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ブラジルの備忘録16

備忘録16
女性に好かれる云々はこれが初めてではない。4年生大学に入る前、某女子短期大学のフランス語学科にいたのであるが、そこでも同様の問題があった。わたしは拒食症があって、高校2年生の時、学校を1ヶ月以上休まなければならず、医師からは、「このままだと命が危ない」とまで 言われた状態だったので、高校は受験校であったが、しばらく無理な勉強はやめていた。
小学校から学習塾に通って、かなりの勉強量をこなしてきたので、勉強をすることへの抵抗はなかったから、病気の回復期、両親から「勉強しろ」と言われなくなったのが、何か不自然で、反動で大学に入ってから死ぬ気で勉強した。当時、素人の高校生がパーソナリティを務める「おニャン子クラブ」が流行っていて、短大から帰ると、可愛い女の子たちが、「セーラー服を脱がさないで」という歌を歌っていて、「時代が変わったんだな」と思った。自分の高校は私達の代から、タータンチェックのスカートを制服にしていた。今は逆に、セーラー服の学校が少なくなり、ちょっとホッとしている。なぜかホッとしている。あれはただ好色な男性を喜ばせるような服装である感じもあり、私の同級生は頻繁に電車で痴漢に遭っていたからかもしれない。最も、タータンチェックになろうと、スカートの長さが短ければ、やはり痴漢に遭う確率は高いように思う。
私は短大の軽音楽部に入ると、ボーカルがやりたいという女子が多数いて、仕方なくドラムを担当していた。その後、なぜか、やり手がない部長になってしまったからだ。中学からブラスバンド部で打楽器担当であり、高校でも、個人でプロのドラマーの先生にドラムを習っていたので、もとよりドラムを叩いてビートをキープするくらいはできたが、当時、“杉山清貴とオメガトライブ”というバンドが大流行りで、その曲だけボーカルを取りたいというベーシストに変わって、ベースを弾いた時は、学校の勉強そっちのけでベースを勉強した。お陰でチョッパーベースも多少弾けるようになった。何時もそうだ。できないこと、それはできることの裏返しだ。やるかやらないかはその人次第だ。
そういう諸々があって、私は何しろ短大で頑張っていた。両親は私の大学、及び、各種学校等の進学は無理と諦めていたので、私が短大の試験に合格したその日、珍しく父も母に同行して、合格発表の立て看板の前にいた。私の名前を合格者の中に見つけると、母は危うく腰を抜かして、父に支えられたそうである。そんな思いをして入った学校。フランス文語学科は創設2年目で、同級生はフランス語を既に習っていた既習組10名と、新たにフランス語を習う私のような未修組10名の合計20人、他英文科が若干数の生徒を持って併設されていた小さな学校だった。残念ながら最近、廃校になったと聞いている。
短大時代、私は頑張っていた。今まで勉強したことがないフランス語。なんとか喋れるようになれないか、毎日、毎日必死にノートを取っていた。未修学組の同級生は皆私と同じ状況で、それぞれに必死だった。私は短大から他の大学への編入を念頭に、勉強ばかりしていたが、他の学生は、就職前の短大の2年という期間を謳歌したいと考えていたようで、授業中おもむろに寝ている学生もいた。
生徒Mである。アメリカ製の3つ穴の赤いバインダーを立てて、彼女はよくお化粧をしていたり、仮眠を取っていたりした。彼女は、当時のアンアンという雑誌に読書モデルとして頻繁に登場する美しい人であり、長身で、頭もとても賢い人で、難しいフランス語の文法も簡単に覚えることができた。ところが、入学して早々、彼女は運命の男性ともいうべき人に出会い、学業を疎かにせざるおえなかった。私は彼女がとても心配だった。短大は彼女の望んだ進路ではなかったようだ。
彼女の高校もかなりの進学校で優秀な人には違いないのだが、あまりフランス語に興味がないらしく、学校も休みがちだった。私は、自分に自信がない生徒で、マメにノートを取っていたので、あまりにも彼女が心配になった私は、試験前、全教科のノートを頼まれもしないのにコピーして彼女に渡した。

「これ、試験範囲だから、よかったら使って」。

彼女は非常に驚いたようで、「ありがとう」とは言ったものの、あまり感謝している様子がなく、何か余計なことをしたのだろうかと、余計に気になった。たしかに、彼女とはたまに話す程度で、あまり親しくなかったからだろう。試験が終わったある日、学食で昼食を取っていた時だと思う。彼女が近づいて来た。

「この間は、コピーどうもありがとう。ところで小俣さんって、女性に興味があるの」。

あまりにびっくりしたので、言葉がなかったが、

「いえ、全然。役に立ったのなら良かったです」、

とだけ応えた。
そのうち、彼女は本当にその運命の人と生活を共にする決断をしたようで、学校に来なくなり、退学して行った。

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