。

しかし、相談しにくい環境こそ最悪の事態を招くと思います。

安全にカミングアウトできる場を整備することが、ギャンブル依存や不正の芽を摘む第一歩ではないでしょうか。


まとめ

今回の事件は、銀行員であっても心理的バイアスや組織体制の隙間に落ちれば、容易にギャンブル依存や不正に手を染めることを浮き彫りにしました。

「銀行員だから大丈夫」「高収入だからお金には困らない」そんな思い込みは捨てるべきです。

本当の安定とは、外から見える肩書きや収入ではなく、内部の透明性や健全な組織風土、そして自分の行動と心理を客観的に見つめられる環境から生まれるのではないでしょうか。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
よろしければフォロー頂けると、大変嬉しいです。
またコメントもお待ちしております。


※「note」を利用する筆者のブログについて
当ブログは、 Amazon.co.jp のリンクによってサイトが紹介料を獲得できる「Amazonアソシエイト・プログラム」に参加しております。

紹介料は小児がんの娘のサポート費用に充当しております。


いいなと思ったら応援しよう!

Kei | MBA| 元銀行員
よろしければサポートお願いします。 いただいたサポートは小児がんの娘の治療費に使わせていただきます。