受験生諸賢に光あれ!
まるで昔の古傷がうずく様に、私の内に秘めたインテリジェンスの燃え上がりを感じる時節がある。その時節こそ、目下到来せんとする受験シーズンである。「あの時こそが、私が誰よりも一等に輝いていた最終到着地点(パラロキシミテ)に他ならない」と、のちに本田はそう述懐している。彼がなぜ一等に輝いていたかと言えば、それは彼が受験した大学に全て合格したからである。
中高男子校に六年間通っていた私は、可憐な乙女との会話なぞ一切したことがなく、ましてやそんな乙女たちと手をつないだり接吻を交わすなどもゆめゆめなく、畢竟、そのあとに続く神秘的行為なぞ夢の中ですらしたことのない、ピュアな少年であった。
ゆえに私はそのフラストレーションを全て勉学につぎ込み、共学に通っている男子たちを睥睨し、貴君らは猿のようにいちゃこらさっさしておけばよい、その間に私は一人ネクストステージに到達するとひとりごち、一心不乱に自習室に向かい、ネルヴァトラヤヌスハドリアヌスアントニヌス・ピウスマルクスアウレリウスアントニヌスとローマ五賢帝の呪詛を唱え続けていた。
私は礼節をわきまえた人間である故、誰も求めていない自分語りや自慢話などは一切しない。それはコミュニケーションとはサービスであるという信条を今に至るまで貫き通しているからである。しかし、私には見える。私には諸君らが浮かべるそれぞれの表情が見える。「そんな言ってるけど、本田君は一体どれほどの志望校に合格したの?」という知的好奇心を全面に私を見つめている表情が見えるのである。致し方ない。諸君らが欲するのであれば提示しよう。そんなに聞きたいのであれば。それがサービスというものだ。
慶應義塾大学法学部政治学科
慶應義塾大学経済学部
慶應義塾大学商学部
慶應義塾大学文学部
早稲田大学社会科学部
上智大学経営学部
立教大学経営学部
首都大学東京大学法学部
上記の大学に全て合格した時の私は舞いに舞い上がり、合格の瞬間に各ほうぼうからお祝いのメールが多数寄せられると思っていたが、実際に祝ってくれたのは、家族特にママと、よく行く美容院の担当さんだけであった。当時の私は自身の求心力の無さにみもだえながらも、我は選ばれし民なり!我は選ばれし民なり!と一人孤独に絶叫した。
今年もこの季節がやってくる。受験生諸君には、身体に気を付け、是非自分の本領を本番で発揮してほしい。幸運を祈る。