The Glasgow School of Artで何を学んだのか振り返る
こんにちは。イギリス(スコットランド)にある大学、The Glasgow School of Artでサービスデザインを勉強し、卒業した大倉です。
卒業して気づいたら4ヶ月ほど経とうとしています。無事卒業ビザも取得し、明日、グラスゴーからロンドンへ移住します。そのようなタイミングなので、忘れないうちに1年の学びについてまとめ記事を書くことにしました。
今回の記事は、社会問題をデザインの対象として扱うThe Glasgow School of Artで何を学んだのか、そして、今後の方向性についてなどお伝えできたらと思います。
デザインリサーチや、サービスデザインについて興味がある方やイギリスへのデザイン留学に興味がある方のお役に立てば幸いです。
The Glasgow School of Artでの学び
1. サービスデザインを社会へのインパクトのために使う方法
私がThe Glasgow School of Artに惹かれた理由は、デザインを社会問題のために使うことに注力している大学だからです。学長が社会学者であるためか、扱うトピックは、
環境問題、教育、貧困、健康、依存症、心の健康、格差問題、政治の二極化
といったトピックでした。
コース全体を通して、以下のような内容について、実際のプロジェクトと座学、ゲスト講師の授業を通して理解を深めました。
なぜ、社会問題に向き合う必要があるのか?(別記事で詳しく書く予定)
サービスデザインを、社会を変えるため、もしくは新しい視点を世の中に広めるために使う時、どのようにプロジェクトを進め、どのようなアウトプットを出したらいいのか?(別記事で詳しく書く予定)
リサーチの組み立て方(別記事で詳しく書く予定)
私が経験した実際のプロジェクト例を挙げると、食依存、アクティブジャーニー、国民保険の機関(NHS 24)との新しいサービスを生み出すプロジェクト、イギリスの難民のキャリアなどがありました。
1年間、複雑な社会問題に向き合うことに大変さを感じつつも、非常に濃い経験をしたのだなと改めて実感しています。
2. デザイナーとしてのマインドセット
二つ目の大きな学びはマインドセットです。コースを通して学んだことは、サービスデザイナーの役割が
多様な人や地球そのものが繁栄する世界を作っていくこと
である、ということです。
逆に言えば、今の世の中の仕組みのために、人類は様々な社会問題に直面していると言えるでしょう。そのような現状を打破する手段として、ドーナッツ経済学、サーキュラーエコノミー、Regenerativeデザインなどの言葉がデザイン界隈で言われだしているのではないでしょうか。
私がコースを通して学んだマインドセットは以下の2つです。
1. Human-centred, Life-centred Design
私たちデザイナーは、デザインしたサービスやプロダクトが、人々や地球環境にどのような影響を与えるのかを考慮しながらデザインする必要がある
デザイナーが倫理観を持っていないと、利益だけを追求し、人々や地球環境に悪影響を及ぼすダークパターンのデザインに陥ってしまいがちです。情報がすぐに広まり、競合も多くいる現代では、そのようなサービスは人々からの信頼を失い、ビジネス的にも結果的にマイナスになっていくと言えるでしょう。
2. Inclusiveness and equity
Inclusivness - 多様なバックグラウンドの人を考慮し、一部の人だけでなく、多くの人が使えるものをデザインする
イギリスには、ヨーロッパ各地の人だけでなく、さまざまな国からきた人、難民としてイギリスにきた人などが暮らしています。それだけでなく、ジェンダー、肌の色、学歴、市民権、生まれつきの脳の働き方の違い(Neuro diversity)、収入などを考慮すると、一人一人持っている特権が大きく異なることに気づくはずです。一部の人だけが恩恵を受けるものではなく、多様な人が使えるように考慮することが必要だと言えるでしょう。
Equity - 特権を持っていない人でも特権を持っている人と同じ世界を経験できるように補助をするサービスをデザインする
生まれつきの特権を持っていない人にとって、他の特権を持っている人と同じ世界を経験することは容易ではありません。彼らが更に繁栄できるような世界にするためには、特権を持っている人と同じ世界を経験できるようにするためのサービスをデザインしていくことが必要です。
直接人と関わるデザイナーやリサーチャーは、人々と直接関わる前に、自分の持っている特権やバイアスに気づく必要があること
人は誰もがバイアスを持っています。直接人々と関わり合うデザイナーは、自身のバイアスや特権に気づき、それを考慮した上で、デザインプロセスに参加する人々が安心感を持てるような環境を作る必要があります。
参考記事
3. 多様なバックグラウンドの人と一緒にデザインする経験
多様なバックグランドの人を考慮したサービスを作るには、多様な人を巻き込んでデザインすることが必要不可欠です。特に、そのサービスが多くの人に関わるサービスの場合、彼らの視点がないと、一部の人しか恩恵を受けられないような偏ったサービスになりがちです。
多様な国籍、年齢、仕事のバックグランドの人と一緒にプロジェクトを回す経験は、大変なこともありながらも、多くの学びがありました。多様な意見や視点がある分、スムーズに行かないこともありましたが、お互いの意見を聞き、尊重し、理解する姿勢、そして人格と意見を切り離しながら、プロジェクトをより良い方向に導くために議論をしているという心持ちの重要性をより実感しました。
4. 感覚に訴えるプレゼンテーション
元々が応用化学というゴリゴリ理系の勉強をしており、その後営業としてビジネス畑で働いていた身からすると、視覚的に、そして感覚的に情報を伝えるということにまだ慣れておらず、初めはかなり苦労しました。
コースを通して、ストーリーテリング、インフォグラフィックデザインなどについて改めて深く考え、学べました。コースを通して、ロジックだけではなく感覚に訴えながら人々に伝えることが持つパワーにも気付かされました。
参考記事
卒業した今、次に目指したいこと
1年間のコースを終えた今、次の目標として、イギリスのデザイン会社でサービスデザイナー、もしくはデザインリサーチャーとして働きたいと考えています。イギリスで何を経験したいのか?主には以下の2つです。
1. 社会インパクトのためのデザイン
Well-being、環境、生活に影響を与える領域でデザインをしてみたいと思っています。
その中で、政府とのデザインは気になる領域です。イギリスでは、政府とのデザインの際に、GDSと言われる基準に沿ってデザインすることが必須となっているため、GDSに沿ったデザインの経験をしたいと考えています。
また、政府とのデザインは世の多くの人に影響を与えるため、インクルーシブ、公平、アクセシビリティを考慮したデザインが必須となっており、この領域も経験してみたいと考えています。
2. 多様な人と一緒にデザインする
多様な人が暮らすイギリスで、様々なバックグラウンドの人と一緒にデザインすることで、よりインクルーシブでイノベーティブなサービス、プロダクトを作っていきたいと思っています。
また、多様な視点を学び、自分のバイアスや特権というものに気づいていくことが、多様な人が住む国でデザインする時に必要不可欠です。人としてもデザイナーとしても、更に視野の広い人となっていけたらと考えています。
イギリスでの就活はわからないことだらけで苦労していますが、ようやく色々と見えてきたところです。無事仕事が決まったら、就活のまとめ記事も書こうと思います!