信号の岐阜設置とは
岐阜県では積極的に車灯の右側設置が行われる。
一体どのような意図があって右側設置が行われているのか考察する。
1.前提:通常設置とは
日本では車両は左側通行であるため、車灯を側柱式で設置する場合、一般的に左端に建柱しアームを用いて道路中央側へ設置する。
補助灯器が設置されている場合、Far side(交差点奥側)の灯器が左側に設置される。これを通常設置と呼ぶとする。
車灯(横型)の灯火配列は左からGYRである。
これは街路樹等で最も重要な灯火の赤が隠れない様にするための工夫である。これは車灯が左側に設置されている前提である。
2.右側設置(岐阜設置)とは
右側設置は通常設置を左右反転させたものであり、車灯を右端から設置する。
補助灯器が設置されている場合、Far sideの主灯器が右側、Near sideの補助灯器が左側に設置される。
右側設置は岐阜県以外の県で必ずしも見られないものではない。複雑な交差点形状で右側設置の方が見やすい場合や、細街路につき左右どちらからアームを伸ばしても視認性に大きな変化がない場合等では他県でも行われる。
しかし岐阜県では右側設置である必要性が低いと思われる場合でも右側設置が行われるため、一部の信号ファンの間ではこれを岐阜設置と呼んでいる。
岐阜県では角形灯器の右側設置も確認されており、少なくとも40年以上前から岐阜設置が行われていた可能性が高い。
近年では灯器や信号柱の更新時に通常設置に変更された交差点がある一方、岐阜設置に変更された交差点も見られる。
3.岐阜設置のメリット
岐阜県が右側設置にこだわる明確な理由は公開していないが、一般的に考えられるメリットを考える。
・右ハンドル車の運転席側
日本ではほとんどの車が右ハンドル車であるため、運転席からの視認性が良い。
・背の高い車両等で灯器が隠れづらい
車高が高いトラック等により前方の車灯が隠れる場合がある。岐阜設置では少し右にずれるため、車灯が隠れて見えない場合が少ない。ただし交差点形状によっては逆効果なケースもある。
・右折レーンから灯器が見易い
右折レーンから左側の車灯が見づらい場合がある。岐阜設置では右折レーンからほぼ直線的に車灯を見ることができる。
・車両と灯器の距離をより離せる
交差点の奥行きが短い場合や押ボタン式信号機の場合、通常設置では停止線と車灯の距離が十分取れない場合がある。岐阜設置の場合停止線と車灯の距離が伸び、視認性が改善される可能性がある。
なお23年度よりこのような場合に設置高を通常より600mm程度低い5,000mmで設置する事例が見られることから、岐阜設置も何らかの視認性に関する工夫である可能性は高いと思われる。
・低コスト
岐阜設置により信号柱を節約できる場合がある。複数の灯器を1本の信号柱にまとめたり、既設の電信柱・NTT柱などを借用することで建柱・維持コストを大きく削減できる。
また、制御機からの距離を短くすることで、ケーブル等も節約できる可能性がある。
実際令和5年度工事で改良されたとある交差点では減柱・電力会社柱設置のために通常設置から岐阜設置化された。
また、半感応式制御等で超音波式感知器又は超音波ドップラー式感知器を用いる場合、停止線上空に感知器を設置する必要がある。この柱を利用して車灯を設置すると岐阜設置にならざるを得ない。岐阜県では半感応式制御が激減したが、当時の名残で岐阜設置されている交差点も見られる。
誤認防止
信号交差点が密集している場合、全ての車灯が同じような位置に設置されていると、前後の灯火の見間違いや視界の固定化が考えられる。通常設置と岐阜設置をバランスよく分散させることでこれを防止できる可能性がある。
4.岐阜設置のデメリット
・(一部の交通において)視認性が悪い
日本は左側通行であるため、視認性が劣る場合がある。特に車道左端を走行するバイク・自転車等の二輪車からは車灯が遠く見づらい場合がある。
また、外車などの左ハンドル車からの視認性も悪い。
・混乱を招きやすい
他県では地形等でやむを得ない場合を除き右側設置は行われないことが多く、特に他県からのドライバーは混乱しやすい。
実際に非信号機ファンでも岐阜設置に疑問を持たれる方は少なくない。
・街路樹等で赤灯火が隠れる
車灯は街路樹等で最も重要な赤灯火が隠れない様に赤灯火は右に設けられている。これは通常設置が前提の工夫であるため、岐阜設置では街路樹等で赤灯火が隠れる可能性がある。
ただしアーム長が十分にある場合や街路樹が無い場合、管理が行き届いている場合は問題にならない。
5.岐阜設置が原因?とされる交通事故
2024年7月6日、愛知県豊橋市の二車線道路が交差する信号交差点で自動車同士の衝突事故が発生した。この事故は赤色の車の信号無視が原因であるが、この信号機の見落としについて一つの仮説が浮かんだ。
交通事故鑑定人・中島博史氏は、信号灯器が走行車線の上ではなく、反対車線に設置されている点が問題であると指摘している。この交差点を観察すると全ての車灯が右側設置、すなわち岐阜設置されている。
愛知県(というより岐阜県以外)では、右側設置はやむを得ない場合以外では採用されるケースは少ない。そのため混乱を招く、見落としが生じやすい可能性はある。しかしながら少なくとも右ハンドル車の運転席からの視界で、視認できないというのは考えづらい。また、右側設置が多い岐阜県で同様の事故が多発していないことを踏まえると、右側設置が原因と断定するには早計であると思われる。
6.まとめ
岐阜設置のメリット・デメリットについて考察した。明確な目的は明らかになっていないが、近年の更新や新設交差点でも行われていることを考えると何らかの意図があることは確実と思われる。
信号機の設置方法に注視すると、見慣れた交差点も面白いかもしれない。
※本記事は考察であり、警察等公共機関の発表ではありません。不必要な問い合わせはお避け下さい。
他に要因と思われる事柄がありましたら、是非コメント欄までお寄せ下さい。
2023.09.26:加筆修正
2024.06.12:加筆修正
2024.07.17:事故事例加筆
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