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江戸っ子と転スラから学ぶ、名前を与えることの意味
東京生まれ東京育ちですが、それを意味する名称の一つに「江戸っ子」があります。以前、江戸っ子のおやじさんと話していたときに「いやあ、江戸っ子の話し方だね」って言われたことがあり、「あ、やっぱりそうですか」って恥ずかしくも嬉しくなったことがあります。
3代以上にならないと江戸っ子じゃないとか、「ひ」と「し」が言えないとか、宵越しの金は持たねぇとか、無駄に「っ」が多いとか…いろいろ条件はあるようです。でも、東京で生まれたからといって江戸っ子とは言えないし、多くの人は東京で生まれただけで江戸っ子って言われちゃかなわん、と思うことでしょう。
大きな都市では、そこに住む人のことを指す名前があります。例えば、ニューヨーカー、パリジャン/パリジェンヌ。では東京は?・・・東京人?でも、誰も「私東京人です」なんて言いません。江戸っ子ではない東京生まれの人を指す言葉があるといいのに、あればもっと首都東京に都民の関心が向くのに、東京に対するシビックプライドも生まれてくるかもしれないのに…と思っています。
集団に特別な名前があることって、共感を持たせたり、愛着を持たせる上で、非常に重要なことだと思います。
アーティストのファンの場合、BTSにはARMY、ももクロにはモモノフという名がついていて、私=ARMY、私=モノノフ、というアイデンティティを持つのに、とても役立っています。
プロスポーツでは、女性ファンに名がついています。ソフトバンクではタカガール、オリックスはオリ姫、阪神はTORACO。球場がピンク色に染まるタカガールデーを作ったホークスは、女性ファンが急増しました。自分たちに名前があることで、自己認識からアイデンティティになると同時に、外部からの認知がされ、拡散しやすくなったのも、ファンが増えた一因だと思います。
さらに、アニメを見てていると、よくできているなあ、と感心することがあります。
「夏目友人帳」では、名前を返してあげることで妖怪たちが本来の自分を取り戻します。戻してあげると夏目は極度に疲労してしまいます。「転スラ」では、魔物に名前を与えたリムルは、魔素を使いすぎてしばらくスリープモードになってしまいますが、逆に名前をもらった魔物たちは容姿が変化し、強くなります。
ここから言えるのは、
名前を与えるということは、大きな価値のあること
ということです。大きな価値を与えるからこそ、与えた側は疲れてしまうという構図になっているわけです。もちろん名前を付けるという行為は、プラスばかりでなく、嫌な屈辱的な名前を付与されてしまえは、それがマイナスに働いてしまうでしょう。かつて、シャネル好きの人のことを指すシャネラーという名前がありましたが、これには高額な商品を買って散財している人という、外から見た侮蔑的な意味合いが含まれていたように思います。そうではなく、自分たちの名前として好ましく誇りを持てるような名前であるべきです。
近年、顧客との共創や顧客コミュニティの重要性が注目されています。DXによって顧客コミュニケーションの方法や頻度も多様化しています。これまで以上に、会社と顧客、ブランドと顧客、チームとファン、アーティストとファンの距離が近くなっています。
そこで、コアなエンゲージメントの高い顧客を指す素敵な名前を考えてみてはどうでしょう。あなたたちは「顧客」でも「ファン」でもなく、「〇〇」です、と敬意を持って言える名前にするのです。そうすることで、きっと顧客は、私=〇〇と認知し、大きな力を得ることができると思います。企業の目的は、「顧客を創造すること」だと言ったのはドラッガーでした。創造するだけでなく、顧客を育てることも今は重要かと思います。