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●プラットフォーム時代のテクノロジー・ブランディング②(後編)

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●テクノロジー・ブランディングの戦略レイヤーを検討する

前編ではテクノロジー・ブランディングの事例や考え方を述べたが、実際に企業がテクノロジー・ブランディングを検討する際には、企業戦略から製品戦略まで、異なる戦略レイヤーが存在する(図1)。

図1:テクノロジーブランディングの戦略レイヤー

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①企業の目指す技術/開発方針・独自領域などを可視化(ブランド化)し、社内外認知と活動を加速化することで企業全体の組織能力として差別化を実現する
②独自の技術や成分をブランド化して投資を行うことで、効果的なライセンス/フランチャイズ事業の展開や、知財の資産価値向上・保護につなげる
③独自の製法や成分を積極的に可視化・訴求することで、製品のマーケティング上の差別化と付加価値向上を図る

特に近年では、事業や製品分野を横断したコア技術要素を①の企業ブランディングの重要な要素として、フィロソフィーや組織能力を可視化するために活用していく企業が増えている。例えば、かつての味の素の「アミノ酸」やトヨタの「ハイブリッド(PRIUS)」、スバルの「アイサイト(予防安全技術)」、明治乳業の「乳酸菌研究」や、IBMの「Cognitive Computing」などもこうした事例だといえよう。

単発の製品サービスを超えた技術や能力への信頼性や先進性、企業の技術思想やビジョンを伝え、そして中長期的な成長期待と株主価値を高めて投資を促すという観点からも、テクノロジー・ブランディングは効果的なアプローチとなるからだ。

もう一方で、③の製品サービスの差別化の鍵として、技術要素をブランド化することで価値を込めていくアプローチも増加している。消費財企業もコモディティ化を防ぐため、新たなテクノロジーによる付加価値創造を加速させている。

例えばP&Gは、P&G Life Labというイノベーション組織を立ち上げ、テクノロジー起点の新たなサブブランド展開を行い、近年米国のCES(Consumer Electronics Show)などでも発表を行いながら市場導入を進めている。P&Gはテクノロジー・ブランディングを通じて、日用品のカテゴリ再定義とブランド体験価値の強化を図っているのだ(図2)

図2: P&G Life Labによるテクノロジー起点の新ブランド展開(CES 2020より)

テクノロジー②図2

●プラットフォーム時代のテクノロジー・ブランディングの戦略変化

デジタル・トランスフォーメーションによって、技術のソフト化とプラットフォーム化がますます進んでいる。このことはテクノロジー・ブランディング戦略にも大きな変化をもたらしている。

何よりもデジタル化とは、今まで製品の要素として目に見えなかったテクノロジーそのものがソリューション化し、ユーザー体験として前面に出てくることだ。その戦略変化の5つの視点を整理してみよう。

①製品単体の機能や便益から、総合的なソリューション価値や信頼性・拡張性へ

例えば、コマツの機械稼働管理システム「KOMTRUX」は、建設機械に取り付けた機器から、車両の位置や稼働時間、稼働状況などの情報を提供するシステムで、B2Bのサブスク型のサービスの先行事例として知られている。

KOMTRUXはデータを活用して故障の察知や作業効率把握・利用最適化など、様々なソリューションの拡張を行なっている。すなわちプラットフォーム型のテクノロジーは、ブランド価値の拡張性が高く、個別便益よりも技術や企業の信頼性に基づく関係価値(例:データによるカスタマイズなど)が重要となる。

②価値の拡張性とブランド体系設計の検討

また企業にとっては、テクノロジーを独自の製品便益〜総合的ソリューションまで、どのレベルでブランド化し、体系を設計するかの検討が重要となる。

例えば花王の「ファインファイバー」は、直径が1ミクロン以下の極細繊維を肌に直接ふきつけることで、軽く、やわらかく、自然な積層型極薄膜を肌表面につくる新たなテクノロジーだ。スキンケアの美容製品から展開が始まったが、肌の保護、シワやシミのカバーから医療用など、幅広い用途が期待されている。

現在は複数のブランド個別にテクノロジー製品の展開を行なっているが、「ファインファイバー」のテクノロジー・ブランドを軸に、総合的なソリューション価値を蓄積していく方が効果的かも知れない。

③テクノロジー製品のパッケージ価値から、使用/体験価値へ

例えば、アドビが提供する「Adobe Creative Cloud」は、グラフィックデザイン及び動画編集、ウェブデザインのアプリ・ソフトウェアをサブスク方式で利用できるサービスである。従来のパッケージ製品の購買から、クラウドのプラットフォームサービスへの転換を果たすことで、いつでも最先端の製品がマルチ端末でシームレスに使える利便性とユーザー体験を高め、大きな成功を収めている。特にタッチセンサーに対応した直感的なインターフェイスは革新的だ。

あるいはグーグルの検索サービスやグーグルマップなどは、テクノロジーの優越性はもちろん、シンプルで驚きと親しみのある、独自のブランド体験を創造することで強力な差別化を実現してきた。

ソフトサービスのテクノロジー・ブランディングにおいては、製品の購買・所有モデルとは異なり、使用が契約前の第一歩となるため、ユーザー体験に基づく満足度や評判がますます重要となる。そこでは顧客視点のUXはもちろん、独自性のあるポジティブな「ブランド体験」こそが、ブランディングの鍵となるのだ。

④テクノロジーを顧客と結びつける、ストーリーテリングの重要性

今日、テクノロジーは社会課題解決を実現する手段として認識されており、生産性や効率化だけではなく、より大きな社会・生活ビジョンを提案していくことが必要だ。テスラがEVの技術競争を超えて顧客に支持されるのは、未来の環境問題への貢献と、自動車の産業構造を変えるビジョンを、効果的なストーリーテリングで提案しているからだ。

あるいは、ソニーが発表した新たなモビリティ「VISION-S」のコンセプトは、安心・安全はもちろん、モビリティの快適さやエンタテインメント性も追求する、モビリティに対するソニーらしいビジョンを表しており、多くの共感を獲得している。

また、アップルが最高のお手本を見せてくれるように、技術や機能・スペックの優越性を訴求するメッセージではなく、顧客が技術や製品使用に“煩わされなくなる”メッセージが、より重要になっている点も指摘しておきたい。

⑤ブランド教育とアンバサダー育成を、テクノロジー・ブランディングの中核に

複雑化する今日のテクノロジー・ブランディングにおいて、ユーザーの課題解決や体験価値を高める上で「ブランド教育」の重要性がますます増している。短期的なプロモーションにとどまらず、テクノロジーの利用法やユースケースなどの教育コンテンツを地道に提供し、カスタマーサクセスを第一に目指して、教育プログラムをブランディングの中心に据えている企業は、継続的にファンベースを増やしている。問題は、今までハード型のテクノロジー製品の売り切りモデルを行なってきたメーカーが、こうした教育を重要なブランディングプロセスとして認識していないことだ。

また、アップルやグーグル、セールスフォースを見れば明らかなように、アンバサダー(熱心な推奨者)のコミュニティを形成し、顧客やパートナーをブランディングの主体として育てていくことが、プラットフォーム時代のテクノロジー・ブランディングにおいて成功に不可欠な道筋であることは、いくら強調しても過ぎることはない。

https://newscape.co.jp/2021/02/22/techbranding2/

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