人の人生の最期との向き合い方〜心構えについて
私は日々、医師として、院長としてご自宅に訪問して診療を行っています。主に80-90代の高齢者で認知症や骨折して動けなくなった方ですが、若くして脳卒中となって倒れた方や難病を抱える方もおられます。その中でも常に癌の末期状態の患者さんを担当している状態がかれこれ開業してから3年を越え、毎月のようにお看取りに関わらせてもらってきました。
そうこうしている中で、自分の中に一定の方法論と言いますか、哲学的なところが経験的に身についてきたので、今回は、日常の診療や出来事について紹介しながら、いわゆる暗黙知をシェアしてみたいと思います。
まずは心構えについて。人の死と向き合うメンタリティが自分にあるかを問うてみると、個人的にスピリチュアルな深まりがあるかは言い切れないのですが、
誰かが水先案内人にならないといけない
といった覚悟というか気持ちが私自身の中にあります。多分、そこがポイントかなと振り返って思います。
最近は、病院側も癌の治療手段がなくなると在宅医療への切り替えを推進する傾向にあり、また病院ではなく自宅で過ごしたいと思う癌の末期状態の方が出会うのは、我々在宅医療をしている在宅医になります(もちろん看護師、薬剤師、介護職なども関わりますが、今回は在宅医療に携わる医師としての話なので、多職種で連携していく話についてはまたの機会に)。
ちなみに、死についての教養を深めようと思うと、お坊さんや牧師さんの語りがすごく参考になりますが、なかなか癌の治療手段がなくなった方が皆さんその時点で接することは難しい状況だと感じています(宗教がしっかりある方は別ですが)。
癌の末期状態の方々の感情は、事例によって本当に様々で、覚悟をして自ら在宅を選んでくる方もおられれば、戸惑いや悲嘆の中で在宅医療に切り替えられる方もおられます。いずれの状況でも関わる誰かが方向性を示していかなければ、そして時には導いていかなければ、人生の最期をどう過ごせばいいかわからないことになります。
この局面に直面した医療者が何を思うか。
ここで、死に直面する職業のメンタリティが問われるのだと思います。私の中では、治療やケア、というよりも水先案内人というキーワードがしっくりきて、だんだんとそのキーワードをもとに自分の中で覚悟が形成されてきました。覚悟が形成されると、そこには向き合う勇気が生まれ、患者さんやその家族の内面に少し踏み込もうと思えてくる。看取りのプロセスには、そういった向き合うことが大事なのだと思います。
つい先日みたドラマ「アンサングシンデレラ」で主人公 葵みどり(石原さとみ)のセリフの中に「いつまでたっても死に慣れない」といったような表現がありましたが、私の場合は、「誰かがやらなくてはいけない」と思うメンタリティが形成された結果、慣れるというと語弊があるかもしれませんが、専門職として日常的に死に直面するレディネスができたのだと思います。
このレディネス・準備状態については、どんな場面でも通ずるところがある気がします。例えば、レディネス・準備状態ができてこそ、仕事上の困難に立ち向かうことができるのでしょうし(経営者としても感じます)、勉強やスポーツ、キャリアについての場面でも覚悟を持って取り組むことで成果が生まれると実感するところがあります。
次回は、癌末期や看取りの場面での入り方についてシェアしてみたいと思います。