「消費税の逆進性」の本質:数学的な考察
消費税が10%に引き上げられてから数年が経ちました。
「消費税は逆進性を持つ不公平な税である」と批判されます。
逆進性とは、所得が低いほど税負担の割合が大きくなることを指します。
これは「一律10%」という税率が原因と言われます。
しかし、逆に「一律」だから平等な税制だという人もいます。
果たしてその議論は本質をついているのでしょうか。
今回は、消費税の逆進性に焦点を当てて考えてみます。
この記事では、消費税の逆進性の本質、「逆進性ではない」とする主張の背景について考察します。
消費税の逆進性とは?
消費税は、すべての消費者に一律の税率で課税されます。
たとえば、1,000円の商品を購入した場合、税率10%なら100円の消費税が加算されます。
この仕組みはシンプルですが、所得に対する負担割合を考えると不平等が生じます。以下に数式で説明します。
このように、同じ金額の消費支出の場合、所得が低いほど税負担率が高くなります。
これが「逆進性」と呼ばれる現象です。
逆進性が引き起こす社会問題
消費税の逆進性が社会に与える影響は甚大です。
低所得者層は、食料品や日用品など必需品への支出が、消費の大部分を占めています。
生きていくためには、低所得者層が生活必需品への支出額を減らすのも限界があります。
食料品のような生活必需品に課税される消費税は、低所得者にとって生活を脅かす要因となっています。
例えば、年収250万円のAさん世帯(夫婦と子供一人)では、食料品の月々の支出が10万円だとします。
消費税10%の場合、月々1万円、年間12万円の消費税を支払うことになります。
この負担額は、以下の計算になります。
12万円 ÷ 250万円 = 税負担率4.8%
一方、年収1,000万円のBさん世帯(Aさんと同じ家族構成)も食料品の支出は毎月10万円の場合、以下の計算になります。
12万円 ÷ 1,000万円 = 税負担率1.2%
家族構成が同じであれば、生活必需品に支出する金額が大きく異なることは少ないはずです。
日本の場合、食品などには軽減税率が適用されていますが、これは年収に関係なく一律で課税されるため、逆進性の改善にはつながりません。
逆進性が生む問題
また、逆進性によって、以下のような問題も起きやすくなります。
「格差が広がる」と主張する人たちが、消費税廃止を訴える理由にもなっています。
• 家計の圧迫による貯蓄の減少
• 消費の縮小による経済成長の鈍化
• 健康に関する費用や教育費の削減
「消費税は逆進性ではない」とする主張の背景
一方で、「消費税は逆進性ではない」とする人もいます。
その主張には次のような根拠があります。
高所得者は絶対額で見ると多くの消費税を支払っている。
所得税や住民税などの累進課税が逆進性を緩和している。
高所得者は絶対額で多く支払っている
消費税の納税額は消費額に比例します。
高所得者は消費額も大きいため、支払う税金の総額は高いという主張です。
生涯視点で見れば公平
生涯所得と生涯消費で考えて、税負担率を計算すると、公平であるという主張です。
一生涯で考えると、高所得者は大きな消費ができるので、支払い総額は大きくなり、バランスが調整され、税負担率の差は縮小するというものです。
累進課税の存在
日本は所得税や住民税といった累進課税であり、これが消費税の逆進性を緩和するという主張です。
「逆進性ではない」と主張する人は数学が苦手
しかし、「逆進性ではない」と唱える人は大きな勘違いをしています。
それは、税負担額と税負担率を区別して議論すべきということです。
税負担率は所得層間で大きく異なるため、逆進性の本質を見過ごすことになります。
消費税の逆進性の本質は、所得が低い人ほど所得に対する税負担率が高くなる現象にあると考えます。
これを数学や統計学の観点から説明すると、以下のようになります。
所得と消費の関係性
まず、個人の所得を Y 、消費支出を C とします。
一般的に、低所得者ほど所得の大部分を消費に充て、高所得者ほど消費に占める割合が小さくなる傾向があります。
これは平均消費性向と呼ばれ、次のように表されます。
平均消費性向 = C / Y
低所得者では C / Y が1に近くなり、高所得者はゼロに近くなります。
これは、低所得者が生活必需品に多くの所得を費やすためです。
消費税の税負担率の計算
消費税率を τ (例えば10%なら τ = 0.10)とすると、個人が支払う消費税の額 T は以下のようになります。
T = τ × C
• T は支払う消費税額
• C は消費額
所得に対する税負担率 t は次のように計算されます。
t = T / Y = (τ × C) / Y = τ × (C / Y)
• Y は所得
• C / Y は平均消費性向を表します。
逆進性の数学的解釈
逆進性とは、所得 Y が増加すると税負担率 t が減少する現象を指します。
この現象を数学的に示すために、所得と税負担率の関係を考察します。
低所得者の場合
• 生涯所得:YL
• 生涯消費:CL
• 平均消費性向:CL / YL ≒ 1
生涯の税負担率(tL)
tL= τ × (CL / YL) ≒ τ
高所得者の場合
• 生涯所得:YH
• 生涯消費:CH
• 平均消費性向:CH / YH < 1
生涯の税負担率(tH)
tH = τ × (CH / YH) < τ
つまり、所得が高くなると C / Y (平均消費性向)が減少し、それに伴って税負担率 t も減少します。
これが逆進性の本質です。
統計学的な裏付け
統計データによると、限界消費性向(所得が増加したときに追加で消費に回す割合)は所得が低い人ほど高くなります。
これは「エンゲルの法則」とも関連し、所得が低い場合、食料品など生活必需品への支出割合が高くなることを示しています。
エンゲルの法則は、19世紀の統計学者エルンスト・エンゲルが提唱した消費行動に関する法則です。
この法則は、「家庭の所得が低いほど、全体の支出に占める食料品など生活必需品の割合が高くなる」というものです。
消費税との関係で考えれば、エンゲルの法則は逆進性の原因といえます。
消費税はすべての消費に一律で課税されます。
よって、生活必需品への支出割合が高い低所得者ほど、所得に占める消費税の負担は確実に重くなります。
生活必需品への支出は生きるために必要なため、簡単に割合を下げられません。
よって、所得に関係なく一律に消費税を課せば、逆進性を生みます。
まとめ
消費税の逆進性の本質は、平均消費性向が所得階層によって異なることにあります。
数学的には、税負担率 t = = τ × (C / Y) が所得 Y の増加に伴って減少するため、逆進性が生じます。
統計学的にも、低所得者ほど消費に多くの割合を費やす傾向がデータで示されています。
税負担額(絶対額)だけでなく、税負担率(所得に対する割合)を考慮すれば、逆進性の問題の本質を正確に理解できます。
これを無視して議論すると、社会の不平等や低所得者への影響を正しく評価できなくなります。
それでも以下の記事のように、「消費税は逆進性ではない」と主張する人はいます。
皆さんは、どう考えるでしょうか。
消費税は低所得者に厳しい税制か、それとも平等な税制か。
私は数学的な視点から、確実に低所得者に厳しい税金と考えます。
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