【試し読み】いまこそ小売業を起点にSDGsの実現を! 『小売業の実践SDGs経営』
昨今、SDGsは毎日のようにメディアを賑わせ、いまや政府・自治体から企業経営者・従業員、金融機関・投資家、そして消費者まで、幅広く意識される行動規範・判断基準になりつつあります。
なかでも小売業は、地域や街のライフラインとして人々の生活に密着しており、事業そのものが持続可能な社会のための取り組みとも言えます。小売業はSDGsの精神と非常に相性が良く、その実現に大きな責任を担った業態なのです。ところが、現場を取材してみると「え、小売業がSDGs?」「具体的に、何をすればいいの?」という声が多いのも事実です。
そこで当社6月新刊『小売業の実践SDGs経営』は、小売業と地域・社会が共に長く発展するための「SDGs 経営」について、独自に収集した企業データから、小売業でのSDGs の取り組みが業績や競争力にどう結び付くかを分析します。また、セブン&アイや髙島屋といった先進的な優良小売業5社の実践例を体系的に紹介し、経営方針の設定からSDGs 戦略の策定、そして商品開発や店舗施策、接客などへの展開までSDGs の推進プロセスを提案します。
今回は、著者の小売業への熱い気持ちと本書の読みどころが詰まった「はじめに」を公開します。小売業はもちろん、非財務情報をESG投資に役立てたい投融資機関、商品・サービスを小売業にアピールしたいメーカー・卸、そして地元企業と連携して地域の安全対策・活性化に取り組みたい自治体の皆さんにとっても有益な情報とアイデアが満載です。ぜひご覧ください。
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はじめに――SDGs経営を始めよう
今こそ小売業は「SDGs経営」を
新型コロナウイルス感染症に社会が苦しんだこの3年、小売業は生活を支え社会的に大きな役割を果たした一方、赤字や倒産に追い込まれた会社も続出しました。小売業の皆さんは、その使命と事業継続の大切さ、そして難しさを実感しているのではないでしょうか。「SDGsどころではない」という方々も決して少なくないでしょう。
しかし、実は社会的役割を発揮することで企業を維持発展に導くのがSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)経営なのです。ここで、本書が提案する「SDGs経営」を一言で表すと、次のようになります。
2022年は、「小売業のSDGs経営元年」になりそうです。各種ニュースを見ても、SDGsを目にしない日はありません。日本政府は「SDGsアクションプラン2022」を発表し、2023年のG7議長国として、2030年に向けた持続可能(サステナブル)な社会実現への決意を示しました。まさにSDGsは社会を動かす潮流(ムーブメント)となっています。
上場企業に必須なSDGs経営と情報開示
時代の変化は株式市場にも及んでいます。2022年4月4日に、東京証券取引所の上場区分が再編され、プライム企業を中心に非財務情報の開示義務が強化されました。上場企業にとって、SDGs経営とその情報開示は待ったなしです。
そこで本書は、日本株の約3割を保有する海外投資家も注目している非財務情報の開示に、どう取り組むべきかについて多くの紙幅を割きました。
筆者らは、長年にわたり小売業の皆さんに大変お世話になってきました。その小売業がコロナ禍と時代の変化を乗り越え、より良い社会づくりのリーダーとして日本経済を牽引する存在になってほしい、日本小売業の素晴らしさを世界のみなさんに知ってほしい……私たちはそんな願いを込めて、本書を執筆しました。
本書をぜひ読んでいただきたい方々
本書は、まず小売・卸・食品メーカー・消費財メーカーの経営層、課長以上のミドルマネジメント、そしてSDGs推進部門の方々に向けて書かれています。
小売業では、SDGs戦略を現場で具体化する商品部、店舗開発部、店舗運営部の管理職、店長などのリーダーもぜひお読みください。新入社員から役員の研修テキストにも活用できます。SDGs経営はマネジメントだけで行うものではなく、組織全体で取り組むものだからです。
SDGsについては、小売に限らず、取引先の食品メーカーや卸でも戸惑っている企業が多いようです。小売業のSDGs経営について詳しく理解すれば、取引先企業も注力すべき点やアピールポイントが分かり、営業も成功しやすくなるでしょう。
あるいは大学生も、SDGs経営の基礎を学ぶことで、社会的に尊敬され誇りをもって働ける良い就職先に出会うことができるのではないでしょうか。
SDGs経営の疑問にお答えします
とはいえ、「SDGsの時代」と言われても、経営にどう結び付ければよいのでしょうか。皆さんが、「SDGs経営とは、具体的に何をすることか」「業績は良くなるのか」「本気でやるべきなのか」などと疑問を持つのも当然です。
そこで本書は、実務の視点に立って疑問にお答えします。例えば、皆さんは次のような疑問を抱いているのではないでしょうか。
SDGs経営を図式化しました
本書では、こうした疑問に答えるため、SDGs経営の目的、各取り組みのつながり(構造)、そして推進プロセスの3ステップを図で表現しています(図0・1)。
SDGs経営の目的(ゴール)は、成長性(売上高を伸ばすこと)・収益性(儲けること)・社会性(社会的役割を果たすこと)を通じ、長期的な維持発展を実現することです。そして、目的の実現に向けたSDGs経営の3ステップは、次のとおりです。
第1段階:経営トップがコミットし、社是・経営理念を踏まえ、時代に対応するビジョンと経営方針を打ち出し、これらを社内に浸透させる。
第2段階:SDGs戦略の策定と推進。SDGs・社会性の視点を経営戦略へ融合する。
第3段階:SDGs戦略を具体化し、競争力を強化する。
詳しくは第3部で説明しますが、この3段階をうまく進められると、売上も利益も増え、社会からも良い企業として評価が高まり、企業の永続性が高まります。企業は、このロジックをステークホルダーにアピールしてください。
本書の構成
本書は3部から構成され(図0・2)、SDGs経営とは何か(What)、なぜ行うのか(Why)、どう実践するのか(How)について豊富な具体例を基に説明し、SDGs経営の実践プロセスを提案します。
第1部の基礎知識編では、「SDGs経営とは何か」を説明します。SDGsが小売業とどう関係するのか、これまで行ってきたことと何が違うのか、自分たちは他社と比べてどこが遅れているか、従来の取り組みに加えて何を行えばよいかが分かります。
また、小売業の歴史400年を振り返り、さらに企業の社会性に関する主な理論を確認しながら、日本企業のSDGs経営を支えるロジックの確かな足取りを説明します。SDGs経営が一時の流行ではなく継続的な潮流であり、小売業のSDGs経営とは本業の強化そのものであることに気づくでしょう。
第2部のデータ分析編では、独自に入手した191社のSDGs経営に関する最新生データと、個々の企業情報から丁寧に集計した上場小売業148社の非財務情報のデータを応用多変量解析によって分析し、SDGsの取り組みが競争力の強化と売上・業績にどう結び付くかを明らかにします。
SDGs経営は将来の売上成長と収益機会を生み出し、ビジネスリスクを低下させます。投資家が知りたいのは、まさにこのロジックです。ここでは、SDGs経営のロジックを、スーパーマーケットを事例に紹介していきます。
第3部の実践事例編では、日本の小売業を代表する5社の先端的なSDGs経営を紹介します。取り上げるのは、アクシアル リテイリング、アークス、丸井グループ、髙島屋、セブン&アイ・ホールディングスです。社長がリーダーシップを発揮し、推進部門と事業部門が横断的に協力し、店舗戦略と商品戦略にSDGsを融合するプロセスを説明します。調査には、セルサイド(証券会社)、バイサイド(機関投資家)、アカデミア、経営実務の経験に基づく独自の手法を用いました。
どの章も、実務での活用を重視し、図やグラフを数多く用いて分かりやすく整理しました。一方、研究・分析に関心のある読者に向けては、代表的な理論・実証研究と本書の分析過程を第2部・第3部の補論で紹介しています。
結論は第7章としてまとめました。先ほど示した「SDGs経営の構造とステップ」図を用いて、SDGs経営とは何をどうすることか、ステークホルダーにどのようなメリットがもたらされるか、会社の繁栄にどうつながるのか、そのロジックを説明しています。社内でSDGs経営を推進する際や、社内外のステークホルダーに自社のSDGs経営を説明する際にご活用ください。
なお、本書をより深く理解するための解説動画を公開しておりますので、ぜひご覧ください(https://www.youtube.com/playlist?list=PL_uVYuEPJew4CmuyrfKWaAj3bda9qEWHb)。また、本書は「ダイヤモンド・リテイルメディア」のウェブメディア「DCSオンライン」で連載中の「リンジのアドバイス2・0」と連動しており、さらに小売関係者が開催する勉強会でも本書の内容を紹介させていただいています。
折しも、慶應義塾の機関誌『三田評論』2022年6月号では、「SDGs時代の企業の社会性」という特集が組まれ、筆者(渡辺)も座談会に参加させていただきました。「SDGs経営」時代の到来を確かに感じ取られる内容ですので、ご一読をお勧めします。
本書を読み終わった時、皆さんがSDGs経営に「あ、なるほど」と親しみを感じていただけたら幸いです。
皆さんが、部署を越え、店舗を越えて協力することでSDGs経営が実践され、企業は長期的に維持発展できます。さらに企業を越え、国境を越えて協力し合えば、小売業はムーブメントとしてのSDGsを牽引し、よりよい社会づくりに大きな責任を担う誇らしい業界であり続けるでしょう。筆者らは、そんな近未来を夢見ています。
それでは、どうぞ本書をお楽しみください。
渡辺林治、篠原欣貴、薩佐恭平
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【著者略歴】
【編著者】
渡辺 林治(わたなべ りんじ) 執筆:1章、3章~7章、ケース1、2、4、5、補論1、2
リンジーアドバイス株式会社代表取締役、東京大学大学院医学系研究科特任講師、博士(商学)慶應義塾大学
1990年慶應義塾大学経済学部卒業、95年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院修士課程修了、2011年慶應義塾大学商学研究科後期博士課程修了。野村総合研究所のアナリストとシュローダー投信投資顧問の調査部長を経て、2009年に上場企業に経営・財務をコンサルティングするリンジーアドバイスを設立。一般社団法人日本商工倶楽部の財務委員、プライム企業の社外取締役として指名委員会・報酬委員会委員長を兼任。
専門:小売経営、企業経営、金融財務、IR、経済分析、サステナビリティ。
主要業績:『流通企業の繁栄と戦略』(千倉書房、2013年)『この指標がわからなければ幹部になってはいけません』(ダイヤモンド、2016年)、『2026年までの経済予測』(集英社、2018年)。
【著者】
篠原 欣貴(しのはら よしき) 執筆:2章、ケース3
立命館アジア太平洋大学国際経営学部准教授、博士(商学)慶應義塾大学
2008年慶應義塾大学商学部卒業、三菱UFJ証券入社、13年同大学院商学研究科修士課程修了、16年同後期博士課程修了、立命館アジア太平洋大学国際経営学部助教、19年より同准教授。2021年より同大学インクルーシブ・リーダーシップセンター長。
専門:経営学、経営倫理、企業におけるダイバーシティとインクルージョン。
主要業績:「病院職員の定着を促進する他者を尊重する組織風土:大分県内の病院における事例研究」(共同執筆、『日本医療・病院管理学会誌』58巻1号、2021年)、「将来世代に対する企業の責任:コミュニタリアニズムの観点から」(『日本経営倫理学会誌』26号、2019年)、「企業の持続可能な発展に向けた行動を促す外部環境要因と戦略的志向」(『日本経営倫理学会誌』24号、2017年)など。
薩佐 恭平(さつさ きょうへい) 執筆:ケース5(共同執筆)
金融機関勤務
2011年慶應義塾大学商学部卒業、金融機関入社、20年一橋大学大学院経営管理研究科修士課程修了(経営学)、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程在籍中。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。2020年より株式会社カミナリ屋社外取締役。
専門:経営学、経営分析。
【目次】
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